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霊の心  作者: タナカ
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第20話 遠い距離




 後日。

 校門まで戻ってトランシーバー片手に出発せずに待っている紀子に会い、猫吉を鳴美に預けて、それでようやくこの肝試しはお開きになった。

 それから家に戻ると時計は午前4時にさしかかろうとしていた。あと2時間半でも寝ておこうと思ったのだが、響太は結局寝付けず、結果朝飯にかける時間をいつもより長くし、豪勢な朝飯が出来てしまった。


「ちこくっ! ちこくだわ!!」

「………ホント懲りないね」

「朝の10分間は至高の時間なの! 手放すわけにはいかないわ!!」

「………あ、そ」

「…………響太? あなたもしかして元気ない?」


 都への対応も、疲れているからだろうか、どこか力なくなってしまった。

 そしてその後の学校でも。


「……おふぁよ………」


 紀子ももの凄く眠そうに現れた。目をこすっている。


「…………おはよ」


 返事するのも億劫(おっくう)だった。


「…………今日は春の陽気が恨めしいわ………」

「…………俺は教師の声が恨めしい………」


 眠気はあるのに、眠れない。ただ気だるさだけが全身に残っている。

 授業中。隣で爆睡している紀子を横目で見ながら、響太は昨日の肝試しを思い出していた。


(肝試しなんて人間のやることじゃない。本当に幽霊が出てきたらどうするつもりだ? てかこっちは幻覚見て大変だったんだぞこの野郎!)


 むにゃむにゃと何やら幸せそうな紀子に軽く殺意を覚えて、

 でも………と思いなおす。

 怖かった。みっともない姿ばかり見せた気がするし、肝試しなんて本当に嫌だったが………


(………………楽しかったな)


 怖かったけど、不思議と深春と一緒にいたときを思い出せば、頬が緩む。

 笑った顔。真面目な顔。寂しそうな顔。

 笑い声。真剣な声。

 肩を貸してもらったときの、柔らかい身体の感触。

 そして何より、深春と話していて感じた、胸を埋め尽くすような高揚感。

 全てが気にかかる。

 全てが響太にとって、とても輝かしい、忘れたくない記憶に思えた。 

 ………今まで感じたことのないようなあの幸福感。

 深春といれば感じることのできる、あの幸せを。

 もう一度感じたいと思った。

 もう一度………………

 深春に会いたかった。


(………………はぁ。………………ダメだ。これじゃまるで深春に恋してるみたいじゃないか)


 ダメだダメだ。相手はアイドル、こっちは平凡な高校生。

 身分違いもいいところだ。どうせ叶わないんだから、そんな恋愛感情なんて持つな。

 ……………………………

 …………………

 …………

 いつのまにか、響太は紀子と一緒に仲良く爆睡していた。


「目を覚ませバカップル―――!」


 アホな教師がまた勘違いをしていた。









 





 しかしその爆睡の甲斐(かい)あって、響太と紀子は昼休みには元気になっていた。


「なぁ、紀子」

「ふぁ? 何」


 購買のパンを頬張りながら紀子が間の抜けた返事をした。


「いや………さ」


(ええい! 何をためらっているんだ俺のバカ!)


 何はともあれ、深春ともう少し接点が欲しいと思った。

 だから響太は、深春は次にいつ学校に来るのか、とかできれば携帯の番号を教えて欲しい、とかそういうことを聞こうとしたのだが、チキンな響太はなかなか言い出せなかった。


「何? もしかしてあたしのパンが欲しいの?」

「誰がお前の食いかけのパンなんか欲しがるか――――!」 

「おお、そうだ紀子」


 同じ席でもぐもぐパンを食べていた健が唐突に言った。


「深春ちゃんの携帯の番号とメルアドを教えてくれ!」


(あっさり言いやがった―――!)


 健の大物っぷりに恐怖している響太。だが。


「却下」


 紀子はあっさり却下した。


「なぜだ―――!」

「あのねぇ」


 やれやれ、と呆れた風な表情で紀子は言った。


「アイドルのメルアドよ? 私たちの個人情報とは重要度が桁違いなのよ」

「あ………そっか」

「そっかって、響太! お前納得いったのか!?」

「下手に流出したらファンやらストーカーやらの餌食になるからだろ」

「そゆこと」

「つまりは俺たちはその下手な流出をやらかしそうだから信用ならないってことだろ! それ!」


 まだ食いさがる健。


「この男、村田健! そんな馬鹿なことは断じてやりはしない!」

「信用ならない。以上終わり」

「少しは機会をくれよ紀子―――!」

「そんなに知りたいなら、本人に直接聞くことね」 


 たぶん教えてくれないだろうけど、と紀子は付け加えた。


「ハッ! 望むところだ! 紀子! 深春ちゃんは今いずこへ!?」


 健はそのまま学校から飛び出しそうな勢いだった。


「あの後これからドラマの撮りがあるって言ってたから………今ごろ京都辺りにいるんじゃない?」


 ……そういや、母さんも今日は遠くに行くから帰れないって行ってたっけ。


「遠すぎる――――!」


 健が叫び声をあげるが、この時ばかりは響太も同意見だった。

 遠い距離だった。












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