ルーの貯金
光の虹を潜り抜けた先は、一面のオーロラの世界。
そして、光の星粒で出来た3体の巨大な雲が僕らを囲んでいる。
一体はとんがり帽子の魔女の姿。一体は短刀を持ったローブ姿の影。一体は剣を振り上げた兜の戦士。
星粒の中には一際強い輝きを放ついくつかの点があり、まるで星座のように形作っている。
恐ろしく遠くにあるはずなのに、恐ろしく巨大に見える3体の像。あの星粒のどれかに僕らがきた光があるのだろうか。
3体の像は、かつて門をくぐって異世界からきたと言う勇者たちの姿を模しているらしい。
素材は神域に至ったものそれぞれによって異なるらしいが、この像の形状だけは共通なんだそうだ。
一説には、動乱のあと勇者たちは天界に昇って神々の座についたと言われている。
そして、守護石からこの領域に辿り着いた者は。経験値を捧げる事によって「レベル」と「スキル」と言う、彼らの振るった力の具象を模す事が許される。
まぁ……各地に点在する異端者たちに言わせると。あれは経験値を捧げているのではなく、魂を喰らっているらしいんだけど……
「デ? ここはなんなんダ?」
ルーが僕の顔を覗き込んでくる。頭の上に乗っかってるから、顔が逆さまだ。しかも近い……
「ルー。あの雲から、なにか引っ張られるような感じがしない?」
「すル。特にあいつニ。ルーの体からなにかモヤモヤしたのが引っ張られてるゾ」
ルーは短刀を持ったローブ姿の雲を指さした。
「やっぱり……じゃあ、その引っ張られてるモヤモヤを雲に送り出す事って出来そう?」
「出来そう……けど、なんか。自分を食べさせるみたいで嫌な感じがするゾ。大丈夫なのカ?」
「大丈夫。僕もやった事あるから。さ、やってみて」
僕に促されて、ルーはちょっと訝しがりながらも意識を集中させる。すると
ピシュゥン
何かの気配がしてルーの体が一瞬発光する。
「オォっ?」
ルーが自分の手をまじまじと見つめる。
「なんカ……強くなったかもしれなイ」
レベルアップはうまくいったようだ。やっぱりルーは経験値をため込んでいたんだ。
「よかった。じゃあ、今度は向こうの雲の像を見てみて」
僕は戦士の雲の方を向くと、その中にある星座のような強い光。丁度剣を握る手の部分にあたる大きな光を指さした。
「今、ルーにはさっきレベルアップした時に手に入れたスキルポイントがあるはずなんだ。さ、今度はあの光をこっちに引き寄せようとしてみて」
「うぬぬぬヌ……」
ルーが光に向かって手を伸ばしたあと、空を握ってこちらに引き寄せるような動きをする。
すると、目的の光がピシュ と反応を見せた。
「やった! これで格闘術のスキルを手に入れたはずなんだけど……どう? なにか変わった感じはする?」
ルーはじっと両手を見つめたあと、ややくぐもった声を出してからシュシュっとシャドウボクシングをする。そしたら
「オぉっ!?」
何か感じるものがあったらしく。シュシュッ シュシュッ シュシュッっと、何度も素振りを始めた。
「凄いゾ、アルフ! 鋭くなってル!」
シュシュッ シュシュッ シュッシュッ シュシュシュッ!
嬉しくなったのか、ルーは何度も何度も素振りを繰り出す。
「ねぇ、多分ルーはもっと強くなれるんだ。さっきのレベルアップって言うやつもう一回出来ない?」
「出来ル! 出来ルゾ!」
ピシューン
やっぱりまたレベルが上がった! この子はかなり経験値をため込んでいたらしい。
「ナー!ナー!もっかいやっていいカ?! イイカ!?」
「え、出来るの?」
「出来ルゾ!」
ピシューン
ピシューン
ピシューン
ピシューン
ピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュ
「ちょ、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「ナーッハッハッハ! これがルーの本当の力なのダー!」
ピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュピシュ……
彼女の名前はルー。僕の命を助けてくれた獣耳の女の子。
でも、僕は何も知らなかったんだ。
彼女がどんな力を秘めていたのか。
なぜ、この世界で獣人が絶滅した事になっていたのか。
そして、彼女が本当は何者なのかと言う事も……
ちょっと補足。読み飛ばしても話に影響は特にありません。
レベル=ある条件を満たす生き物を殺した時に得られる、経験値(?)によって上がる。儀式要。ステータスが上がる。(体力、スタミナ、マジ力だけじゃなくて腕力とかもあがります)
スキル=レベルアップ時に得られるスキルポイントで習得。儀式要。必要習熟度を満たしていないスキルは取れない。
習熟度=練習によって上がる。守護石不要。今作では習熟度とレベルは完全に別。