魔法とお魚
「アルフッ。アールフッ♪」
「あぁ、ルー。おはよう」
幾度かの目覚めを繰り返し、僕はいくらか動けるようになるまで回復していた。
僕は、この目の前にいる命の恩人に「ルー」と言う名前をつけていた。彼女には名前がなかったんだ。
ルーは最初、まるで人語を話せなかったけど。僕が何か言う度にすぐにオウム返しで言葉を返してきた。
それからルーは凄い早さで……そして。本当に楽しそうに言葉を覚えていった。
「ルー。ゲンキ。アルフ。ゲンキ?」
「あぁ。元気だよ。ルーのおかげだね。ありがとう」
上半身を起こせるようになると、部屋だと思っていた場所が洞窟の中なんだとわかった。
見た事もない葉っぱで作ったベッドの上に僕を寝かせてくれていたらしい。
とってもふわふわで、しかも汗を吸っても全然ジメジメしないから。僕は最初、どこかの宿屋か何かに運ばれたのかと思ったくらいだ。
ルーはなにかあると事あるごとに、僕の匂いを嗅ごうとしてスンスンしてくる。
しかも恥ずかしがって手で遮ると掌をペロペロしてくる始末。
昔、村にいた猫から似たような事をよくやられてたんだけど、猫と違って彼女の舌は物凄く柔らかかった。
彼女はよく食べ物や水を持ってきてくれたけど。彼女以外の人は誰も来なかった。
「ルー。タベル。アリガト。アルフ。タベル。アリガト」
突然、ルーはがばっと起き上がると洞窟の外に出て行った。そしてしばらく経って……
「うわ。ルー。それっ!?」
「ガウガウッ。タベル。アリガト。アリガト。タベル」
ルーは口にお魚を加えて戻ってきた。4つ足でお座りする様はまるで猫みたいだ。
「とってきてくれたんだね……ふふっ。ありがとう」
「アゥアゥッ♪ アリガト! アリガト!」
僕が頭を撫でると、ルーは嬉しそうにそう言ってお魚を差し出してきた。
「じゃあ、ありがたく頂くね。よっ……と……アタタタタ。ハハ」
まだ痛む体を起こして、適当に綺麗で平らな石の上を払ってお魚を置く。
僕は簡単な焼き魚にしようと、僕が使えるもう片方の魔法。火炎放射を使った。
これは、魔導士が一番最初に覚える最も初歩的な攻撃魔法で。手から射程の短い持続型の炎を吹きだすんだけど……
「ガゥアッ!?」
ビックリしたルーがジャンプして天井に頭をぶつけてしまった。
「ガウ…………」
「ご、ごめん! 驚かせちゃった」
僕は慌てて火をとめてルーを心配したんだけど、思ったほどダメージはなかったみたいでルーはケロっとしてた。
そして彼女は僕の手をスンスン嗅ぎだすと、ペシッ。ペシッ。と手に軽くネコパンチしてくる。
「ガウッ?」
お座りの姿勢になって首を傾げるさまがなんとも可愛い。
「アハハ。いいかい。もう一度やるよ」
僕は再び呪文を唱えて炎を出した。
「アウッ♪ ガウガウッ♪ ガウガウッ♪」
するとルーは嬉しそうな顔をして、洞窟の中を走り回った。別に火が恐いとかそういうのはないらしい。
焼き魚が出来上がると、早速ルーがスンスン匂いを嗅いで……ハムっ。と一口。
「アウゥッ?」
まるで驚いたウサギみたいな顔をして振り返るルー。尻尾がピーンと真っ直ぐ立っている。
「アウッ♪ アウゥッ♪」
それからルーは本当に美味しそうに、尻尾をフリフリさせながらお魚を頬張ってたんだけ……ど……
「アウゥッ♪ アゥ……ガウッ!?」
今度はハッとした表情で振り返る。耳と尻尾がペターンとしていたので、これから何を言うのか大体わかってしまった。
ルーは申し訳なさそうな顔をして
「アルフ。タベル。アリガト。ルー。タベル。チガウ」
と言ってくれた。
僕はお腹が膨れるよりも、もっともっと大きなもので満たされたような気がしてたから、「気にしないで」と言った。
でもルーは首をブンブンと振ってすぐに出て行って、またしばらく経ってお魚をくわえて戻ってきたんだ。
「ありがと。じゃあ、もっかい作ろうか」
本当に良い子だな……ニコリと笑ってお魚を受け取ると
「アウゥッ♪」
と、すっごい良い笑顔で尻尾をフリフリさせる姿が可愛い。
僕がもう一度火炎放射を唱えてお魚をこんがり焼くと、ルーがスンスンと匂いを嗅いで……
ハムッ♪
と、喰いついてしまったのだった。