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霊の心  作者: タナカ
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第47話 結城の考え



「……やばい」


 自分はどうかしてしまったんだろうか。

 響太は血の気のひいた顔色で、ふらふらと町中の雑踏を歩いていた。

 ここ最近、自分の周りで多発している心霊体験を思い出していたのだ。

 頭が狂ってしまったのか、それとも霊の仕業なのか。

 どちらにしろ、もはや忘れてしまおうとか勘違いだろとかですませられない事態になっていた。


(………どうしよう)


 身体がどうしてもふらついてしまう。

 生来のお化け嫌いが、自分の体験した未知の現象に対して余計に恐怖を助長させた。

 深春のこと、千秋のこと、いろんなことが思考の脇に置かれ、響太はただただこう思った。


(………怖い)


 これからどうなってしまうのか。

 そう考えながら下を向き、前にほとんど注意を払っていなかったので。


 ドンッ


 通行人にぶつかってしまった。


「すいませ……あ」


 ぶつかった相手は、学ランをホックまで止めて真面目に着こなしている男、結城だった。


「………ん?」


 結城は響太を見ると、少し驚いた顔をした。


「どうした? 顔色が悪いぞ」

「あ………いや、別に」


 そう言い返しながら、


(………そうだ)


 結城に全部話してしまおうかと考えた。

 だけど、どう話す?

 幽霊の被害にあってるんだ助けてくれ、と正直に言うか? いくら結城でもそんな言葉を信じるわけがない。

 下手しなくても頭を疑われそうだ。

 ……しかし。

 響太はこのまま黙っていることができなかった。


「なぁ、結城」

「なんだ?」


 響太は努めて何気ない風を装いながら尋ねた。


「幽霊って、お前信じる?」

「幽霊?」


 結城は興味深げにめがねを光らせた。


「………そうだな」


 結城は視線を斜め下に落とし、語り始めた。


「人は心という概念を説明するために、魂という概念を作り出した」

「は?」


 結城の言葉がよくわからなくて聞き返す。

 しかし結城は響太に頓着した様子も見せずに言葉を続けた。


「そして魂という概念は幽霊という存在を作り出した。だが……」

 

 結城はくいっとめがねのふちを持ち上げた。


「今では心はどこから来るのかという問いに、記憶、感情、神経などと密接なかかわりをを持つ脳がそれを作り出している、という説が主流になってきている。ゆえに脳の研究が進み幽霊の根幹をなす魂の概念が崩壊しかかっている現在、幽霊の概念も信じるにたりないものとなってきているのであり………」

「……つまり?」


 なんか話がややこしくなってきたので、単純に結論だけを求める響太。


「俺は幽霊を信じていない」

「……そっか」

 

 つまりは幽霊関係のことを結城に話しても無駄ということになる。

 やっぱ詳しいこと話さなくてよかったと安心しながらも、響太は落胆していた。


(………行くか)

 

 響太が肩を落として行こうとすると


「だから、真剣に相談がしたいのであれば、俺ではなくここの神主に聞いてみるといい」

 

 結城はポケットから手帳を出すと、その神を破りとってさらさらと書き始めた。

 書き終えると、それを響太に渡す。


「神主?」


 見ると、それはとある神社の住所だった。


「って京都!?」


(遠い!)


「ああ。京都の山奥にある神社でな。古ぼけてはいるが、加持祈祷などそう言った関連のことには評判がいいらしい」

「……お前、幽霊信じてなかったんじゃ?」


 神と結城の顔を交互に見ながら、響太は信じられない気持ちだった。


「俺はな。だがお前は少し違うのだろう」

「あ……」


 その瞬間響太は、結城が自分の言いたかったことを何となく察していて、それでいてそれを否定せずに真剣に考えてくれたのだということを理解した。

 結城は道路に置いていたバッグを肩に担いだ。


「少しはお前の助けになるかもしれん」

「……サンキュ」


 万感の思いを込めて響太はそう言った。


「別にかまわん」


 そのまま結城は雑踏の中に去っていった。

 響太はその後ろ姿をしばらく見送った。


「神社……ね」


 結城が渡してくれた紙片を見た。

 京都は遠いが、幸い明日は日曜日だ。

 自分の貯金を使って電車で行けば、どうにか日帰りできるだろう。


「………行ってみるか」


 加持祈祷などまともに信じたことは一度もない響太だったが。

 わらにもすがる思いで、そう決断した。



  

パソコンが壊れたせいで、今まで書いていた文書がいきなり使えなくなるという事態に陥りました。おかげでついに日をまたいでしまいましたorz。

今日ほど自分のパソコンをうらめしく思った日もないです。

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