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霊の心  作者: タナカ
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第1話 新しい生活





「うわ、さぶっ」


 外に出た途端に響太は、春とはいえまだまだ寒さの残る朝の気配に身を震わせた。

 響太が住んでいるのは、東京から少し離れたベッドタウンで、鳴羽町という。

 少し街路樹が多くある以外は、特に何の代わり映えも無い住宅街である。


(『自然を愛する町』ってのが売り文句らしいけど、ようは平凡な片田舎だよな、ここ)


 今日は入学式、兼始業式の日である。

 そんな春休み明けで高校生にとって新鮮なはずの初登校日。


そんなことを考えながら歩いていると、交差点の辺りで待たせている友人の姿が見えた。


「はよ。(たける)

「おう、響太。おっす」


 このぼさぼさした茶髪男の名前は、村田健。響太と同じ高校に通う同級生だ。

 健のことを一言で言うならば、


「昨日のミハルちゃん見たか? いやーかわいかったなー!」


 こんな感じでアイドルに鼻の下のばしてるような男だ。


「まあ、かわいかったな」


 ミハルちゃんとは、最近人気急上昇しているアイドル歌手のことである。その子の出た番組なら響太も昨日、えびせんを食べながら見ていた。


「だが1曲歌った後、親父俳優とトークしてたろ。あの親父はなー」

「確かに。あの親父はいつか殺す」

「いや、ふかすなよ。どうせ居場所知らんくせに」

「いーや、分からんぞ。電車で1時間もすれば東京なんてすぐだ! 今度遊びに行ったときに偶然見かける可能性だってある!」

「むりむり」


 2人は無駄話しながら歩いていくと、学園へ続く山道にさしかかった。

 2人が通う学園は山の頂上にあり、そしてそこへと続く唯一の道は登山道みたいで、なぜかコンクリート舗装がされてない。おかげで車やバイク等、特に自転車通の人は特に通学に苦労している。

 徒歩通学の響太には、あまり関係の無い話ではあるが。


「いつも思うんだけどさ。この坂道、舗装しろよ!」

「そんなの学園長に抗議しろよ。この土地学園長のらしいし」


 4月初旬。世間では桜が見ごろを迎えているが、ここの木は桜並木なわけでもない単なる広葉樹だった。

 そして木々に囲まれた山道を抜けると、大きな校門が見えた。

 響太は息を切らしていた。


「朝から疲れた」

「……言うな健」


 息を整えて見上げると、そこには少し洋館っぽい、どでかい学校があった。

 私立雷鳴学園。通称雷学。中高一貫の私立学園で、自由な校風が売りの大きな学園だ。

 いたって普通の私立高校(?)だが、校舎だけは普通の学校の枠を外れて大きかった。

 ちなみに、校舎の中身は至って普通。


「おい見ろよ、あそこ。クラス発表の掲示板があるぞ」

「おお」


 校門から少し行った先の、玄関にある掲示板にはクラス発表の紙が一斉に張り出されていた。

だがそこはもう随分人だかりができていた。


「俺は先行ってくるぜ!」

「あ、そ」


 健太はわき目も振らず人だかりの中に突貫していった。


「どけ! 見えねーだろ! ちょ、痛! あ、う、おわああああああ!」


健太は相撲部と柔道部の連中に押し倒され、踏まれていた。


(あー、こりゃ見るのは難しそうだ)


 健を呑みこんでしまった人ごみを見ながら、響太はぼけーっとどうしようか考えていた。


「響太は私と同じ2―Dだよ!」


 非常に元気な声と同時に、いきなり響太は背中をどつかれた。


「ぶっ!」


 思わずこけそうになりながら後ろを振り返ると、そこには満面の笑みをした


「紀子」

「はよ、響太!」


 ショートボブに健康そうな顔立ちをしたこの女の子の名前は元山紀子。通称雷高パパラッチと呼ばれ、当然報道部所属。

 見れば分かるように、非常にアグレッシブな奴である。

 おかげで響太も紀子にだけは、女という感じはしなかった。


(というかこいつを女と見ている奴がいたら見てみたい。いたら腹を抱えて笑ってやる)


 顔はまあまあ整っているのだが。紀子のぶっちゃけすぎる性格がどうも彼女をトキメキとかそういうのと無縁にしてしまっていた。


「そんで、健は?」

「星になった」

「分けわかんない。どういうこと?」


 響太は無言で人だかりの中を指さした。


「………ああ。そゆこと。ご苦労様ね」

「そういうお前もあの中に入ったんだろ」

「いや、あたしは賢いから、あの人だかりができる前に来て見てたから」

「………なるほど。それでこうやって来る奴来る奴を後ろから驚かせて、クラス発表の結果を言っている、と」

「まね」


(まああのまま待っててもあの人ごみで掲示板見れなくて困ってただけだろうから助かったけど………)


クラス発表の結果を友人に言われると、なんか損した気分になるんだよな、と響太は紀子を半眼で見た。


「あはは! そんな目で見ないでよ」


 響太のじと目に紀子は、いやん、と気持ち悪く体をくねらせる。


「やめろ気持ち悪い」

「にゃはは。そんな言葉に私は屈しないのだ。ほれほれ、そんなことよりクラス分かったんだし教室に早く行こ」


 そう言うと、紀子は無造作に響太の手を引っぱった。


「あれ、もういいのか」


 まだ予鈴まで10分はある。紀子なら予鈴ぎりぎりまでここにいそうだが………


「いいの。イタズラは響太でもう充分堪能したから」

「おい!」

「細かいこと気にしない。行くよほら」


 そういうと無理矢理ひっぱって教室に引きずられた。







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