アルフの世界
昔々、まだこの世界にレベルって言う概念がなかったころ。ある悪魔崇拝の教団が魔界とのゲートを開いてしまったんだって。
世界各地でゲートから地獄の軍団が現れ、人類の半数以上が虐殺されたらしい。
だけどその時、偶然魔界とは別の世界に繋がってしまったゲートから、異世界の勇者が現れて世界を救ってくれた。
不思議な力を使って教団を倒した彼らは。ゲートを閉じたあとどこかに行方をくらましてしまったそうだ。
世界にはまだ魔物が残っていたけれど、彼らはこの世界の人達に力を残してくれた。
「で、この石がその力にアクセスするための鍵になるんだ……けど……聞いてる?」
僕が一通り説明を終えて振り向くと、ルーは蝶々を追いかけてジャンプしていた。
「わっかんネー! アッハッハッハ!」
「はぁ……まぁいいよ。とにかくやってみるね」
僕は守護石に手を当てると魔力を集中させた。
「ルー。僕の真似をして石に手を乗せて、目を瞑って」
「こうカー?」
そして守護石を起動させるための呪文を唱える。
意識が吸い込まれて視界が満天の星空のような光景に切り替わる。
遠くに太陽。近くに浮いているのは僕たちの掌に入ってしまうようなサイズに見える地球。
「ぬワーーーーーーーーーーーー!!!!! 落ちル! 落ちルゥゥゥゥ!!!」
ルーがびっくりして足をバタバタさせてもがく。
「大丈夫。落ちないって。アハハ」
手を差し伸べると、ルーがそれを掴んで僕にしがみついてきた……いや、僕の頭にしがみついてきた。
足の裏を僕の肩に乗せ、横からしっかりと頭を掴んで大きな兜みたいになるルー。
「ヤー! 離したらヤだぞ! 絶対ヤだからナ!」
ガジガジと僕の頭を甘噛みするルーが落ち着くまでしばらく待って、やがて僕らは星空の旅に出た。
大きかった太陽が遠ざかって小さな点になり、やがてそれが大きな雲の一部だった事がわかる。
更に離れると、その雲も大きな渦の一部で。その大きな渦がたくさん集まって集まって……
横に目を向けると、物凄い勢いで星々が流れていく。
空が……いや、世界が流れる光景を僕は他に知らない。
冒険者になりたての頃、ガイに連れられて守護石から神域にいった時は全然違う光景を辿った。
雷鳴のなる赤い空に真っ赤な大地。噴き出すマグマ。僕の領域と違ってすぐに目的地に着いたけど、僕は内心あの光景が好きじゃなかった。
ルーは僕のこの、お気に入りの光景を気に入ってくれるんだろうか。退屈に思われないかちょっぴり心配だったんだけど……
「ウわぁ……キラキラ……キレイ……」
ルーが感嘆の息を漏らす。僕は彼女が、腰とかじゃなくて頭にしがみついてるのがちょっぴり残念になった。
今、彼女はどんな顔でこの景色を見ているんだろう。でも、邪魔するのは野暮な気がして。そっと手を撫でるだけで我慢したんだ。
質量を持たない意識体の僕らはどこまでも加速する。やがて後方からの光は僕たちに追い付けなくなり、後ろには何も見えなくなる。
代わりに、先を行っていた1/n秒前の過去の光に僕らが追い付いて、あらゆる方向の星々から発せられた光が、前に、前にと集まる。
集まった光はやがて丸い虹となる。この中に世界の全てが詰まった。この世で一番神秘的な光。
「さ、いくよ……」
際限なく加速する僕たちは、やがて時の鎖から解き放たれる。そしてギュッと手を握りあって、光の虹の中へ飛び込んだ。