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霊の心  作者: タナカ
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第15話 鳴美の新しい顔





 紀子の先生モードが終わり、再び地獄の七不思議講座を聞きながら学園の登山道を歩いた。

 響太は必死で頭の中で素数を数えたり円周率を数えたりして気をそらし、ようやく学園につくと………


「や。久しぶり。響太くん」

「な………か」


 制服を着た神谷深春が校門で待っていた。


「………………(の、紀子! なんで神谷さんがここに?)」

「………………………(んっふっふ! 深春は友達だからね。ちょこっと無理言って予定あわせてもらったの)」

「………(う、嘘だろ?)」

「……………………(……ところで、久しぶりって何? いつの間に深春と知り合ったの)」

「………(ちょ、ちょっとな!)」


 以上、響太と紀子のひそひそ話である。


「おっねっえっさっま――――――――!」

「は?」


 聴きなれない言葉に首をかしげていると、どこにいたのか鳴美が飛び出して、深春に抱きついた。

 ちなみに鳴美が着ているのは、通称ゴスロリと呼ばれる服だった。


(うっわ、趣味悪………)


 綺麗ではあるのだが、見慣れない服のため違和感バリバリだった。 


「あー、こんばんは、鳴美。相変わらず元気そうだけど、お姉さまはちょっと……」

「お姉さまはお姉さまですぅ! あーん! 鳴美寂しくて死にそうでしたー!」


 猫かぶり全快な鳴美が、深春の胸で猫のようにごろごろしている。


「………あれ、本当に鳴美か?」


(ちょっとレズぎみだぞ、あれ)


「鳴美は深春のこと慕ってるからね。猫かぶってるようにも見えるけど、あっちも鳴美の地だよ」

「………さいですか」


 確かに鳴美はちっこくてパッと見中学生ぐらいに見えるから、ああやって甘えている仕草もよく似合っているのだが………


「今日散々ののしられている手前、どうにも納得いかない」

「ま、慣れなって」


 ころころ笑っている紀子。


「美しい光景だ………」


 たけるがよだれを垂らしそうな勢いで二人を見ている。


「はーい、曲がった目で見るなドアホー」

「ぐぼっ!」


 健はまた紀子に殴られていた。


(っつーか、あんなに殴られてよく怪我しないよな、健のヤツ)


「まあ、紀子とはいえ最低限の加減はしているのだろう」

「結城」


 校門の小さな街灯で本を読んでいる結城を見つけた。


「………読めるのか、それ」

「………いや。やはり無理があった」


 ため息をつくと、結城は本を閉じた。

 暗くてほとんど読めなかったらしい。 


「うふふふ。お姉さま。制服もお似合いですけど、今からでも鳴美が綺麗な服着せてあげますわよ?」

「あー、それはいいわ。いつも着慣れてるから」

「ま、深春はそっか。ところで……どう、響太。かわいいどころ集めたのよ」


(かわいいどころ?)


 響太は周りを見回した。

 目を回してる健と、黙ってる結城、それに俺の3人は置いといて。

 まず紀子、神谷さん、それにじゃれついてる鳴美。


「………神谷さん以外微妙」

「何よー。男なら喜ぶ所でしょ。ここって」


(なんというか、月とすっぽんが並んでるイメージ?)


「………何か失礼なこと考えてない?」

「いやいや」


 紀子が怖かったので、響太はそのイメージを脳から抹消した。


「ま、いいや。それじゃールールを説明するよー」


 紀子の号令で、校門前で肝試しのルール説明が始まった。


「まず、この校門が今私たちがいるところです」


 校門は学園と下の町をつなぐ、この山道に繋がった唯一の場所であった。

 大きな石造りの2つの支柱には「雷鳴学園」と彫られている。


「そして今までで分かっている6つの怪談の場所に行き、そこで紙に書かれた行動をとり、終わったらそのチェックポイントに置いてある星印のカードを1枚ずつ取って行ってね」


 プール、裏庭、理科室、東階段、3階のトイレ、音楽室にそれぞれ丸印がつけてあった。

 響太は思わず緊張でつばを飲み込んだ。


「ちなみに第3ポイントの理科室には一緒に携帯電話も置いてあるから、ついたらそれでこの携帯に連絡してね」


 紀子がポケットから携帯電話を出す。


「それを合図に次のグループが出発するから。ちなみに1グループは男女2人だから、合計3グループってことになるね。全部回ったら、再びここに戻ってくること」


 すると鳴美が異議あり! と叫んだ。


「このスケベと組んだら、その女の子は慰み者決定じゃない!!」

「なんでやねん!」


 あまりの信用無さに響太は思わず関西弁で突っ込んだ。


(………確かに着替え覗いたけど、あれ事故だろ。いい加減許してくれてもいいのに)


「大丈夫よ。響太にそんな甲斐性があるわけないし、それに用心のため女の子たちにはこれを身につけてもらうから」


 紀子が懐から何か取り出す。


「ってスタンガン!」

「ああ。なら安心ね」


 ようやく安心したらしい鳴美。

 そして鳴美に反比例して響太の顔色が悪くなる。


「俺の安全は?」

「無し」


(………………紀子め)


「な、何よー。身の安全を守るための最低限の武装よ。これでも譲歩してるの。他にも武器ならいろいろ持ってきたし」


 そう言うと、紀子の懐から催涙スプレーが出てきた。


「……………………」


 言葉が出なかった。


「それじゃーくじを引いてもらうよー」


 しょうがなく、響太は無事に終われますように、と、願掛けをしてくじを引いた。

 ちなみに、気絶している健は残りもののくじになった。

 結果。


「なんであんたとお姉さまがペアで1番最初なのよ―――――!」

「知るか。自分のくじ運の悪さを嘆いてくれ」


 最初に響太と神谷深春、2番目が鳴美と健、そして最後が紀子と結城という順番になった。


「だめーー! こいつじゃ、どさくさに紛れてお姉さまにセクハラしそう!」

「大丈夫よ鳴美。それにくじは絶対公平。文句言わない」


 駄々をこねる鳴美を何とか(なだ)めようとする深春。


「ほらほら。ちゃんと護身グッズもあるんだし」

「いや、だからそれはいらんから」

「ううう…………」


 スタンガンを見せてどうにか納得させようとする紀子。


「お姉さま」

「な、なに? 鳴美」


 少し引き気味に聞き返す深春に、鳴美は涙目でスタンガンを握らせた。


「ぜったい………ぜったい油断しないでくださいね。そして何かあったら叫んでください。死んでも駆けつけますから」

「ははは……まぁ期待しないで待ってるよ」


 それはまるで戦地に(おもむ)く恋人に武器を渡す女性のようだった。


「日頃の信頼のたまもの?」

「言うな」


 紀子の呟きが、また響太を虚しくさせるのだった。










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