第32話 救助
帰り道の、閑静な住宅街。
辺りも薄暗くなり、響太は買い物袋片手に、未だにぶつぶつ言いながら歩いていた。
「みゅ〜………」
「………ん?」
(今何か聞こえなかったか? 猫?)
辺りを見まわしてみるが、薄暗く視界が悪いことも重なってか、何も見つからなかった。
「気のせいかな………けどもしもってこともあるし」
念のため、と思って響太は声が聞こえた気がする方向へ行ってみる。
「みゅ〜………」
(やっぱり聞こえる)
薄暗くてよく見えないが、響太は声のした方を覗きこんだ。
そこは狭い路地だった。
家と家の間のわずかな小道。
響太はとりあえずと思いその小道を横歩きに入っていった。
歩いていると両肩が壁に擦れる。
「なにげに俺、不審者?」
(………いや。考えない考えない)
進んでいくと、その道は電柱のせいで行き止まりになっていた。
やっぱり気のせいだったかと思ったが………
(………お)
電柱の影で小猫がぐったりと倒れていた。
「………って猫吉!」
そこには全身が真っ白な子猫、猫吉がいた。
猫吉は自分の足を投げ出した状態で、こちらを見上げもう1度、みゅ〜、と鳴いた。
「………怪我してんのか」
よく見ると、前の右足が異様に膨れ上がっていた。
………が。
(………あれ? 猫ってこの程度の怪我なら歩けるはず………)
実際、前足を怪我した状態でぴょこぴょこ歩いている野良猫を、響太は見たことがあった。
しかし猫吉は「痛くて動けない〜!」という感じで、こちらを見上げている。
(………ま、いっか。個体差があるんだろ)
「とにかく連れて帰るか」
そう決めると、響太は猫吉をそっと抱き上げた。
自宅に帰ると、時計は午後6時を指していた。
家には当たり前だが、誰も帰っている様子はない。
「……バスタオルー!」
猫吉が弱っていたので、そういいながら急いでタオルを用意した。
フローリングの床にタオルを敷き、さらにその上に猫吉を寝かしつける。
「暖めるためには………未だに出してる………ストーブー!」
ぱぱらっぱぱー。
と1人でらっぱの音を再現してみるが、すぐに自己嫌悪に陥る。
(………馬鹿言ってないでさっさと猫吉を温めよう。このまま弱って死んでしまったら後味が悪い。原因は俺のギャグによる凍死………笑えないって!)
ストーブのスイッチを入れると、ぴーっというストーブの音と共に
くきゅるるる………
と腹の音がした。
「………みゅう」
「腹がへってるわけな」
響太は猫用の粉ミルクを取り出すと、それをお湯でわって小皿に入れ、猫吉に与えた。
………が。動けないらしく、小皿の方に顔だけ向けてものほしそうに「みゅ〜」と鳴いた。
しょうがなく小皿を近づけてやると、猫吉はものの見事に小皿をこかし、バスタオルをミルクまみれにしてくれた。
「うわっ!」
すぐにタオルを取り替え、新しいタオルの上に猫吉を寝かせる。
(………1人で飲めないと)
しかし猫用の哺乳瓶などさすがに持っていない。
響太はどうしようかと頭を悩ませ、結果、ストローを使うことにした。
ストローにミルクを入れ、そのかたっぽを指で蓋することによりミルクをその中にとどめておける。
これで即席の哺乳瓶のできあがりだ。
………某アニメ『あ●いぐまラ●カル』からの知識だったりする。
そのストローを猫吉に近づける。すると、
ちゅばちゅばちゅー……ごっくん
てな感じで勢いよくミルクを飲み始めた。
そしてすぐにストローの中身をカラにする。
「みゅ〜………」
なんかつぶらな瞳でこちらを見つめてきた。
(………おかわりね)
やれやれと思いながら、再びストローにミルクを入れる。
響太はほわほわと優しい気持ちになりながら、しばらくそうして猫吉にミルクを与えた。
しばらく、とても心地のよい時間が続いた。
………が。
「ただいまー」
玄関から声が聞こえた。
「げ!」
今この場に最も居て欲しくない人物。
この家の主にして大の猫嫌いの、都が帰ってきたのだった。、