よくある異世界転生もの
目覚ましが鳴る。
冷たい電子音が空っぽの部屋を満たす。
目が覚めなければ良かったのにと男は思った。
中嶋 弘
大学卒業後は特に目指したい道もなく
責任にも時間にも縛られないフリーターを選んだ。
回りのやつらは世間体に流されているだけだと見下し、
心のどこかで「何かを成す」と根拠もない自信をもっているよくいる愚かな若者の1人だ。
毎朝7時に起き、朝食は取らず
煙草を一本吸ってからバイト先に自転車へ向かう。
勤めているのは小さなレンタルビデオ屋
学生の頃から家が近いと言うこともあり
よく通って古典映画やアンニュイなロードムービーやらをよくも理解せず見漁っていた。
すっかり常連になっていた弘へ店主の金光からバイトの誘いがあったのだ。
「映画が好きならうちで働くかい?」
そんなこんなでだらだらと二年ほど経っていた。
現実は映画のように目まぐるしく変化することはない。
辛いことや悲しいことも飛ばすことは出来ない。
店の裏の駐輪場でプカプカと煙草の煙で輪っかを作る。
真っ青な空に溶ける煙が
ぼんやりとした暮らしの中で死んでいく
自分の感情と重なり侘しさを感じていた。
「中嶋くんちょっと手伝ってくんない?」
勝手口から金光が顔を出す。
どことなく嬉しそうだ。
手招きする金光についていくと
少し大きめの段ボールの中に山積みのVHSテープが詰められていた。
「うっわ! どうしたんですこれ?」
中嶋は驚きながら尋ねる。
「すごいでしょ! 古い友人が映像関係の仕事で働いててさ、もう使わないやつ譲ってもらったんだよ。」
「もはや化石ですよ!」
笑いながら中嶋は応える。
「何言ってんの!こりゃあ宝の山だぞ!
もうDVD化されてない映画だってあるんだから!
このミラクルマイルなんて傑作だよ?」
中嶋は金光のうんちくを聞き流しながら
テープを漁る。
「ん‥‥?」
気がつくと中嶋はひとつのテープを握っていた。
「聖‥獣…士?」