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霊の心  作者: タナカ
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第22話 鳴美副会長





「それでは会議を始めたいと思います」


 円卓のテーブル、その上座で鳴美が無い胸を張って、会議をしきっていた。


「……………お前、副会長じゃなかったんかい」

「こらそこ! 意見があるなら挙手をする!」

「………」


 しょうがないので無言で手をあげる。


「はい、なに?」

「今気づいたけど……お前、生き物委員会にも所属してなかったっけ?」

「兼任してるだけです! それと言葉遣いに気をつけなさい! 殴るわよ!」

「………それと、生徒会長はどこですか?」


 見たところ、副会長の鳴美や他の生徒会役員以外には、それらしき人はいなかった。


「何言ってるの? 会長をお忙しい方なのよ。このような会議にお手を煩わせるわけないでしょ!」


(………会議に会長がでなくてどーするよ)


「と、に、か、く! 今回のテーマはこれです!」


 鳴美は無理やり会議を進めるために、議題を書いた大きな紙(ちなみにこの部屋、ホワイトボードや黒板が一切無い)を取り出した。


『身体測定!』


「………………」


 一瞬響太は自分の見間違いかと思って目をこするが、『身体測定』はどう見ても『身体測定』としか読めなかった。


「3日後は身体測定がありますが、その警備について今回は話したいと思います!」


(身体測定に………警備?)


「いらなくね?」


 俺は隣の結城にこっそり話しかけた。


「そうか? 毎年いるんだぞ」

「………なにが?」

「身体測定を覗こうとする奴らが」

「うそ………いや」


 一瞬、嘘をつけと言いたくなったが、響太は健のことを考えて、「ヤツならやりかねんよなぁ」と思いなおした。


「特に今年は!」


 バンバン! と鳴美は机を叩いた。


「おね………いや、生徒会長も身体測定を受ける、とのことです! 生徒会長の裸体を死守するためにも! 必ず! 必ずやアホな男どもの汚らわしい視線は『撲・滅』するのです!」


 すっごい気合の入りようだった。

 しかし鳴美の態度に違和感を覚えているのはどうやら響太だけらしく、周囲の委員長、副委員長たちは鳴美に疑問を出そうとせず、むしろ


「今年は赤外線センサーを導入しましょう!」


と鳴美を助長させる意見を出す者までいた。


(えー。何この雰囲気。たかが身体測定なのに)


「そもそも………生徒会長って誰なんだ?」

「なんだ、知らなかったのか」


 結城は肩をすくめると、さらっと爆弾発言をした。


「神谷深春だ」

「は?」


 あんまりにもあっさり言われたので、響太は自分の耳を疑った。


「あのアイドルが生徒会長なんだ。盗撮者対策も気合が入るってもんだろう」


 代表委員会には女子が多いしな、と結城は付け加えたが、響太にはその言葉をほとんど聞こえていなかった。


 (神谷深春が生徒会長で…………………3日後の身体測定に…………………来る?)










 





「響太響太響太響太響太響太響太響太響太響太会いたいよ寂しいよかまってお願い―――!」

「――――――――!」


 キーンと耳鳴りがするのを我慢しながら受話器から思わず耳を離した。

 夜7時過ぎ。自宅。

 簡単な夕食をすませたところで玄関の電話が鳴り、何気なくとったらこの大音量だ。響太は泣きたくなった。


「だいたいねおかしいと思わないちょっと昔を舞台にしたドラマを撮るのにどうして京都までこなくちゃならないのよこんなとこまでこなきゃ昔の日本が分からないって日本人ここ数百年で生活様式を変えすぎなのよこんな動物他にいないわよ変でしょ気づきなさいよおかげで今日1日響太愛が少なくて母さんどれだけもだえたことか分かったか人類のバカ―――――――――!」

「………落ち着いて。そして人類に喧嘩売らない」


 出張で帰れない、なんて日は大抵こうなった。ちなみに明日は周囲まで巻き込んでもっとひどくなる。


「だってぇ………えぐぅ」


 電話の向こうでマジ泣きしてるのが聞こえる。


「食べ物が合わないの。枕が合わないの。肩こってしょうがないの。そもそもここには響太の匂いがしない、こんなところで眠れない…………」


 また病みだした。


「見てなさいよ、1秒でも早く仕事終わらせて帰ってやるんだから………」


 フフフ……と何やら黒く笑い出す都。


(頼むから仕事だけはちゃんとしてくれよ)


「ああ、そうだ。母さん」

「何? 響太」


 何か、特別な気があると思われたら厄介だ。

 さりげなく、さりげなく……と自分に言いきかせながら響太は言った。


「神谷深春さんは元気?」

「……………………」


 沈黙が流れる。


(やべっ! 失敗した?)


「………そっか」


 やがて受話器の向こうから都の諦めの混じった声が聞こえた。


「知っちゃったのね。母さんが深春のマネージャーだって」

「ええと……うん」

「まぁ、何となく予感はしてたけど。………深春もなんかやたらにこにこしてたし」

「知られちゃまずかったの?」

「できることなら、知られないほうが良かったわ」

「なんで?」

「だって紹介してとか個人情報教えてとか言われたら困るし………それに」


 はぁ〜……とものすごい大きなため息が聞こえた。


「深春が響太を誘惑するに決まってるじゃない!」

「………切るよ」

「いや、もうほんとに! あの子かわいいもの大好きだから響太なんてもうおいしそうな子羊みたいに………!」


 がちゃっ。

 響太は無言で受話器を置いた。








本文全体の誤字脱字の修正やレイアウトの変更等をしました。これで少しでも見やすくなれば幸いです。

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