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激突!? フィーネvsエミリー

(フィーネ視点)


ドンッ!


「お邪魔かしら?」


 先手必勝。相手の後ろめたい気持ちに向けて、全力で無言の圧力をかける。

 大丈夫。アルフの気持ちがどっちに傾いてようが関係ない。

 どっちにしろ面と向かって「邪魔だよ」なんて言えるヤツじゃないんだから。


「え、えぇっと……」


 アルフは私とエミリーに視線を彷徨わせたあと、ひょいっとバケツを持ち上げた。そして私からナイフをウサギを受け取り……


「ありがとう。このウサギはお夕飯の時のシチューにするね。今フィーネの分のティーカップ持ってくるから待ってて」


「…………」

 

 はぁぁぁぁぁ!?

 この状況で自分の彼女と浮気相手を二人っきりにするぅ!?

 何考えてんのアイツ!? え、なに、今から殺し合いを始めてくださいってこと?


 流石に意表を突かれて思わず苦笑いをしながらエミリーの方を伺ってしまう。それが隙となった。


「えへへ。うわぁ。本物のフィーネちゃんだぁ。こうしてお話出来るなんて夢みたい」


 メイド服の娘は裏表の感じさせない柔らかな笑顔で話しかけてくる。

 宮殿でも同じような事を言われたけど、一体全体どういう事だろう。


「ねぇ、エミリーって言ったっけ……私達初対面よね? 前にも言われたけど、私と話がしたかったってどういう事?」


「え、だってだって。囚われのお姫様とか全国の文学少女の憧れじゃないですかぁ。もう私、おとぎ話の登場人物と生でお話してるみたいでぇ。幼馴染を助けるために必死に戦うアルフ君……そして感動の再会! あぁ、もう最高です!」


 …………んぅ?


「え、そんなの山賊に攫われた村娘とか一杯いると思うんだけど……」


「全然違いますよぉ。それ五体満足で帰ってこれないやつじゃないですか。捕まった時点でバッドエンドです」


「いや、私も似たような状況だったんだけど……」


 実際、かなりの確率でデブおやじに四つ這いにさせられてたと思う。


「え、でも結局誰にも指一本触れられてはいないんですよね?」


「まぁね。たまたまよ」


 それに関してはあのケツアゴに感謝しないといけないわね……ホント、それだけは。


「でもでも、ちょっとくらい助けに来てくれる事期待してませんでした?」


「いや、全然」


 だってしょうがないじゃん。私はエミリーとアルフが会うよりもっと前の、凄い弱かった頃のアルフしか知らなかったんだし……


「え? え? でもでも。実際に決闘場で会ったら「来てくれたのね! 私のために!」って……」


「いや、「殺されるわよアンタ!」って言ってガチで焦ってた」


「え~? なんか全然イメージと違いますぅ。聞きたくなかったなぁ、そんな話。あ、でもでも流石に。流石に助け出された時は嬉しかったでしょ?」


「まぁねぇ……ただ、嬉しいと言うより「危ないことさせて悪かった」って気持ちの方が先に出ちゃったのよね~。もったいなかったかなぁ。あの時、感謝の気持ちが前に出てたら」


「出てたら?」


「「ありがとう! 愛してる……!」みたいな展開もあったかも」


「きゃーーーーーーーーーーーーーー!! それですぅ! そういうのが聞きたかったんですよぉ!」


「うふふ。あまーい話ね♪」


「とろけちゃいますぅ! それで!? それでどうなったんですか?」



 エミリーが大きな声を出したせいか、お茶を淹れ終わったアルフが戻ってきた。


「なになに? なんの話?」


「このタイミングで戻ってくんじゃないわよ!」


バシィン!


「いった! なにすんの!?」


 革袋で肩をひっぱたくと、アルフがびっくりした顔で抗議する。


「いいから! 女の子の内緒話に入ってくんじゃないわよ!」


「んもぅ。じゃあ僕、厨房にいるから何かあったら呼んでね?」


 シッシッとアルフを追い払ってエミリーと話を続ける。クッキーをサクサク食べる。


サクサクサクサクサクサク


「まぁ、実際にはなにもなかったんだけどね?」


「ぅえぇっ!?」


 エミリーが凄いショックを受けてまた大声をあげる。アルフが顔を覗かせるからシッシッと追い払う。


「いや、まぁ一瞬甘い雰囲気が流れ……なくもなかったんだけど、場所が場所だったしねぇ? 特に何も発展しなかったわよ」


「うそっ!? そ、そんな……そんな夢シチュでなにもないなんて……その状況で告白しなかったらいつ結ばれるんですか……許されないですよこれは。全国の文学少女に対する冒涜です……」


 下を向いてブツブツ呟きだす始末。いや、でもしょうがないじゃん。何もなかったんだから。


サクサクサクサクサクサク


「え、って言うかなに? 私達の事応援してくれてる訳?」


「ん~? なんでしょ? 私がアルフ君に興味持ったのって、ルーちゃんからフィーネちゃんとアルフ君の事を聞いて、勝手に私がシチュエーションに対して「良いな~」って妄想してただけで。アルフ君本人とはほぼ初対面に近いんですよね。ただ……」


「ただ?」


「ただ……二日間だけ昏睡状態のアルフ君のお世話をさせてもらったんですが…………アルフ君、時々寝言で「きゅ~ぃ」って鳴きません?」


バァン!


 私は机を叩いて立ち上がった。


「言う! 可愛いよね!?」


 エミリーが顔を真っ赤にしてコクコクと頷く。呼吸が出来ていない。


「反則だよねアレ!? あぁ、もう。なんであんな可愛い生き物が生まれてくるんだろ~」


 

 そして、不審に思ったアルフが再び顔を覗かせる。このタイミングで。


 私はゆらりと立ち上がった。エミリーもゆっくりと振り返る。


「え、な、なに? ちょ、二人とも目が恐いんだけど……」


 アルフがゆっくりと後ずさる。でももう火のついてしまった私達はそれを許さない。


「アルフ。可愛いは正義よ。でもね、それは全てを狂わせるなによりも罪深い正義なの……」


「コヒュー、コヒュー、コヒュー」


ガバァッ!


 私達は飛び掛かり、コブラツイストをかけるフリをして思いっきり抱きつく。エミリーもどさくさに紛れて抱きついて頬っぺたをスリスリしたりしてる。


「イタイイタイイタイイタイ! ナンデ!? コブラナンデ!?」


 それから2人でおしおきと称して散々寝技をかけまくってやった結果……私と同志エミリーは固い絆で結ばれたのであった。

3万PVありがとうございました!

なんか全然決着してない気もしますが、一応アルフに対するざまぁは完了したので明日ちょっとしたオマケ回挟んで第4章〆です。

帰りの船上でフィーネとルーが仲良くなるシーンとか色々カットしてるんで、違和感あったらすいません。

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