第10話 バレー
遅刻もせず、授業を無事に受け昼休憩となった。
ちなみに健は遅刻してきた。響太がわけを聞いてみると
「それが聞いてくれよ。今朝方になってウチのハナちゃんが急に産気づいちゃってよ」
ハナちゃん=犬の名前である。
「こんなの初めてだからよ、家中がパニックになっちゃってよぉ。子犬を生むまで待とうかと思ったんだけどよ、親が「それよりお前は早く学校行け」っていうんだぞ! おかげでそれで喧嘩になってたらいつの間にか時間が経ってたんだよ!」
今朝の響太とある意味似たり寄ったりだった。
何というか健らしい遅刻理由であった。
二時限目の体育は、バレーである。
「俺だってやるときはやる! 華麗なスパイクを決めてみせるわ!」
響太は珍しく燃えていた。
………ちなみに理由は、このバレーの勝敗で負けたほうが買った方にジュースを奢る、という賭けが健たちとの間にあるからなのだが。やっすい燃え方である。
「ふ………我が砦を越えられるかな?」
相手チーム、そこには髪をかきあげ何やらかっこつけている健がいた。
「お前のブロックなんぞ無いも同然だ! 鼻息だけで吹き飛ばしてやる!」
「やれるもんならやってみろ! こっちには例え俺が抜けられても最強のリベロが控えてるんだぞ!」
「ぐ………」
健の指差す先には、相変わらず無表情の、スポーツ万能成績優秀な我が2―D最強のメガネ砦がいた。
無論、結城である。
「………………」
無言のプレッシャーが痛い。結城本人は何もしてないのだが、響太には恐ろしいほどのプレッシャーに見えた。
「へ! こっちにはバレー部所属、西川がいるんだぞ!」
「………適当に頑張るよ」
「頼りねーなおい!」
「そろそろいいかー。とっとと始めるぞー」
体育教師、島先生の号令が響く。
そんなこんなで、バレーが始まった。
開始から20分が経過。
試合は一方的な展開になった。
響太のチームがまるで点を入れられないのだ。
理由は簡単。健はともかく、結城のレシーブがスパイクをことごとく拾っているのである。
「ちくしょー! ありえねー! しっかりしろバレー部!」
「いやー結城くん本当にすごいな。ウチの部に欲しいよ、マジで」
「ほんっきで頼りにならねーな! 西川!」
「てか、あれに勝てと言うのはかなり無理がない?」
「ダベッてる暇があるのかな?」
本日何本目か、結城が拾い、健が決めるパターンのスパイクが迫ってきた。
「え?」
そしてそのスパイクが響太の視界一杯に迫ってきた。
「へぶっ!」
響太はスパイクを決められた。顔面に。
「っ! いてーな!」
「あーっはっはっは! 鼻血ブーだ! なんて馬鹿な奴だ!」
健の言うとおり、響太の鼻からはたらりと血が垂れていた。
「健………覚えてろよ貴様」
謝りもせず高笑いしている犯人に、響太の憎悪が何千倍にも膨らんだ。
響太は怒りでパワーアップした!
「馬鹿言ってないで、山田。いちおう保健室行って来い」
「ちょ、先生! これぐらい大したこと無いって!」
「いいから行って来い。たかが鼻血でも、ちゃんと手当てしないと下手したらやばいんだぞ」
「こんなのティッシュつめときゃ十分だって!」
「ティッシュを詰めるのはあんまり良くない。保健室で綿花もらって鼻に詰めとけ。んで後は安静にしとけ」
「そんなぁ!」
「ぎゃーはっはっは! ざまーみろ!」
(健め! 後で陰湿な仕返しをしてやる!)
一時的にティッシュで出てくる血を受け止め、あとはしょうがなく体育館を出て、保健室へ急いだ。
「しっつれいしっま………」
ガラッと勢いよく保健室の扉を開けると、響太はその場で停止した。
(………何故だろう。どうしてこんなことになっているのだろうか)
そこには保健の教師はおらず、代わりに上半身を脱ぎかけたツインテールの女の子がいた。
その子は半脱ぎの状態で静止していた。
何と言おうか…………ブラジャー丸見えの状態で。
「…………き………」
「き?」
響太の停止した頭では、この先どうすればいいか考えることができなかった。
「きゃあああああ!!」
「へぶしっ!」
響太は2度目となる顔面への激痛、しかも先ほどとは比べ物にならないぐらいの衝撃を受けた。
(あ………だめだ)
響太はそのまま気絶した。