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霊の心  作者: タナカ
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第18話 トイレの亜衣子ちゃん






 …………その後。鳴っていた携帯を取って、紀子と連絡を取った。


「ちょっとペースが遅いかなー。それとさっきから不定期に悲鳴が聞こえるんだけど………」

「ああ。それ響太くんが怯えて出した悲鳴ね」

「むぐぐぐ………」


 ちなみに響太本人は『人体模型と握手しろ』という紙の命令と格闘していた。


「………………もしかして、響太と少し仲良くなった?」


 どうしてそう感じたのか、なんとなくそう感じたので紀子は聞いた。


「………そうね。ほんの少し、だけど」


 照れて深春が肯定する。するとむこうの電話口から「いや――――! お姉さまが汚される―――――!」と、鳴美の悲鳴があがっていた。


「ま、次は第4ポイントの『段数が変わる東階段』だから、理科室のすぐ傍にある階段を3階まで上ってね。紙は階段付近の消火器の傍にあるから」

「分かった。それじゃね」

「ばいばい」


 紀子と電話を切る。


「く………だいじょうぶ。これは作り物、作り物。動くわけないんだから、握手ぐらいなんでも……」

「ほら、響太くん! ちゃっちゃとやって次行くよ!」

「ひえっ!」


 深春は響太の腕を持つと、無理やり人体模型と握手させた。


「ほら、怖くないでしょ?」

「……………」


 深春の手の感触、そして至近距離に深春が近づいてきたことによる天国と、人体模型の地獄。

 天国と地獄がない交ぜになった状態に、響太は混乱した。


「行こっ!」

「………」


 なぜか機嫌の良い深春に引っ張られ、響太は理科室を出た。














 そしてすぐ近くにある第4ポイント。『段数が変わる東階段』である。


「やっぱ電気ついてないな」

「じゃないと雰囲気でないからね。後はここから3階まで上ればいいだけ」

「だよな。ただ階段を上るだけで別に何かあるわけじゃ……」

「………ちゃんと無事に上れれば、だけどね」

「どういう意味それ!?」

「………実はこの階段の先は」

「ごめんやっぱ言わないで!」


 響太はとにかく急いで階段を上ることにした。

 コツ……コツ……と一段上るごとに、音が大きく反響する。

 ライトに照らされた階段は、その先に何か怖いモノが映りそうで、響太はどうしても視線が足元にいってしまった。


「………私ね。中学1年生の頃に、ここに夜、忍び込んだことがあるんだ」

「?」


 隣を見ると、懐かしそうに目を細めた深春と目があった。

「妹がね。私の1歳年下なんだけど、来年入るこの学校に1度来てみたい、っていうから……一緒に」

「なんで夜に?」

「明るいうちに来ちゃうと、目立っちゃうでしょ………少し怖かったけどね」


 たはは……と深春は恥ずかしそうに笑った。


「………深春って、中1からこの学園に在学してたの?」

「うん。けど、中2の頃に中退しちゃったの」

「………なんで?」

「歌手になるため」


 そう言ったが、「あー、ちょっと違うかな」と言い直した。


「お金が欲しくってね。それで手っ取り早く稼げそうなのが、それしか思いつかなかったから」

「………なんで、お金がいったんだ?」


 聞いた後で、響太は後悔した。


「………妹の、入院費が欲しかったの」

「え?」

「事故でね。妹が大怪我しちゃったから…………………あ! ついたよ!」


 気がついたら、無事に3階まで上りきっていた。


 「よかったねー!」と笑う深春の様子に、響太はそれ以上のことを聞けなかった。














 第5チェックポイント、『トイレの亜衣子ちゃん』

 場所は3階の女子トイレだった。


「女子トイレだから、あんまりじろじろ見ないでね」

「み、見ないって!」


 女子トイレは真っ暗だった。

 無意識に響太はトイレの電気をつけようとするが………


「…………つかない」

「ノリちゃん。また細工したんだろうね」


 またしても懐中電灯の明かりだけが頼りになった。


「あ、紙あった」


 命令の紙は洗面台の上にあった。

「んーっと………『1番窓際の個室に入って、隣の個室にノックするべし。さすれば、亜衣子ちゃんから運命の啓示を聞かされることだろう』って書いてあるわ」


 大抵、こういうトイレの花子さん系の話は、個室にノックしたら知らない声から質問されて、うまく答えないと引きずり込まれる……とかそういう話なのだが。


「亜衣子ちゃんからの質問の内容や、答えを書いてないね。さすがは紀子、いじわるー」

「………」


 響太の血の気が引いた。


「あのー………マジで行くの?」

「行くしか無いみたいだよ。各地点に置いてある星型の紙、その個室の中に置いてあるっぽいし」

 確かに、洗面台の周りには命令の紙しか置いてなかった。


「ほら、行こ」

「………………分かった」


 覚悟を決めて行くしかなかった。

 夜の女子トイレは、1つ1つの個室が不気味で、響太はなるべく周りを見ないようにして歩いた。

 もちろん、深春にくっついて。


「………ここね」


 深春の呟きが女子トイレの中に反響した。

 そこは何の変哲も無い窓際のトイレ……のはずなのだが。

 響太にはそのトイレのドアが地獄門のように見えた。


(………マジで帰りたい)


 が、そんな響太の心境はお構い無しに、深春は躊躇無くそのドアを開けた。


(ひいいいいい!)


 響太は声も無く悲鳴をあげた。

 ………が、やはりというか、そこは特に何も無かった。

 しかし、ホッとしたのもつかの間。


 コンコン。


(うぎゃああああ!)


 深春が隣の個室へと通じる壁をノックしたのだ。


(来るな来るな来るなーーー!)


 響太はひたすらそう祈った。

 しかし。

 響太の祈りは届かなかった。


『赤いカミを、頂戴』


「「!!」」


 それは、まるで地獄から上ってきた声のように聞こえた。

 低く、しわがれた、不気味な声。

 『トイレの亜衣子ちゃん』の声だった………


「………紀子」

『てへっ!』

「へ?」


 深春の言葉に、先ほどまで恐ろしかった声が180度変わった。

 イタズラ好きの、パパラッチ娘の声だった。


「え、へ? どういう………」

「………………」


 深春は無言でトイレを出て行くと、隣の個室から何か取ってきた。

 それはトランシーバーだった。


『むぅ………いいアイディアだと思ったのに。あっさり見破るとはさすが深春』

「声がどうにも無線から流れ出たっぽかったからね。それに、いくらトランシーバー越しで、音の音域を変えても、紀子の声は間違えない」

『さすがは親友……完敗だわ』

「この仕掛けって……ペアの人とグルにならなきゃできないよね。………もしかして、くじに何か細工した?」

『うんにゃ。悪いけど、私とペアになった人には事情を話して協力してもらうつもりだった。いやー、響太と当たらなくてよかったよかった』


 響太は絶対脅かされる側に回ってほしかったからなー、と紀子の笑い声が聞こえた。


「全く………」


 深春はため息をつくと、トランシーバーを元の位置に返した。


「脅かすのもほどほどにね。さ、というわけで行こうか響太くん………………響太くん?」

「ははは………」


 響太は動けなかった。


「ま、まさか腰を抜かして………ぷ、あはははははははは!!!!」 

『あーっはははははは!!!』


「やかましい!!」


 夜の女子トイレに、女の子2人の笑い声が響いた。 











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