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霊の心  作者: タナカ
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第43話 原因




 車に乗せられて来たところは、深春の妹、千秋が昏睡状態で入院している病院だった。


「う〜ん………。どうして病院ってこう気が滅入る感じなんだろうね」


 深春が苦笑した


「病院だからね。しょうがないんじゃない?」


 そして都は慣れた風に受付の人に挨拶した。

 深春の表情はどこか曇っていた。

 入院している千秋を見せたい、今回のことは、深春がそう言ってきたのが原因だった。


「もちろん、見ていて気持ちのいいものじゃないだろうね」


 道中の車の中で、深春は言った。


「だけど、やはり知っておいてもらいたいの。話しの中だけじゃなくて、響太くんにはちゃんと千秋を知っていて欲しいんだ」


 そう言っていた。

 ちなみにその言葉の後。


「深春ー。そこまで言わなくても大丈夫だって! 響太はちゃーんと分かってるから!!」

「まぁ、そうだね………?」

「なんで私を見て戸惑う!!」

「………いや、都さんは微妙だなと」

「そんなことないもん!」

「…………てか母さん。なんでそんなに公私のギャップが激しいの?」

「スイッチのオンオフって、普段の生活でとても大切だと思うのよ」

「つまり都さんのスイッチがオフになってる今は非常に頼りにならないと」

「なんだと―――!」


 ………てな感じの会話があったそうな。


 病院内には、独特の雰囲気が漂っていた。こざっぱりとしていて、そしてどこか緊張感の漂った様子。


「千秋の病室はこっち」


 深春に案内されて、ほのかに消毒液の匂いが香る廊下を歩く。

 そして5階にある千秋の病室の前に立った。

 スライド式になっている重苦しいドアの前で響太は少し緊張する

 響太は顔を強張らせながら、中に入った。


「…………この子が」


 その個室のベッドには、薄く夕日に照らされた髪の長い少女が眠っていた。

 少し小さいが深春によく似た子で、肌が真っ白だった。まるでこの世の住人じゃないような感じがする。


「…………本当に眠っているみたいだね」


 気遣いからではなく本心で、響太はそう言った。


「揺すれば起きちゃいそうなんだけど………」


 深春はベッドのそばの椅子に腰掛ける。


「植物状態ってやつね」


 都が花瓶の水を変えながら言った。


「ここ5年間、ずっとね」


 生けられている花が萎れずピンとしていることや、この病室の隅々まで掃除が行き届いていることから見ても、深春が毎日ここを訪れて千秋の世話をしていたことがわかった。


「………」


 ………起こそうとすれば、起きそうなのに。

 そう思って響太が千秋の顔を覗きこむと。


(………あれ?

 この子、見覚えがある?)


 深春に似ているということだけではなく。

 どこか………






 ………お姉ちゃん






「え……?」


 深春でも都でもない、少女の声が聞こえた気がした。


(………誰?)


 心でそう問いかけた瞬間。

 世界が真っ白に染まった。
















(………これは)


 いつぞや見た、ショッピングセンターの玩具売り場の風景だった。

 そしていつもと違い、響太の意識ははっきりしていた。 


『おねーちゃーん! 早く!』


 声の主がはしゃぎながら手を振っている。

 そして視線の先には……


『もう、そんなに慌ててたら転ぶわよ、千秋』


(あ………この人………深春?)


 中学生ぐらいで顔立ちは幼いが、凛々しい面立ちが深春の幼い頃だと確信させた。


『あ、これこれ! ねーこれ買って?』


 見覚えのあるショッピングセンターで、幼い姉妹がはしゃいでいる、そういう状況だろうか。


『これー? うーん、ちょっと予算オーバーしそうだなあ……』


 かわいらしい人形の前で、深春が困った顔をしていた。


『えー! いいでしょー! これ前からずっと欲しかったんだよー!』

『うぬぬ……けどこの人形の値札、○が1個多くない? おばちゃーん、どうにか安くならない、コレ?』

『あはは、商店街の八百屋じゃないんだからさ。そう簡単に値切るなんてできないわよ』   

 恰幅のいいおばさんがころころ笑う。

 そうしていた時だった。


 ズズズズズ!


 急に視界がぶれる。

 いつもはここで意識が無くなるのだが、今回は状況を確認する余裕があった。

 そして視界がぶれる原因を理解した。

 ショッピングセンター全体が大きく揺れだしているのだ。


(地震だ!)


 そう思うと同時に、響太の脳裏にある事件が呼び起こされた。


(これ………もしかして5年前の) 


「きゃあああ!」


 そこら中で悲鳴が聞こえる。

 ガラスは割れ品物が倒れ、


 ぐらっ


「千秋―――――!」


 千秋は悲鳴を発する暇も無かった。

 そしてそのまま巨大な商品棚に押しつぶされた。











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