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顔の無い男

5章開始です。いったん3人称視点。

え~っと、すいません。組織絡みとドラゴン来襲の時は死人が出ます。敵キャラは何人か酷い目にあいます。

一応警告文は出していきますが、そういうのが苦手な方はご注意ください。よろしくお願いします!

 数百年ぶりのドラゴンの来襲。

 それは大陸北西部のみならず、中央の帝都にも激震をもたらす……はずであった。


 にも拘わらず、本格的な対策が取られなかったのにはいくつかの理由がある。

 1つに、大陸南部の反乱のせいでそれどころではなかったと言う事。

 1つに、誰も本物のドラゴンを見た者がおらず、脅威の想像すら出来なかった事。

 そして決定的な要因となったのが……ルーの活躍により被害が最小限に留められた事だと言うのは何の皮肉だろうか。

 

 大陸北西部、ハイガーデンの連合議会は再三にわたって帝都に向けて救援要請を出していた。

 だが、いくら窮状を訴えようと、自分に直接被害がなければ人は動かないものだ。


 数百年前には大きな脅威だったとしても、現状では村をいくつか焼いただけの少し強めのモンスターに過ぎない。

 少なくとも中央の役人たちにとってはそう判断された。


 もしドラゴンが帝都に来襲すれば、人々は口々に「なぜ対策をとらなかったのか」と慌てふためいた事だろう。

 だが、それも無理からぬことなのだ。

 一体、この時点で誰が予想出来ただろう。

 片田舎の冒険者に撃退出来てしまうようなモンスターが、よもや帝国全土を焼き払ってしまうような脅威になりうるなどとは……


 帝国。そして結社にもドラゴンの脅威を知るものがいなかった訳ではない。

 だが情報とはいつも錯綜し、私欲にまみれた者たちによってせき止められるものなのだ。

 

------------------------------


 「顔無し」は組織の諜報員だ。名前は誰も知らず、彼の素顔を見た者はほとんどいない。

 彼の一日は毎朝の日課である顔作りから始まる。それはパン職人がパンを焼くのと同じくらい当たり前で大事な仕事だ。


 眉毛を描き、唇を盛って色を塗り、削ぎ落とした鼻を土台から作っていく。

 もし素顔を見られればきっとアンデットか何かと思われるだろう。なにせ彼には顔がないのだから。


 彼がグリーンヒルに到着したのはここ最近となる。

 発端は組織にとっては新入りとなる、とある死霊術師の持ち帰った情報だった。

 クセルの街で見た事もないような強力な呪物を見た。是非とも結社が手に入れるべきだ、と。


 だが、調べが進むうちに組織は難色を示すようになる。

 件の呪物とはドラゴンの角のかけらのことで、持ち主は噂のドラゴンバスターだと言うのだから。

 ドラゴンバスターの実力については意見が分かれている。衛兵に紛れて情報収集をしていた調査員が、ドラゴンとの戦いの際に巻き添えを喰らって戦死していたからだ。

 更に信じられない事に、角のかけらはドラゴンバスターによって飲み込まれてしまい、盗み出すのは困難と言う話だった。


 襲撃にかかるコストがかさみそうな事。また、成功した際のリターンが不明瞭な事などから、計画は一度白紙に戻りかける。

 だが、そこで別の視点から調査対象に関心を寄せる男が現れた。結社のハイガーデン統括支部長である、サモス・リファイアントだ。


 サモスは言った。「件の調査対象は絶滅したはずの獣人と関係がある可能性がある。もしも獣人の捕獲と繁殖に成功すれば、巨万の富を生むビジネスチャンスになる」と。

 情報元の死霊術師はサモスの肝いりでもある。彼女は角のかけらの所有者に対する襲撃に異常なほどの執着を見せたため、サモスとの間に裏取引があったと囁かれた。真偽のほどは定かではないが……


-----------------------------


 ともあれ「顔無し」はグリーンヒルに呼び出された。

 任務の内容はドラゴンバスター本人の戦力を正確に測る事。そして身辺調査を進め、可能であれば捕獲する事。



 ドラゴンバスターの一日は食べる事から始まる。自宅で食事を済ませた彼女は市街の屋根を渡り歩き、なーごなーごと近所の野良猫達と会話らしきものをする。

 更に散歩を進め、特定の柱や建物の角に寄ると、腰のあたりを擦り付けてマーキングらしき事をする。匂いを擦り付けているのだろうか?

 さらには街の外壁に飛び乗り、尻尾をまっすぐに立てて見回りを開始する。

 見張りの衛兵たちは彼女を見かけると大抵挨拶を交わし、干し肉でおびき寄せて頭を撫でたりしている。かなり仲が良さそうだ。


 昼間になると彼女は日当たりの良い場所を見つけて昼寝を開始する。

 最近は赤いレンガ作りのパン屋の屋根の上で丸まって寝るのがお気に入りらしい。おそらく焼きたてのパンの良い匂いがするのだろう。


 夕方になるとドラゴンバスターは屋根から降りて地面の探索を開始する。

 顔無しは腕利きの諜報員だ。これまで人間相手に追跡をまかれた経験など数えるほどしかない。

 だがドラゴンバスターは異常に体が柔らかく、オマケに狭いところが好きで、ちょっとした隙間があるとすぐに入り込んでしまうのだ。

 そう、今もちょうどこんな風に……


 家と家の僅かな隙間に入り込まれてしまい、顔無しは今日も調査対象を見失ってしまった。

 反対側に周ってみるも、出てくる気配がない。


 本来ならばこの程度でまかれてしまうような顔無しではない。

 彼は地面に耳をつけて音だけで追跡する事も出来るし、その気になれば目隠しをしたままで追跡する事だって可能だ。

 だが、今回の対象だけは別格なのだ。突然フッと影が消えるように気配を消す時がある。


「……ちっ……」


 まぁいい、どうせ夕食の時間には必ず家に戻る事は調べがついている。

 諦めて振り返ったところで顔無しは固まった。

 調査対象のドラゴンバスターがじっとこちらを見ていたのだ。


「…………」


 見られた!? 通常であれば対象との接触は最悪だ。

 だが、顔の無い彼は明日になればまた新しい顔、新しい声、新しい匂いで任務につくだけの事。

 なぁに、子供って言うのは時々指をくわえて通行人をじっと見つめる事があるものだ。

 なんでもないフリを装って通り過ぎようとする。

 だがドラゴンバスターは顔無しの顔をじっと見つめながら、指を差してこう言った。


「おまわりさン、この人なのダ」

レビューから来ていただいた人がかなりブクマ入れてくれたようで。ありがとうございます! 助かります!


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