会談のあとで
「彼女に関しては敢えて生かしておいた。何やら怨恨があったとの事だが、好きにしてくれて構わない。他にも誰か…………? アルフ君?」
リディックさんは顔を歪ませた。それは僅かなサインだったけれども。今日、彼が部屋に入って来てから初めて見せる表情の変化だった。
「……そういう事か。すまない、お気に召さなかったようだな。これはこちらで持ち帰って処分を」
「待ってください!」
鞄を閉じようとしたリディックさんを制止して、彼の瞳を見つめる。
「処分って……なんですか?……」
「…………」
リディックさんの表情のない瞳が僕を見つめる。が、返事はすぐに返ってこなかった。きっと僕の態度は彼にとって予想外の反応だったんだろう。
「彼女は僕が引き取らせて頂きます。それと……大変恐れ入りますが、今日はもう帰って頂いてよろしいでしょうか?」
ガタッ!
「ちょ、君! このお方をどなただと」
「首長」
大声を出しそうになった首長を、リディックさんが片手をあげて制止する。
「彼の要望を尊重しよう。アルフ君。気分を害してしまったようで申し訳なかった」
リディックさんは椅子から立ち上がり、首長さんに向かってこう言った。
「私に直接連絡を取れる地位にある者を残して行く。……くれぐれもアルフ君とその仲間たちに対して、何か無理強いをするような事がないよう。肝に銘じておいて頂きたい」
「はっ! か、かしこまりました!」
リディックさんは去り際にもう一度振り返り、表情の無い瞳でルーをじっと見つめた。
ルーは相変わらず関心を示さない。
「それでは私はこれで。またお会いしよう」
ガチャ
リディックさんが退出してドアが閉められた。
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「…………アルフ君、なぜあのような……いや……」
首長は物凄く何か言いたげにしていたけど、結局何も言わなかった。きっと、リディックさんに言われた事を守って僕に口出ししないつもりなんだろう。
「ちょっと私も休憩してきていいかな。流石に疲れてしまったよ」
「はい。それは構いませんが、あの……」
チラリとリドの方に目を向ける。
「彼女の処遇についても好きなようにしてくれて構わない。拘束する設備のある牢獄を使っても構わないし、治療院で生活させるなら担当の人員を配置しよう」
「……ありがとうございます」
「では私もこれで」
そして首長も退室する。
「いいのカ?」
そして、ようやく……ルーが口を開いた。
「なにが」
「ここデ戦っておかなくテ」
「…………敵なの?」
「わからン。匂いがしナさ過ぎル。ただ…………」
「ただ?」
「強イ」
匂いがしないのは魔法で体表の空気の流れか何かを操っているのかな……まぁ、ルーにそこまで言わせるような実力だったらなんでも出来ちゃいそうだけど。
言ってる事は別に敵対的じゃない。むしろ好意的過ぎるくらいだ。
ただ……なんとなくわかってしまった。きっとあの人は人の痛みがわからない人なんだ。
普段こういう下々の人間と接する機会はないんだろう。にも関わらず、彼は自分で会いに来た。なんらかの理由で他の人に任せる事が出来なかったんだ。
獣人族の繁栄? 種の多様性? そこまで権力のある人がそんな慈善事業みたいな事に固執することってある?
「…………」
僕はルーの頭を軽く撫でてからこう言った。
「今日はごめんねルー。もうお家帰っていいよ。気分悪かったら森の方を散歩しておいで」
「うヌ。わかったのダ」
「晩御飯はサーモンのムニエル作ってあげるね」
「サケは美味しいのダ!」
ほんの少しだけ機嫌を治したルーが退出する。そして……
「……リド…………」
僕は、鞄の中の少女とどう向き合うべきなのか、思い悩んだ。
昨日間違って2本同時投稿してしまいました! 重たい話2連チャンで載せちゃって申し訳ないです。




