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宮廷魔術師と失われた歴史

 更にその翌日。

 僕、ルー、フィーネ、シモンさんの4人は郊外にあるお屋敷に来ていた。

 召使の人に案内されて廊下を進み、奥の部屋に通される。



「よぉ、先生。具合どうだい?」


「おぉ、シモンか。よくきたな。……おや?」


 ベッドから上半身を起こしたのは白いガウンを着た、これまた白い髪に白いひげを生やしたおじいさんだった。

 彼の名前はオシムさん。ドラゴンに襲われた時、物凄い魔法で戦っていた宮廷魔術師の人だ。

 なんでも物凄いものしりだと言う事でシモンさんが紹介してくれる事になったんだ。



「どうも。初めまして。アルフと申します」


「おぉ! そうかそうか。君がなぁ。あぁ、もっとこっちにおいで。顔を見せてくれないか」


 ベッドに近づくとおじいさんは手を握ってきた。皮が厚い。シワの1つ1つに年季を感じさせる。


「君に助けられたそうじゃの。ありがとう、ありがとう」


「いえ、僕の力では……」


「いいんじゃよ、いいんじゃよ。君はワシを助けようとしてくれた。それだけで十分じゃ。それで、そちらの小さいお嬢さんが……」


「ルーなのダ!」


「そうかそうか。いや~。可愛えぇの~」


 ルーが右手を目いっぱい上げる。小さい子って動作の1つ1つが一生懸命に見えるからこういうの可愛いんだよな。


「それで、聞きたい事と言うのはですね……」


 僕たちは、リディックさんとの会談の内容を語った……


------------------------------


「と、言う事がありまして……」


「クックック……アーッハッハッハ!」


 オシムさんは最初真面目に聞いてくれていたんだけど、話が終盤に差し掛かったあたりで、こらえきれないと言わんばかりに笑い出した。


「あの選民思想の塊のようなエルフ共が、獣人族の友人を騙るとはな! こりゃ傑作じゃ。ワシが同席しておったらケチョンケチョンに論破して赤っ恥かかせてやったものを」


「え?」


「エルフ!?」


 突如、耳慣れない単語が聞こえて僕とフィーネが動揺する。


「なんじゃ、知らんのか? ウィンターフォール島に本拠地を構えるアドモールの幹部達は人族ではない。ふむ、ちと長い話になるぞ。さぁさぁ、立ち話もなんじゃし、部屋を変えようではないか」


 おじいさんがベッドから降りようとすると、召使の人が慌てて制止する。


「いけません、老師! まだお体の具合が……」


「えぇい、放せバカモン! もうとっくの昔にピンピンしとるんじゃ。まったく、人を老人扱いしおって……」


「おい、先生。本当に大丈夫かよ」


 シモンさんも心配そうに声をかける。


「いいんじゃ、シモン。時が来ておる……ワシのお役目もあと少しじゃて……」


「…………」


 シモンさんが片方の眉をあげて、無言の会話を交わす。時間にして3秒か4秒ほど。


「……わかったよ。先生」


「あの」


「いこうぜ。部屋を変えよう」


 そのやり取りに少しひっかかるものがなかった訳じゃない。

 でも、この人達は僕なんかよりずっとよく物事を考えて動いてくれてるって信じてたから。とにかくその場は指示に従う事にしたんだ。


-------------------------


 再び部屋を変えて、紅茶とイチゴのタルトをいただきながら応接室で待つこと数分。

 宮廷魔術師のおじいさんはとんがり帽子に魔導士のローブ。杖に鞄まで持って、まるで今から旅に出るかのような恰好で入ってきた。

 椅子に座ってキセルに火を入れようとしたところで、召使さんに慌てて取り上げられる。


「なんじゃい。けち臭いのぅ…… さて、600年前に教団の手によって異界の門が開き、異界の軍勢によって人類が大虐殺された話は知っておるかの?」


「はい。その中の門の1つが偶然、遠い異世界に繋がり。超常の力を持った勇者達によって世界は救われたと」


「そして、残された魔物達に対抗するため。勇者達は人類が自分達の力の片鱗を扱えるように守護石を残していった……」


「世間ではそういう事になっておるの。だが全ての人類が……いや、それどころか人族の全てが恩恵を受けた訳ではない。異世界の勇者の力を振るえるのは……異世界の勇者の子孫だけじゃ」


「……え?」


「それは変ね。だって守護石を使えない人なんて聞いた事ないもの」


「そう。だが守護石にアクセス出来ない者たちは、僅かではあるが確かに残っておる。今では希少な、純血の人族。いや、原住民と呼ぶべきか……」


 つまり、逆に言うと……今守護石にアクセス出来る「普通」の人達は、み~んな異世界の勇者の血が混じってるって事?

 ちょっといくらなんでも数がおかしくない? たった3人の人間の出来る事とは思えない。


「偶然、異世界から呼び出された3人の勇者。カイト。シン。レイカ。彼の者たちは世界に平和を取り戻したあと、恐るべき好色っぷりで手当たり次第に食い散らかしたそうじゃ。やつらの子供の数は数百とも言われておる。

 更にその子供たちも英雄の力を使い、要職に就き、爆発的に子孫を増やしていった。今ではもう誰もがその事実すら知る事のないまま、当たり前のように世界を埋め尽くしておる。

 たった600年の間にじゃぞ? これがどれほど恐ろしい事かわかるかの?」



 僕たちは絶句した。

 教会の教えでは、神々の座に座った異世界の勇者達は、普く人々に正義と平等と幸福をもたらしたとされている。

 

 だけど、もしおじいさんの言う事が本当で。勇者の恩恵が彼らの子孫だけに受け継がれる、一部だけが対象のものなんだとしたら……

 一体その「英雄」と「普通」はいつ入れ替わってしまったんだろう?


 そして、おじいさんはこの世界の失われた歴史について語りだしたんだ……

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