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霊の心  作者: タナカ
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第26話 朝日







 昼休みの教室。


「おーい! 紀子―!」

「ん?」


 身体測定が終わり、男子一同が竹中先生の説教され、さらに罰として薬の実験台になっているとき。

 たまたまその災厄を免れ無事昼休みを過ごしている響太は、弁当を出そうとしている紀子に声をかけた。


「何? やっぱり知りたくなった? 私の3サイズ」

「なわけあるか」


 軽く紀子と冗談を交わしつつ、響太はなるべく自然に聞いた。


「身体測定、終わったんだよな」

「うん。そりゃあね」

「あのさ、深春もいたんだよな?」

「いたけど」


 何か微妙に視線が冷たくなった気がしたが、響太はそれをなるべく気にしないようにした。


「もう帰ったよ。また仕事だって」

「………そうか」

「ざーんねーんでした」


 紀子はちゃかすように言った。


「まあいいじゃない。深春とは前の肝試しで十分仲良くなったでしょ?」

「別に。そういう(たぐい)のことを言ってるわけじゃない」


 響太は努めて平静を保っているふりをした。

 紀子はしばしの間響太を見つめると、「あーそれとね」と少しわざとらしい大きな声をあげた。


「念のため言っとくけど、夜道は背中に気をつけてね」

「…………なんで? お前は俺を暗殺するつもりか」

「最近、深春と仲いーでしょ?」


 紀子は意地悪そうに、にへらーと笑っている。


「深春ってね。アイドルだし高嶺(たかね)の花だからみんな手を出さないけど、だからって手を出したくないって思われてる分けじゃないの」

「………まあ、そうだろうな。思うだけなら自由だし」

「そうね。だからこういう場合の感情の捌け口として、まあ当然のごとく学内にファンクラブがあるんだけど………それが結構過激なクラブなのよねー」


「…………マジ?」

「マジ。だ・か・ら、気が付いたら背中にナイフが――――!! ………ってことにならないようにね」

「…………気をつけます」


(どないせいっちゅうねん………)


 響太は肩を落とした。














 ぴぴぴぴっ。ぴぴぴぴっ。ぴぴぴぴっ。

 ぴっ。


「ふぁぁ〜………」


 目覚ましを止め、いつも通り6時30分に起床する。

 しょぼしょぼしている目をこすりながら、響太は部屋から出て1階のリビングに降りる。

 そしてキッチンの時計に目をやり………

 固まった。


「………5時30分?」


 6時30分じゃなくて?

 念のためテレビをつけると、テレビ画面の隅っこにも5時30分の文字があった。


「今度は早まってやがったな、あのおんぼろめ」


 絶対に目覚ましを買い換えてやる、と心に誓う。


「………寝なおす気にもなれんし………早起きは3文の得っていうからな。よし! あと1時間。はりきって過ごそうか。良いことあるかもしれないし」


 と、6時30分まで何かして過ごそうと決めた響太だったが。


(さて、そうは言ってもやることがない。朝食を作るにも早い時間だ)


「そういえば、某アニメがこのぐらいの時間帯にしていると聞くが………」


(………やめよう。早起きしてアニメを見るというのも気が乗らない。

 ………そういえば牛乳が切れてたな)


「………コンビニに行きがてら、散歩でもするか」


 川岸とかのぞいたら、以外と綺麗な景色が拝めるかも知れない、と響太はポジティヴ思考になった。


(美人なお人が散歩していて「あらっ、すてきな人ね」とか言ってお話ができたりとか………

 すいません自分で妄想して非常にご都合主義だと思いました。つーかありえない)


「………行くか」


(現実問題、牛乳買った方が良いし)


 そう決めるとさっそく着替えて、財布を持って玄関をでる。

 朝靄(あさもや)に埋もれた町はなんだか新鮮で、思わず「エイドリアーン!」とか「ダー!」とか叫んでみたくなる。


(恥ずかしいし近所迷惑だからやらないけど)


 けど、近くのコンビニに行くのはやめて、少し遠いところにまで言ってみることにした。

 空気が気持ちよかった。

 途中で見知らぬおばさんに「あらっ、響太君おはよう」とか言われて思わず愛想笑いをしてしまった。


(妄想実現? なわけねー!)

(俺のことを知っているとは、恐るべしおばさんネットワーク)


 とかやっていると、海辺まで来てしまった。

 響太の住んでるこの鳴羽町は、中央部は都市部だが隣接する海は舗装もされず綺麗にされており、散歩スポットとして多くの人々に親しまれている。


 日の出前の海を見る。

 胸が空くねーとか思っていると、同じように海辺を見ている少女を見つけた。

 散歩中らしい。そしてなぜか足元には猫と一緒だった。


(本当にいるとはやるな早起き)


 綺麗な人だった。長い黒髪に透き通るような肌。ワンピースを着ていて、どこかの深窓の令嬢のように見える。


(眼福眼福わーいわーい)


 とか馬鹿考えていると、


 ドクン………


 一瞬、何か強い衝動を感じた。


(………なんだ?)


 綺麗なことはそうだが、少し幼い顔に憂いを帯びたその表情は、何か心に惹かれるというか、ひっかかるものを感じる。

 ぼーっと見ていると美女は視線に気づいて、響太に顔を向けてきた。

 やべ、美女に見とれてたらしい。ばれたかな?


「………………」


 美女は無言で微笑む。

 その瞬間、頬に急に強い光を感じて、ハッと海の方を見た。

 太陽がちょうど顔を出したところ。まぶしい光が視界いっぱいに広がる。


「…………」


 海から昇る朝日の輝きは、生命の息吹そのものを見たような気がする。

 朝日の一瞬の光は例えようもなく綺麗だ。こうやって言葉にしているのももったいないぐらい。

 一陣の風が吹く。


(あ………)


 一瞬とはいえ美女の存在を忘れていたことに気づき、慌ててその方を振り向くと………

 そこには誰もいなかった。


「あれ………?」


(ぼーっとしている間に、帰った?)


 混乱していると、急に足元に変な感触を感じてびっくりした。

 そして足元を見ると……


「猫吉!?」

「みゅ〜」


 先日拾った、今は学校にいるはずの猫吉がそこにいた。









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