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霊の心  作者: タナカ
102/104

第101話 都の話




 午前零時過ぎ。

 ユキナが出ていった後の自分の部屋で、響太はぼんやり時計を眺めながら、「そろそろ寝よっかな〜」とか考えると、こんこん、と小さくノックの音が聞こえてきた。


「響太〜?」

「………母さんまでもか」


 今度は都が、珍しく遠慮がちに響太の部屋をノックした。

 響太はため息を1つつくと、「どうぞ〜」と投げやりに答える。


「は、入るわよ………」


 そしてピンクのパジャマを着て寝る準備万端の都が、こそこそと入ってきた。


「どったの?」

「いや、なんとなく響太が寂しがってるだろうと思って、今日は一緒に寝てあげようかな〜と………」

「ダメ」

「なんで!?」

「寂しがってないから」


 響太は簡潔にそう言った。


「きょ、響太〜………? 別に無理しなくてもいいのよ〜?」

「………………」


 響太が半眼で睨むと、都は堪忍したのかがっくりと肩を落とした。


「………ごめんなさい。寂しがってるのは私です」

「よろしい」


(………まったく)


 ここ最近響太には、倒れたり怪我したりと、本当にいろいろあった。

 だから都が心配してくれている気持ちはよくわかるが………


「気持ちは嬉しいけど、一緒に寝るのはダメ。もうそんな歳じゃないんだから」


 この前の自分のことは棚に上げているが、響太は気にしない。


「んむぐぅ………」


 意味不明な擬音と共に、不満そうな顔をする都。


「それより、番組作りの方はどうなってるの?」

「………ああ、あれはちょっとモメたけど、順調よ」


 パッと表情を明るいものに変えて、都は言った。 


「深春にも出てもらうことになったしね。そこそこ豪華なスペシャル番組になるんじゃないかしら?」

「そっか。うまく行くかな?」


 番組もそうだが、結神社の問題も含めて、という意味で響太は聞いた。


「それは正直、もうしばらく経ってみないとわからないわ」


 都は両手を広げ、降参のポーズを取った。 


「例えテレビである程度のブームを作っても、それはしょせん一過性だもの。結神社の霊たちを追い払うぐらいの信仰心を集めるなんて、やっぱり一朝一夕じゃいかないわ」

「ん〜………やっぱり」


(そううまくはいかない、か)


 渋い顔で唸っていると、「でもね」と都は続けた。


「調べててわかったんだけど、結神社の理念は『絆』。人種とかそんなつまんないことは考えず、人間は皆そういった絆で結ばれてるんだって。そういうのが大元の考え」

「へー………」

「差別で苦しんできたユキナらしい考えだよね。そんでこの考えってさ、他にも共感してくれる人がいっぱいいてくれると思う」


 人種問題のみではなく、いじめ、ジェンダーなど、差別に関する問題は社会に蔓延している。

 そんな世の中だからこそ、この考えに共感してくれる人は決して少なくないのではないか。


「今回の番組は、そんな人たちに結神社を教えること。そうして少しずつ教えを広めて行けば、霊たちを追い払うこともできるんじゃないかしら?」

「そうだね」

「それに今回だけじゃなくて、他の番組でも結神社の紹介とかいっぱいしてもらえるように、ゴリ押しする予定だから」

「………ゴリ押して」


(………うぉい)


 響太は呆れていたが、けど………


「………そっか」


 少しだけ安心した。

 何だかんだ言って、都はすごい。彼女にまかせれば、きっとうまくいくだろう。


「だから、こっちは心配しないで。時間はかかるけど、きっとなんとかして見せるから。だけど……………問題は千秋ちゃんの方」


 都は少しばかり声の調子を落とす。

 響太は病室にいた千秋を思い出しながら、言った。


「植物状態なんだよね」

「そう。それに植物状態の原因は、脳の問題だからね。『脳は人体のブラックボックス』って言われてるぐらいだから。そこをどういじればいいのか、まだほとんどわかってないのが現状。

 植物状態から人が生き返るのって、奇跡って言われてるのよ?」


 現代医学じゃどうしようもないの、と都は付け加えた。


「だからもう、霊がどこにいるか、そしてその霊を通じて千秋ちゃんと深春を会わせる。それに賭けるしかないんだけど………」

「………………うん」


(千秋の霊が居る場所はわかっているけど………)


 それはあの廃デパート。

 1度響太が霊の渦に呑まれて気絶した場所なのだ。

 都も響太が考えていた場所がわかったのか、厳しい口調で言った。


あそこ(・・・)にはいつかはもう1度行かなきゃいけないんだろうけど。それでも無茶して行かないでよ。絶対に」

「それはわかってる」


 都に心配かけるわけにはいかない。


(だけど………)


 行かなければならないことも、事実だった。


(………どうしよう?)


 途方にくれる響太だった。






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