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霊の心  作者: タナカ
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第19話 ピアノの音色







「ご……ごめん………だいじょうぶ?」

「………べつに」


 謝っている深春だが、声がまだおかしそうに震えていた。

 深春が腰を抜かした響太に肩をかしてトイレから出る。


「紀子め………後でぜったい仕返ししてやる」

「頑張ってね」


 深春はちゃかすようにそう言った。

 そしてついにラストポイント、『笑うベートーヴェン』である。

 音楽室は第2校舎3階の1番端にあった。

 そこまで深春が響太に肩を貸した状態……つまりはかなり密着した状態で進んだ。


(うわ……これ、冷静に考えるとすごい恥ずかしい)


「……………響太くん?」

「い、イエ、なんデもなイです!」

「………何かイントネーション変じゃない?」

「気のせいデす!」


 とまあ、そんなこんなで、音楽室にさしかかろうとした時。


「………あれ?」

「ドアが………開いてる?」


 音楽室のドアが半開きになっていた。


「紀子の演出?」

「もしくは単なる閉め忘れとか……」


 二人は少し不思議に思いながらも、音楽室のドアを開け………


「………………」


 響太はそのまま動けなくなった。


「えーと、紙は……あったあった。これだね」


 ピアノの上にある紙を取りに移動する。

 しかし、響太はされるがまま、ただ1点を見つめていた。

 開きっぱなしの音楽室の窓。

 その窓から月光が差し込み、そしてその光りに照らされて………

 中学生ぐらいの女の子が見えるからだ。 

 

(ば………か、な)


 しかも、それは。

 響太の記憶が確かなら。

 昨日公園であった幻覚と、そっくりだったのだ。


「なになに………『このピアノで1曲弾き、ベートヴェンの裁きを受けよ』………うわー、ピアノ弾けなかったらどーするんだろうね、コレ」


 けらけらと笑う深春。

 その様子は、窓際にいる女の子に気づいた様子など微塵も感じなかった。


(見えて………ないのか)


 紀子と共謀して深春にかつがれてるのか。 

 いや、それにしてはその動作は自然だったし、何より公園で見た幻影を紀子たちが知っているわけが無かった。

 それに、月光に照らされた彼女は死んだように無表情で、この世のものとは思えないほど生気が無かった。

 年月を帯び、ほこりをかぶった人形のように。

 ただ、そこにいた。


「ちょっと弾くから、少し椅子に座ってもらっても……って、どうしたの? 響太くん」


 その時、深春は初めて呆然とした響太の異変に気づいた。


「何かボーっとしてるけど……」

「い、いや……だいじょうぶだから」

「………本当に?」

「本当だって!」


 響太は深春を心配させまいと、わざと元気なそぶりを見せた。

 いぶかしがっていた深春だが、周りの暗さから、響太の真っ青になった顔までは分からなかった。


「………ま、いっか」


 深春はそのまま軽快にピアノに座ると、弾きだした。

 そのメロディは、響太もよく知っている、簡単なメロディだった。



 きらきら光る お空の星よ

 まばたきしては 

 皆を見てる………


    

 きらきら星だった。

 その曲を弾いている深春は懐かしそうにそのメロディを弾き、歌った。

 その間。

 窓際で立ちつくしていた女の子が、少しだけ深春の演奏に興味を持った気がした。

 そして、曲が終わると同時に。

 女の子はまた、霞のように消えてしまった。

 その途端、響太の感じていたプレッシャーも急に消えた気がした。


(………なんだったんだ?)


「………なつかしいな」 

 

 呆然として考えていると、深春の声がその思考を遮った。


「妹とここに忍び込んだ時もね。ここでこの歌を歌ったの。………その時は、私が歌って、妹が弾いたんだけど」

「ねぇ………深春」

「うん?」


 優しく微笑む深春に、響太は聞きたかったことを聞こうとした。

 妹さんは事故にあったと聞いた。


「その妹さんは、今、どうしてるの?」


 響太の質問に、深春は少しだけ考えるとためらいがちに答えた。


「………寝ちゃってる」

「え?」

「寝ちゃってるのよ………」


 そうして月を見上げると、ぼんやりと口を開いた。


「ずっとね」


 まるで自分に言い聞かせているような感じがして、響太はそのまま何も言えなくなった。

 沈黙が音楽室を支配する。 

 とにかく何か……そう思って響太が口を開こうとした時、


「にゃー」

「「!?」」 


 響太の足元から、猫の鳴き声が聞こえた。


「猫吉!」

「ねこきち?」

「みゅー」

「うん。今朝拾ったんだけど、そのままいなくなっちゃてた子猫で………お前、こんなとこにいたのか」

「みゃー」


 響太が子猫を抱き上げると、子猫は嬉しそうに鳴いた。 

  

「あはは! かわいいーー!」


 横から深春が子猫を突っついた。

 子猫もまんざらじゃなさそうで、首筋を撫でられながらごろごろとのどを鳴らした。


「行こうか」


 響太は子猫を抱え、腰をあげた。


「そうね。あのさ………響太くん」

「なに?」


 音楽室のドアに手を掛けた所で、深春が聞いてきた。


「もしかして………だけど。君のお母さんって………山田都って言うんじゃない?」

「え!? ちょ、なんで知ってるの?」

「あーーっ! やっぱりそうか!」


 深春はやっぱりー! と嬉しそうに言った。


「都さんはね。私のマネージャーなの」

「なにいいいいい!!!」


 本日1番の絶叫が校舎に木霊した。

 








………まだこの先も書いてあるのですが、まだ内容が納得いってません。

続きは明日から、できれば1日1話ずつぐらいで更新できればいいなと考えております。

追記:すいません。一気に20話も投稿したせいか、途中話の順番がぐちゃぐちゃになってました。orz 修正しましたのでご安心を。

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