お家に帰ろう
「ふんふ ふんふん~♪ ふんふふん~♪」
それなりの家具は残されていたんだけど、何がどこにあるか把握しきれてないからまだあまり大したものは作れない。
今日はまだパンは焼けないから、今晩の主食はジャガイモをボイルしてバターを添えたものにする。
レタスとトマトの簡単なサラダを用意して、鶏の骨とたまねぎを効かせた野菜スープ。
そしてメインはちょっと奮発してグリルチキンだ。
鉄板の上で鶏の肉に軽く塩コショウをふる。オリーブオイルを塗ってオーブンで焼いて……
ハーブとレモンの用意もしてお皿も並べて、準備はばっちりだ。
「なのダ~♪ なのダ~♪ なのなのダ~♪ なのダ~♪ なのダ~♪ なのなのダ~♪ なのダ~♪ なのダ~♪ なのなのダ~♪ 世界は獣ノものになルー♪」
ご飯が出来あがるのを楽しみにしてルーが片足を交互にあげて踊る。
「ヌッフッフ。もう待ちきれにゃいのダ☆」
「ほらほら、よだれ垂らしたらダメでしょ。フフフ」
ルーの口を拭いてあげる。
しかし、空が夕焼けに染まってもフィーネは戻ってはこなかった。
………………
「ガウ……」
「さ、流石にもうそろそろ帰ってくると思うんだけど……」
もうとっくに焼きあがって全部お皿の上に並べてある。
ルーが今にもかぶりつきそうになっているのを鋼鉄の精神で抑え込む。
ただ、さっきから言語能力が野生に還りつつあるな……待たせるのもそろそろ限界だ。
「お、遅いね……」
「ウガー! お夕飯の時間ニ戻ってこなイとは、ネコ畜生にも劣るおバカさんなのダ!」
「さ、探しにいこっか……」
「なのダ!」
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ルーが匂いを追跡してくれたおかげでフィーネはすぐに見つかった。
「うぅ、アルフのばかぁ。一緒に住もう……までは言わなくても、ちょっとくらい泊めてくれたっていいじゃないのよぅ……」
彼女は酒場で……なんかやさぐれていた。
「ちょっとフィーネ! もうとっくにお夕飯の時間過ぎてるよ?」
「えっ、アルフ!?」
後ろから声をかけると彼女は驚いて振り返った。
「こんな時間までなにやってんの!? あぁっ!? ご飯の前に甘いもの飲んじゃって……ひどいや!」
「えっ!? えっ!? えっ!?」
「モー、早く帰ルのダー。ご飯冷めちゃうのダー」
ルーがフィーネの腕をぐいぐいと引っ張る。
「へ? わ、私お呼ばれしてるのかしら?」
また変な事を言い出す……ルーが本格的にグズりだす前になんとかしないと。
「何言ってるの? 今日からあの家にみんなで住むんだって! 話聞いてなかったの?」
「え、じゃあなに? 私も一緒に住んでいいってこと?」
フィーネは一体何を言ってるんだ?
無言で頷くと、彼女はガタンと椅子を倒して立ち上がった。頬っぺたをちょっと赤くして八重歯を覗かせながら僕にくってかかる。
「あ、あんたねぇ! そういう大事な事は口に出してはっきり伝えなさいよ!」
「そんなの言わなくたって当たり前でしょ? 今までだってしょっちゅう同じ建物で寝てたじゃないか」
「同じ宿屋で別々の部屋に泊るのと、同じ屋根の下で住むのとじゃ全然意味が違うでしょうが!」
「……そうなの?」
シモンさん……がいないのでルーに尋ねる。もう、シモンさんがいたらパパっと解決するのにこういう時に限っていないんだから……
「ルーにはわかんなイのダ」
ルーが眉毛を八の字に寄せて首を振る。って言うかもうホントに帰りたそうだ。
「ねぇ、話はあとで聞くからとりあえずご飯食べながらにしよう?」
最悪、フィーネを置いて先にルーだけご飯食べさせてしまおうか。いよいよ困ってそんな事も考えだしてたんだけど。
なぜかここで急にフィーネの機嫌が良くなったんだ。顔なんてちょっとニヤついてて若干嬉しそうですらある。
「ふんっ! ま、まぁお互いちょっとした誤解があったみたいだし? アルフがどうしても。どーしても! って言うなら一緒に住んであげなくもないけど……」
「ナー。もう帰ロー? お家帰ロー?」
「ねぇ。もう話はあとにして帰ろうよ……」
「うぐぐっ! ど、どうでもいいことみたいにぃ!」
なにやらぶつぶつ呟くフィーネをひっぱって、僕たちは家に着いた。
帰り道でルーが「まったク、エサの時間モ守れないとハ! ニンゲンってやつハ畜生の風上ニも置けん生き物なのダ」なんてちょっと恐い事を言ってた気がする。
まぁご飯を食べだした途端、手の平を返して人類の技術の歴史を絶賛し始めたからいいんだけど。
……最近、フィーネが変なんだ。そして、更に事態をややこしくする人物が……
え~っと、まず。翌日、エミリーが来たんだけど…………




