第12話 痴漢?
昼休み、響太は紀子、健、結城の3人と教室で弁当をつついていた。
健に殺意を送りながら。
「わ、悪かったって。でもそんなに怒らんでも………」
「怒るわ馬鹿たれ! 性質の悪いことしやがって! 俺の安寧を返せ!」
「………そこまで言う程じゃなかったろ。お前体は丈夫だし」
「そうそう、大したことないって。それに3限までサボれたんだから、よかったじゃない」
紀子が口を挟んできた。
「よくねえ!!」
「竹中先生、だな」
結城がそのものズバリを言いあてた。
「竹中先生って、あの『飴と鞭』の…………あちゃー」
「そっか、保健室に行ったんなら当然、照美ちゃんにも会うわな」
「知ってたのか、お前ら」
「まーね。保健の照美ちゃんと言ったらある意味、有名だしね」
「ああ。お色気に負けて自分の体を売るか、自分の体を大切にするがあまり男児としての欲望を不意にするか。究極の2択を迫られるからな」
気づくと紀子が白い目で響太を見ていた。
「で。お色気に負けて変な薬飲んじゃったんだ。自業自得じゃない? それって」
「………気がついたら飲まされた後だったんだよ………断じて色気に負けたわけじゃない」
「ノリちゃ〜ん、こっち来て一緒にお弁当食べようよー!」
最近紀子と仲がいい谷川鳴美が、紀子をせっついてきた。
(…………あれ、この子ってまさか…………)
「ああああああ! さっきの変態!」
「やっぱりかー!」
(保健室で着替え覗いちまった人だこの人!)
なんだなんだと、周りの視線が二人に集まる。
「何なに! 何かあったの?」
「変態とは…………なかなか笑えるあだ名だな、響太」
「あだ名にすな! 健!」
「聞いてよノリちゃん! この変態、体育の時間に私の着替えを覗いたのよ!」
『何いいいいい!』
その瞬間、その場にいた男子全員(−結城)が大声を上げた。
「待て! 確かにそれは謝るがあれは事故だ!」
「うわっ。女の子の裸を見といて事故だって……」
「責任逃れは良くないよね………」
「最低………」
周囲の女子生徒たちの視線の温度が2,3度下がった。
「無実だー!」
響太は全員に訴えかけたが、視線は冷たさを増すばかりであった。
「この変態! 馬鹿! スケベ! 色情狂!」
特に鳴美のヒートアップぶりが激しかった。
「このロリコンがー!」
「ちょっとだけうらやましくなんか無いぞちくしょー!」
「本音がだだ漏れてるぞ、おい」
だんだん周囲が暴動の相を呈してきた。今にも飛びかかられそうな………
「はいはい鳴美、少し落ち着いて」
紀子がヒートアップした鳴美を押しとどめた。しかしそれでも、男子の視線はやばいぐらい集中している。
「うっ………だって裸見られたんだよ! 黙ってなんかいられないもん!」
「そもそも確かあなた腕を怪我して、一足先に着替えていたんだから、普通に覗こうと思っても時間がずれてて無理だと思うけど」
「それが! 覗かれたの! それはもう狡猾な手段を使って!」
「………………響太、なんで覗くことになったか説明お願い」
「だから覗かれたのー!」
「鳴美は少し黙ってる」
「…………う」
紀子が珍しくリーダーシップを発揮した。暴れ馬と化していた鳴美を静かにさせる。
「ええと……体育の時間に怪我をして」
「鼻血を……ぶ!」
いらんことを言おうとした健を響太は裏拳で黙らせた。
「保健室行ってドアを開けたら…………こう、ばったりと」
ジェスチャーでごっつんこした様子を表す響太。
「………なるほど。つまり鳴美が横着をして更衣室ではなく、保健室で着替えたのが原因じゃない。しかも鍵もかけずに」
「ううう………だって、どうせ行くんだから保健室で手当も着替えもした方が効率いいじゃない………先生ちょうど居なかったし」
「でも鍵ぐらいかけとくべきだったね」
「うぐぅ………」
ぐぅの音は出たが、そこから言葉が出ない鳴美。
「ほら。そうなるとこれは完全な事故。謝ってもらえば万事OKってことで」
「……………」
反論したいが、出来ないと言った表情の鳴美。
(むしろあの後殴られ怪我した俺の方が被害者では………?)
と言いたかったが、何かややこしくなりそうだったので、響太はとりあえず謝ることにした。
「まあ、悪かった。ノックもせずに入っちまったし………」
「………もういい。私も少しは悪かったから………」
本当に事故だったと分かり、集まっていた野次馬もようやく興味をなくし始めた。
(…………ほ。助かった)
「紀子〜。この騒ぎちょっと面白かったんだけどなー」
残念がるな名前も知らん女子生徒!