第21話 委員会
「今日の5限の授業は、係決めをしたいと思います」
5限はHRだった。そして6限で係活動、という予定になっている。
「まずは立候補で決めたいと思います。」
黒板に係り名を書き、なりたい係の所に名前を書け、という奴だ。簡単そうな係りはどんどん決まっていく。響太も適当なところに書こうとして、黒板の前まで行く。
「さーて、何にしようかな」
「適当な係りに決めないように」
いつの間にいたのか、響太の隣には小柄な身体をした少女、鳴美がいた。
響太は少しムッとして言い返す。
「何を言うか。ちゃんとそれなりの係の所をやるぞ、俺は」
「はい、嘘けってーい!」
ここまではっきりした嘘も珍しいよねー! と隣の女子生徒にまで言う鳴美。
(…………ここまで露骨な意地悪も珍しいよねー)
心で先ほどの口調を真似て鳴美を小馬鹿にしている気分に浸ると、響太はため息をついた。
「谷川。そこまで根にもたなくてもいいだろ。確かに着替えを見たのは悪かったが」
「……!? …………そのことは忘れて」
「へいへい。そういう谷川はどうなんだ」
「私は生徒会副会長だから!」
「………………えー」
「な、何よその反応! 私が副会長じゃおかしいっての!?」
「………………別に」
(………………生徒会(^o^)/オワタ)
「今すっごい失礼なこと考えなかった!?」
「気のせいだって。すごいすごい」
「何その誉める気なさすぎる誉め方!」
(だって誉める気ないしなぁ)
「………ふ、ふふふふ」
(あ、壊れた)
「まぁいいわ。せいぜい凡庸な委員でもやることね!」
(凡庸て)
「生徒会は凡庸じゃないというのか?」
「もちろんよ! 生徒たちの代表として、これほど名誉な役職はないわね! それに………それに………くふふふ………」
よく分からないが、鳴美は傍から見れば気持ち悪いことこの上ない様子で時折「……ああん……お姉さまぁ」みたいなことを呟いて身体をくねくねさせていた。
「紀子〜」
「ん、なに?」
保健委員というめちゃくちゃ似合わない役職に名前を書いている紀子を呼ぶと、響太は黙って鳴美を指差した。
「あ〜……それは。たまに発生する病気みたいなものだから」
ほっといて、ということらしい。
まぁいいや。とにかく適当なところに……って。
「………なぁ、紀子。俺は夢を見ているんだろうか?」
「ううん、現実だね」
ぐだぐだしている間に、もうみんな役職を決めていた。
「……………………」
慌てて黒板をざっと見回すが、委員長の枠だけが空欄になって、後は全部埋まっている。
「陰謀かーー!!!」
「自業自得って奴じゃない?」
紀子の声が、俺を余計に虚しくさせた。
6限目。係活動の時間だ。
響太は結城(副委員長)と鳴美の3人で、生徒会室の前にいた。
「ここが、生徒会室………」
(まるで地獄へ招待する門のようだ)
この学園の生徒会室は、変わっていた。
一昨年に突貫工事を行い、この教室だけどこぞの貴族の部屋みたいになっているのだ。
扉は格調高い木製、窓はフランス風のしゃれたものだ。
周りの教室は鉄筋コンクリートのくせにここだけ別世界のようで、周囲から浮きまくっていた。
(この無意味に豪華で威圧感のある教室らしからぬ教室に、まさか入る日が来るとは…………)
「………絶望した!」
「ぐだぐだ言わないで諦めて入る!」
「どわっ!」
躊躇していたら、弥生がドアを開いて容赦なく響太を生徒会室に蹴り込んだ。
「…………最近容赦なさすぎじゃね?」
「早く入らないのが悪いんでしょ」
響太は蹴られた尻がいてー、と思いながら初めて入る生徒会室を見まわした。
「さりげなく空間というやつを無視してるのでは………」
「広く見えるけど、そう見えるだけ。面積は普通の教室と変わりないわよ」
「嘘つけ!! どう考えても普通の教室の3倍はあるぞ、この広さ!」
「見せ方、という問題だろうな」
横で結城が眼鏡のレンズをふきながら言った。
「誰が設計したのかは知らないが、狭い空間でどれだけ広く、優雅に見えるか。それが考え抜かれている」
「……………あっ! 俺国家機密のプロジェクトに参加しなければならないんだった!!」
「今更逃げない!」
無理矢理生徒会室から出ようとしたところ、鳴美に首根っこを押さえられた。
「ぐえっ」
地味に痛く、一瞬窒息しそうになった。
(俺は猫じゃないんだぞ!)
「嫌だ―――!」
「………諦めろ」
かくして、肩がこりすぎる部屋で定例委員会が開かれる。