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霊の心  作者: タナカ
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第41話 校舎裏で




 4時間目の数学、つまり都の担当する授業だった。

 都は教師をすることはほぼ突然決まったことであるにもかかわらず、


「今日は78ページからだったわね」


 とすでに授業進度を把握し、わかりやすいプリントと無理のない進め方で授業をやってのけた。


(………こっちが本職じゃないよな)


 変わった授業をやるでもなく、ものすごく気合を入れてやるでもなく、ただただ地味に教科書に沿って進めるだけだった。しかしだからといって手を抜いているわけではなく、時折この問題はこの大学でよく出たとか、この知識はここで使うんだとか、そういう教科書を読んでるだけではわからないためになる情報を、うまく織り交ぜながら授業をしていた。


 ………つまりは普通にうまかった。

 4時間目終了後。


(……とにかく、母さんからいろいろ聞きださないと)


「あ、あの………」


 妙な話しかけづらさを感じながら、響太は都に話しかけた。


「なに?」

「せんせー!」


 ぽっちゃりした健康そうな女、長谷沙紀が話に割り込んできた。


「私たちと一緒にお弁当食べませんかー?」


 その後ろには、10数名の女子たちがきらきらした目で都を見ていた。


「転校してきたお2人について、いろいろ知りたいんですー!」


 女子たちの中には囲まれて苦笑している深春がいた。

 ちなみに中には「おね……じゃなかった、深冬さぁ〜ん!」と言いながら深春に巻きついている、鳴美もいる。


「それは別に構わないけど……」


 そう言いながら、都はちらりと響太を見た。


「ん? 響太くんも一緒に食べる?」


 長谷は意地悪そうに聞いてきた。


「う………」 


 ………さすがに、10数名の女子のの中に入る勇気は、響太になかった。


「………1人で食べます」

「あらそう? ざ〜んね〜ん!」


(くそぅ……)


 長谷の嬉しそうな声を聞きながら、響太は弁当を持って外に出た。 













 響太は校舎裏で1人寂しく弁当を広げようとして……


「にゅ〜」

「お?」


 真っ白でふわふわなものが足元にじゃれついてきた。


「猫吉か」

「みゅ〜」


 猫吉は尻尾を立てて上機嫌に鳴いていた。

 前足には動物病院に行った後なのか、包帯がぐるぐると巻かれていた。


(………深春さんが連れてったのかな?)


「………………」


 響太は微笑みながらコンクリートの上に座り込むと、弁当を開けた。


「にゅ〜!」

「欲しいのか?」


 猫吉が弁当に顔を覗きこんでくるので、一応からあげを細切れにしてあげてみると、猫吉はつっついたりなめたりして苦戦しながらも食べ始めた。


「おー、もう食えるようになったんだな」


 我が子を見守っているような気になりながら、響太は真っ白な頭をなでていると。


「あ、あれ? こんなところにいたんだ」

「ん?」


 弁当を抱えた紀子がそこにいた。

 校舎の影で隠れて表情はよく見えないが、急いで探していたのか息があがってる気はする。


「あ………」


(忘れてた。そういや一緒に弁当食べようって約束してたっけ)


「お、猫吉〜!」


 気まずそうな響太を気にもせず、紀子は猫吉をはさんで響太の隣に座りこんだ。


「にゅ〜」


 紀子になでられて、ごろごろと嬉しそうに喉をならす猫吉。

 2人ともどこかほんわかした、優しい気持ちになっていた。


「ほら、交換しよ」

「あ、ああ」


 紀子は自然な仕草で響太と弁当を交換した。


「今日はちょっと頑張ったんだから」


 まぁ響太には負けるけどね〜、と紀子は頬をほんのり染めて笑った。


「……そっか」


 響太は昨日より緊張が安らぎ、かわりに暖かくなった空気を感じながら。

 桃色のかわいらしい包みの弁当箱を開けた。  













 放課後の帰り道のこと。

 紀子、健、結城たち部活組と違って帰宅部である響太は、ぼーっとしながら夕暮れの道を歩いていた。 

 その時、綺麗な黒髪をなびかせ、息を切らせながら走ってくる人影があった。

 それが誰かわかった瞬間、どきりとした。


「深春」

「はぁっ、はぁっ……」


 深春は響太に追いつくと、ふぅ〜、っと息をはいた。


「もぉ大変だったよ。転校生ってことでさ、話しかけてくれるのは嬉しいんだけど中々出られなくて………」

「それはまた……」


 同情する傍ら、響太は夕日に照らされたその横顔を見るのが恥ずかしくて、視線をそらした。


(いかん! これじゃどこぞの純情ボーイだ! ……けどしゃーないじゃん! 相手アイドルだし!)


「ねぇ、響太くん」

「……なに?」


 響太が努めて平静を装いながら言うと、深春は真剣な顔を響太に向けた。


「ちょっと………付き合って欲しいところがあるの」











………こんな青春送りたかったなぁ、と灰色の高校生活を思い出します。

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