第14話 紀子先生モード
そして……………午前2時。草木も眠る丑三時。
午前1時頃に帰ってきた都に「朝帰りはダメよ〜」と寝ぼけ眼で言われて見送られた。迎えにきた紀子は、黒のワンピースという、夜闇に溶け込みそうな姿をしていた。
「お、ちゃんと逃げずに待ってたわね! 行くわよ!」
「………行きたくね」
そんな響太の言葉は無視して、というかむしろ傷口に塩をぬる気で、紀子は学校への道中に七不思議のうち6つの簡単な説明をした。
「まずは数が変わる階段。これは昔、学園の階段で足を滑らせて死んでしまった子が元って言われててね。あるとき、この学園の見回りをしていた人が………」
(………か、帰りたい)
「な、なぁ紀子?」
響太は話を変えたい一心で話しかけた。
「なぜかその一段だけ色が変わってるのを不審に思ったその人は………って何よ」
話を中断させられてご立腹ぎみの紀子。
「お、お前、幽霊って信じるか?」
頭がスパーク気味の響太は、咄嗟に公園であった人のことを思いだして言った。
「幽霊?」
響太の質問に紀子はうーん、と考えると首を横に振った。
「私は信じてないよ。だって科学的な根拠なんて何も無いじゃない」
「………だよな」
(それが普通だよな………)
「だけど………」
紀子は、ニッと笑った。
「信じてる人は知ってるよ」
「………俺のことだとでも言いたいのか?」
「ううん」
首を振ると、紀子は空を見上げた。
「私の知りあいでね。『幽霊は思念の塊だ』って言ってきかない人がいるの」
(え………)
響太は、この前もそれと同じ言葉を聞いていた。
公園で出会った女性の言葉だった。
「その人によるとね。例えばある人が夜中に幽霊を見たとします」
紀子はぴっと人差し指を立てた。
「そこが例えば心霊スポットで、自殺の名所のような場所であったとしたら、私たちはそこで自殺した方の自殺する時の恐怖や憎しみなど負の思念が形となり、幽霊という形になったのだと考えます。そうした場合は、お祓いなどをして思念を祓わなければなりません」
「つまり、思念=幽霊と。あ、けど……だったら、人の心は一体どうなるんだ?」
人の心は思念を生み出す元となるものだ。
では、この心のもととは、何なのだろうか?
「うむ、いい質問です」
紀子の教師モードは続く。
「人は、両親の願いをもとに心を作り出します」
「願い?」
「そう。例えば人は誰しも、大小あれどご両親から想われ、生まれてきます。その想いが赤子の中に入り、心のもととなるのです」
「へー………」
「そして人類にとって一番最初の思念は、神だと言われています」
「神、ね」
「話をもとに戻すと、私たちは幽霊を強力な思念と見ます。そこに人のような理性のある自立的な心はありません。あるのは1つの強迫観念だけなのです」
(強迫観念………か)
だったら自分が見たあの子の幽霊は、一体どんな想いを持っていたのだろうか。
(ま、考えてもしかたないことか)
「思念はそれ1つでは単なる痴呆のように同じような言葉を繰り返すだけです。だけどいくつかの同じ人の思念を、ある人に乗り移らせ1つにすることで、より人間に近い思念を作り出すことのできる人がいます」
「思念を、作る?」
(んなことができるのか?)
天地創造のような気分になりながら、響太は紀子の話を聞いた。
食いつきのいい響太に、紀子は気分良く続きを言った。
「その人は、後に巫女と呼ばれるようになるのですよ、響太くん」