第29話 白衣の天使
5限目は体育だ。
ちなみにまたバレーである。いつもなら楽しくやっているのだが、疲れて腹がすいていた響太には、地獄のような時間だ。
(ぐあー………腹がー………)
とか考えながらボールをトスしていると、
「あー、いたいた!」
と紀子の友人、長谷沙紀が物陰から声をかけてきた。
「なに?」
珍しいと思いながら響太は長谷に近づいた。
女子は確かソフトだったはずだ。
「ほい、これ。紀子からの手紙」
長谷は2つに折りたたんだかわいらしい紙を渡してきた。
「おお。サンキュ」
(なんで手紙? 直接口で言いに来いよ)
とか思いながら紙を開いて、響太はそのまま固まった。
『君の弁当は預かった。返して欲しくば、今すぐ保健室まで来るがよい。フハハハハ』
(………紀子のやつ)
響太が怒りで固まっていると、長谷が「せんせー!」と声をあげた。
「なんだ? というか女子はソフトじゃなかったか?」
「私は風邪ぎみなので見学なんです! それより山田くん、鼻がいたいから保健室に行きたいそうです!」
「おい! なんだそりゃ!」
強太がつっこむが、
「おお、そうか。じゃ、行ってこい山田」
前回鼻血を出していたので、あっさり了承された。
(………てかそんなんで休んでいいのか)
保健室までの道中。
「知らないの? 紀子は保健委員をやっててね。男子の仲では『白衣の癒し系天使』ってことで、有名よ?」
「なんだその頭がいかれたネーミングは………そしてなんでその対象が紀子?」
長谷から冗談のような話を聞いていた。
それはナース服を着た紀子の話だった。
(…………が。興味はあるな。ナース服を着た紀子………)
「く………ぷぷぷ」
「なーんで笑うかなー」
「ぷくく………だってさー」
(似合ってなさすぎ!)
そのミスマッチな光景を想像して響太は腹を押さえた。
「そんなことないよ。綺麗だよ、ナース服の紀子」
「へーへー」
明らかに友人の贔屓目だと思いながら、響太は生返事をした。
そしてふと考え直した。
「って、実際にナース服着るわけないよなー」
着たらナースよりコスプレではないかと疑われる昨今だ。保健委員ってだけで着るわけがない。
………のだが。
「うふふふ………。甘いわね」
長谷が含み笑いをした。
「保健の照美先生はね、かわいい子が大好きなの!」
照美先生って………と響太は一瞬考えるが、ああ、前に俺に人体実験をしてくれた先生か………とすぐに思い至った。
(マッドサイエンティストな上かわいい子大好きなのか。
………保健室、行きたかね―――!!)
「…………で、どんな関係があるんだ。その先生の女好きと紀子と」
「いや……女好きって………かわいい子が好きなだけで………。レズじゃないんだし。まあ、いいわ。それでね。自分の気に入った子は問答無用で着飾ってるのよ!」
(…………なるほど。それでナース服か)
「とまあ、そういうわけで、保健室にいけば白衣の天使、紀子に会えるわよ」
「紀子が天使かどうかはともかく…………ついでに、人体実験もされそうだけどな」
「あはは! 違いないわね!」
そう言っていると、保健室の前の廊下まで来た。
「じゃ、私はそろそろグラウンドに戻るけど………」
「お、そうか!」
知らず知らずに声のテンションがあがる響太。
「だ・け・ど!」
長谷がずいっと、迫ってくる。
「ちゃんと行きなさいよ。紀子に待ちぼうけくらわせるなんて、許さないから……」
「………へーへー」
このまま購買に行こうかと思っていた響太は、小さく舌打ちした。
そして、扉を開けると。
「…………………………」
「…………………………」
保健室は、沈黙で支配されていた。
響太は呆然と紀子を見ていた。
紀子も呆然と響太を見ていた。
だが、それは紀子がナース服を着ていたからじゃない。
いや、着てはいた、しかもミニスカの、ナース服を冒涜してそうなやつだったのだが………まあ、それはこの際置いておく。
紀子は服に手をかけたままで止まっていた。
意外と綺麗な肌と、そこからちらりと白い下着が見えて………ああ、もう。正直に言おう。
ナース服脱ぎかけの状態だった。
「きゃあああああああ!」
「し、失礼しましたあ!」
何かデジャビュを感じながら、響太は保健室から急いで出た。