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フィーネの回想

(フィーネ視点)


「フィーネちゃんまってまって~」


 幼い頃。いつも自分の後ろを着いて来ていたアイツの姿を覚えている。

 あの頃のアルフは今からじゃ考えられないくらい丸く、コロコロしていて……


「全く。アンタ、アタシがいないと何にも出来ないのね」


 いつもお決まりの決めセリフ。それを言うといつもちょっと照れたように顔を赤らめてくれるのが可愛くて可愛くて……




「ブィーネぢゃん! 死なないで。死なないでぇ!」


「バカね……アタシがこんなんで死ぬ訳ない……でしょ」


 菜の花畑の奥の森で、アイツが大きなハチに襲われて……私は木の枝を振り回して立ち向かった。

 そして刺されて熱を出して……その時もあいつはギャンギャン泣いてたっけ。

 そう、私はちょっとカッコつけたかった。その結果……アルフを心配させてしまった。




 今回の件にしたって、アイツを庇おうとしたって言うのとはちょっと違う。

 ただたんに凄いね、強いね、カッコ良いねって言って欲しかっただけで……


 相手が何を使おうと卑怯とかそういう事を言うつもりはない。

 だって、冒険者なんて職業選んだ時点でまっとうな死に方すると思ってなかったもの。


 死亡した冒険者の半数以上が雪庇を踏み抜いて滑落したり、戦闘以外の原因で死ぬ。

 それにA級の冒険者が必ずB級やC級のモンスターに勝つとは限らない。

 それどころかモンスターですらないただの毒虫や寄生虫にやられてしまう事もある。


 昨日まで楽し気に話してた綺麗なお姉さんが、ゾンビみたいな顔になって再起不能になるなんてよくあることだ。

 仲間にレイプされて山中でそのまま埋められてしまう事も多いと聞く。

 男3人、女1人みたいな組み合わせは特に注意しろと。


 

 だから今回の事はある程度割り切って諦めてたつもりだった。完全に自業自得だったし。

 でも、そっか。そうだよね。アイツが心配しないはずなんてなかったんだ。


 きっとあの時みたいにあの子をギャンギャン泣かせてしまったかもしれない。

 けれど彼は……立ち上がって助けに来てくれたんだ。

 そして今、私の知らない街で英雄みたいな扱いを受けている。

 何もかもが信じられないけど、すれ違うあらゆる人々の反応が現実なんだよと世界に色を塗る。



 がさつで乱暴でも、強ければなんでも許されたかつての私はもういない。

 ここにいるのはアイツがいないと何にも出来ない私。


 でも、それって本当に悪い事なんだろうか?

 アイツは変わった。なら、私も変われる?


 もっと女の子らしく……あぁ、そう考えるともったいないことしたなぁ。

 決闘の時の私は「アルフが殺される!」って思いで頭がいっぱいで。

 もし、ほんのちょっとでも助けに来てくれる事を期待していたなら……

 そしたら再会の時。飛びついて、キスして。勢いのまま告白しちゃったりなんかして……


 フフ。でもそんなドラマティックには変われないか。

 気が付くともう玄関の前に来ていた。私達の家。新しい生活の象徴。

 ここで私と、アイツと、あの、尻尾の生えた不思議な同居人の、新しい生活が始まるんだ。

 変わっていこう、少しずつ。きっと、戦う事以外にも私に出来る事があるはずだ。


「ただいま~」


 玄関をくぐる。そして、アイツは……

 家の中で他の女とイチャイチャしていた。

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