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霊の心  作者: タナカ
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第2話 紀子の計画



「眠い………」


 今は入学式の最中である。

 1万人近い全校生徒を収容するために、体育館もそこらの学校の倍は広い。

 そして響太たちはその体育館の玄関に近く、舞台から最も遠い位置にいた。

 つまり、1番校長の声がぼやけて聞こえる位置にだ。

 しかも校長の話が始まってからそろそろ10分が経過しようとしていた。

 ゆえに響太だけでなく、他の生徒もたくさん眠そうにしている。


「zzzzz…………」


 ゴスッ!


「あたっ!」


 堂々といびきまでかいている(たける)に腹が立った響太は、健の脳天を思いきり殴るとそのまま知らんぷりした。


「な、なんだ! 先公か?」

「………………(無視)」


 こう所々で居眠り生徒が続出していること以外は、つつがなく静粛に式が進行していた。

 そして入学式の後は始業式、部活動紹介、新入生歓迎会、とイベントが目白押しだ。


(あー、だる………………)


 響太はこっくりこっくり船をこぎだした。









「やっと終わった………」


 ようやく入学式と始業式が済み、後は部活動紹介と新入生歓迎会だが、両方とも特に関わってないので、響太は楽にかまえていた。

 ちなみに健は野球部だ。「今年こそマネージャーゲットだぜ!」と、始業式が終わるやいなやすっ飛んでいった。


「帰宅部は楽でいいな」

「ん?」


 振り返ると、そこには黒メガネをかけた真面目そうな男が立っていた。


「まーな」


 このメガネは高村結城。成績も運動神経も顔も良いという腹立つ奴なのだが、あまりしゃべらないのが欠点だ。

 ただ、女子の中には「クールで良い!」とかいってラブレター送る奴が山ほどいるのだが……


「パソ部は何やるんだ?」

「人型メイドロボット・アイコのテストプレイだ」

「………またアキバ系の奴らが喜びそうな企画を」


 結城はパソコン部の部長で、ちょっとした機械の製作など理系のものにはめっぽう強く、パソコン部の実績のほとんどは結城が作り出したといっても過言ではなかった。

 そしてロボット、といってもア●ボとかそんな高度な奴ではない。せいぜいラジコンに毛の生えたような物だが、それでも高校生が作るには過ぎたものだった。


「………部の連中が作れ作れと聞かなくてな」


 パソ部のほとんどがA―BOYSの温床になっているための、結城の悲しい選択だった。


「ドンマイ。適度に面白いのを期待してるぞ」

「それは保障する」


 自信ありげにそう言うと、結城は部活動紹介のために舞台裏へと去っていった。


(面白そうなのは、結城のパソ部と、紀子の報道部ぐらいか………)


 結城は先ほど述べた通りだが、紀子の報道部は例年ならさほど代わり映えのない、報道部のアピールタイムぐらいで終わるはずであった。

 だが、紀子はこの部活動紹介が始まるずっと前から、「今年の報道部は二味違うぜ!(きらーん!)」と妙に気合の入った事を言っていた。


(一体何をやるんだか………………え!)


 そうつらつらと考えていると、いきなり心臓が止まりそうなほど驚いた。


 ぷしゅ―――!


 いきなり舞台袖から煙幕がすごい勢いで出始めたのだ。

 どこぞの派手なレンジャー部隊のごとく。


(なんだありゃ?)


 そしてその煙の中から、スポットライトを浴びて、マイクとギターを持ってポーズを決めた人影が現れた。


「ふふふ………新入生諸君。こんなことを知ってるかい?」


 甘ったるくハスキーな声が聞こえて………


(あ、あれ! 紀子じゃねーか!)


 いきなり友人が出てきたことで、響太はまた心臓が止まりそうになり、冷や汗まで出始めた。


「この学園にはよ。アイドルがいるんだぜ?」


(え?)


 聞いたことも無い情報に響太は首をかしげた。

ばばーん、と鳴り響くギターの音と共にまたしても煙幕が舞台袖から飛び出す。

 そして色鮮やかなライトの光りが踊り、奈落から人がゆっくりと現れた。


(奈落て………あんな設備ウチの学園にあったのか?)


 ちなみにあの奈落は、春休みの間に突貫工事で作られたものである。

 そしてそこから綺麗な長髪をなびかせ、白のジャケットとフレアスカートをうまく着こなした女の子が現れた。

 その瞬間、会場中が息を呑んだ。

 響太は遠くから見ていたため出てきた人影がよく見えず、会場が一気に静まった理由が分からなかった。

 そして舞台袖から楽器を持った人が続々と現れ、脇で控えていたドラムが、ちっちっちとリズムを取り出した。

 そして紀子たちギターが曲のイントロが弾き始めた。


(………あれ?)


 聞き覚えのある弾き出しだった。


(ていうかコレ、確か昨日……………)


 考えていると、舞台の真ん中で堂々とマイクを持っていた人が、息を吸い込み、


「fly up!」


 鼓膜が破れそうなほどの声を響かせた。

 その瞬間。

 響太はこの曲が、自分が昨日テレビで聞いた曲だということを確信した。


「………………神谷深春だ」


 響太は呆然とそう呟いた。








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