第24話 男たちの戦い(中編)
………保健室で夢のようなやり取りが行われていたより、10分ほど前の男子サイド。
さっさと身体測定を終えた彼らは、息をひそめて集団で移動していた。
彼らの周りは暗くじめじめしているが、そんな中にもかかわらず男たちの顔は期待で満ち満ちている。
「はぁ……はぁ……」
特に健。息荒すぎ。
「お……おい、健! 鼻息があらいぞ!」
「し……静かにしろ!」
それを咎めた男子生徒2人に注意される健。
「う……うるせぇ。そういうお前らこそ……」
「「うぐ!」」
結局似たり寄ったりな3人だった。
そんなこんなで小さな争いはあったものの、30名近くの男子集団は暗闇を進む。
「はぁ……はぁ……しっかし、さすがは結城だぜ」
「ああ……普通はこんなこと考えねぇ」
結城が健たちに渡したのは、1枚の地図だった。
そこには学園の地下にある下水道、そして保健室へと続く秘密の通路が描かれていたのだ。
「初代雷学の理事長が業者と提携して秘密裏に作ったらしい、幻の通路の地図だ。ちなみに作った理由はお前らと同じだそうだ」
そう言って結城は呆れたようにため息をついていた。
そう……ここは学園の地下水道。
彼らは数百年も前の理事長が作ったこの幻の覗き道を、再び使おうとしているのだ!
「げっ! ネズミ!!」
とあるネズミ嫌いの男子生徒が悲鳴をあげる。
「……なんだネズミぐらい。我慢しろ」
それを他の男子生徒が注意する。
「馬鹿やろう! 窮鼠猫をかむということわざを知らんのか! それに某ネコ型ロボットだってこいつらのこと大っ嫌いなんだぞ!」
「は! たかがネズミぐらいでばからしい」
「んだと!!」
喧嘩が始まりそうな気配がした時だった。
「やめろ!!」
健の一喝で、ざわついていた場が一瞬で静まった。
「………落ち着け」
健は静かにそう言った。
「今は一瞬のミスが命取りになるんだ………我らが行くのはアメリカのペンタゴン並に強固なセキュリティを配備した要塞だ。仙人のごとき磐石の意思と、日本代表バレーボールチーム以上の強固なチームワークが無ければ………到底行き着くことなどできない」
いや……いくらなんでも言い過ぎでは……とかいう人間は、この場には誰も居なかった。
「分かったか!」
『イエス! サー!!』
彼らは一糸乱れぬ敬礼を健に向かって行った
「よし………行くぞ! ついて来い!!」
『サー! イエッサー!!』
………何というか。
その団結力、もっと他のところで使えよと言いたい。
「………なんで行かなかったんだ?」
「ん?」
男たちがこぞって地下水道へと行ったため、体育館に残った生徒はまばらであった。
そこで数少ない残っている生徒の1人、結城は壁にもたれて科学の専門書を読んでいた。
響太も暇そうに寝っ転がっている。
「あの地図は本物だぞ。念のためにこの地図に書いてある秘密通路はみんな確認したからな。それに初代理事長は『女子高生が見たい!』とかいう理由でこの高校を建てた、本物のすけべだったらしいとの情報もある。おかげで任期1年も経たずに変わったらしいが」
「いやその理事長、人としてどうよ?」
「まあそれは置いといてもだ。あの場所は死角な上に鏡を使った精巧な覗き設備まである。それだけにほぼ確実に覗きができただろうな」
「………まぁ、確かに。全く心惹かれなかったといえば嘘になるが」
響太はそう言うとぽけーっとしながら天井を眺めた。
響太とて1人の男だ、女の子の裸には興味がある。
(特に深春の裸とか………いやいや!)
響太はぶんぶんと頭を振った。
「失敗してバレるだろ? 絶対」
「そうか?」
「因果応報ってヤツだよ。何か間違いなく失敗しそうな気がしたからな。君子危うきに近寄らず」
「………なるほど」
結城は1つ頷くと、また読書に戻った。
(あー、けどあいつらどうしてるかなー………)
響太は行かなかったことを少しだけ後悔しながら、再びぼーっと天井を見上げるのだった。
「はぁ……はぁ……こ、ここか」
辺りは薄暗くじめじめしていたが、手に持っていたライトが壁に彫られた鷲のマークを映し出した。
それは雷学の校章だった。
『おおおおおおお!』
その荘厳(に見える)マークに、彼らは思わず感嘆の声をあげる。
「み、皆の者! もう少しだ!」
『おおー!』
声を細めて彼らは小さくガッツポーズした。
健がゆっくりとそのマークのついた壁を押す。
するとその壁はゆっくりと前方へと開き、彼らに次への道を示した。
「こ……この階段を上れば……」
「しっ! ここからは声をあげるな。照美ちゃんに気づかれる!」
健は生徒たちにこれから声をあげることを禁止した。
(例え地下からだといっても、そこは照美ちゃんだ。女のカンで少しでも音を立てれば絶対気づかれる!)
まるで戦時中のゲリラ兵士のように、身をかがめ足音を立てず、息を忍ばせてゆっくりと前へと進む。
そして……しばらく上ると
「だ……だからやめてって言ってるでしょ? 同性の胸触って楽しい?」
「「うん! 楽しい!!」」
そんな楽しそうな声が聞こえた。
桃源郷がすぐそこまで近づいている。
そして、ついに彼らの目の前に現れた、観光地の望遠鏡のような2対の丸ガラス。
地上へと通じる小さな覗き穴だった。
健が試しに覗いてみると、そこからは下着姿の女子生徒たちの姿が見える。
どこからの映像だろうか。だがぶっちゃけ丸見えだった。
『………………』
全員がごくりとつばを飲み込んだ。
「……………(待て)」
「…………(こくり)」
健は手で彼らを制すると、懐からこの日のために購入した超ハイスペック! 超小型! 超静音! が売りの小型カメラを取り出した。
そしてくるりと後ろの男子生徒たちを見ると、にっと笑って五本指を立てた。
「……………(一枚5千円!)」
「……………(2千円!)」
「……………(4千5百!)」
優越感に満ち溢れた彼らは、その後の金勘定までやりだしていた。
そして健は楽しそうにカメラを覗き穴の方へと向けた。
実は今、書いててものすごく楽しかったりしてます。