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僕たちのマイホーム

 宮殿を出て階段を降りる。街の中を歩けば相変わらず凄い歓声だ。これいつまで続くのかな……

 そして僕たちは少し大き目な木造の一軒家に案内された。先導してくれた衛兵さんが鍵を開ける。


「ここだ。気に入ってくれるといいんだが……」


「お邪魔しまーす」


「お邪魔するわ」


「こんにちワー」


 玄関を潜ると広い応接用のリビングが広がる。


「わー。なんだか感じの良いおうちですね」


 中に入ると杉の木のふわっとした香りが広がる。

 宮殿みたいな煌びやかさはないけれど、木造のしっかりした味のある家だ。

 柱をぺたぺたと触ると、綺麗にカンナがけしてしっかり防腐処理がされているのがわかる。

 天井が高めに作られてるのも好感触だし、限られたスペースで最大限にゆったりとした雰囲気を出している作りだ。


「どうだ? ここに住んでみないか?」


「え、借家って事ですか?」


「違う違う。……元はドラゴンが攻めてきた時に殉職した隊員の持ち家でな。奥さん、子供を連れて実家に帰るって言うから退職金代わりに色をつけて街が買い取ったんだよ。代金は要らないからここをお前の新しいマイホームにして欲しいと思っている」


「……っ!?」


 思わず息を呑んでフィーネと顔を合わせる。

 え、タダで!? こんな立派な一軒家を!?


「まぁ、すぐに返事してくれなくてもいいよ……とは、言えないのが立場的につらいとこだがな。……正直、俺はお前らをこの場所に縛り付けておけるとは思ってない。前回の戦いの後、西の方で飛行するドラゴンの目撃情報が数件寄せられたが、それ以降なんの情報も入っていない。もしどこかよその街が襲われたら……お前達は行ってしまうんだろう?」


「それは……多分……」


 ルーの方をチラリと見る。


「ルーはアルフについてイくだけダ」


「えっと……はい、そう思います」


「だろうな。別に止める気はないよ。けど、まさか歩いて闇雲に探し回る訳でもあるまい。ここなら情報も入ってきやすいし、お互い助け合えると思う。ま、俺の要望としちゃそんな感じだ。そこんとこ踏まえた上で案内を続けさせてもらっていいか?」


「は、はい!」



 なんてこった。この家が僕達のものに……僕はついつい浮足立ったまま案内を受ける。


 広々としたキッチンにアイスボックス、立派な石窯まである。

 少し急な階段を登ると、大きな窓のある日当たりの良さそうな寝室が2部屋。

 よしよし、天井を見上げても隙間のないしっかりした作りだ。綺麗に掃除も行き届いている。

 さらに嬉しい事に。1階から石造りの階段を降りると地下に錬金術のラボまであったんだ。


「す、すごい! でも、なんでこんなものが……」


「衛兵になる前、そいつも冒険者だったんだよ。山が好きなヤツでなぁ。子供が出来る前は何度か奥さんと一緒に登ったよ。薬草とか食べられるキノコとか変な昆虫とかすげぇ詳しくてさ。そう言えばあいつの自作の下痢止めに助けられた事もあったっけ……」


 ふと横を見ると、シモンさんはどこか遠くを見つめて儚げな顔をしていた。きっと、この家の前の持ち主は良い人だったんだろう……大事に住んでたんだろうな。



「あ、あの。シモンさん!」


「ん?」


「決めました! ぼく……この家に住みたいです!」


 タダでもらえるなんて夢みたいだ。でも、この家だったらローンを組んででも住みたい気がする。


「そうか……ありがとよ」


「そんな。お礼を言うのはこっちの方ですよ」


 そのあといくらか話をして、玄関で鍵を受け取ってシモンさん達は帰っていった。




 ルーはスンスンとあちこちを嗅ぎまわってる。僕はちょっと手持無沙汰になってフィーネに話しかけた。


「凄いね……まるで夢みたいだと思わない? 街の人達が歓迎してくれて、家までもらえて……ちょっと前までこんなの考えられなかったよね」


 フィーネがうなじの髪をかきあげて言った。


「凄いわ。本当に……ねぇ、さっき言った事、本当なの? ドラゴンが出たら戦いにいくって……」


「うん。ルーについていってあげようと思う。僕なんかじゃ全然戦力にならないんだけど……」


「…………」


 なんだろう。フィーネが凄い僕の事見つめてくる。

 前は無言で見つめてくる事とかほとんどなかったのに。やっぱり例の一件以来なんかおかしい。


「ねぇ、アルフ変わったよね。私なんて未だにあなたがガイに勝ったのが信じられないもの。うぅん。私を助けるために決闘を挑もうとするだなんて夢にも思わなかった」


「どう……なのかな。自分じゃよくわかんないんだけど。アハハ」


 変わ……ったのかな? うん、少しは変われたと思う。

 もし変われたとしたら。それはルーやシモンさん、そして死んでいった衛兵さん達のおかげだ。

 だからきっと、良い変化なんだと思う。



「ねぇ、アルフ…………私達、幼馴染よね?」


「え? うん」


 そうだよ?


「し、親友よね?」


「うん」


 そうだよ?


「素敵なお家ね? 誰か1人くらい泊めても十分余裕があるわ」


「うん」


 そうだね。


「わ、私この街に知り合いいないんだけど……」


「あ、うん」


 ごめんね? 遠くまで来てもらっちゃって。


「あ、あなた私になにか言う事があるんじゃないかしら?!」


 ………………………………ん?

 なにを?


「?」


 なんだろう? 全然わからない。

 もしかして最近フィーネの様子がおかしいことと関係がある?


 ……って言うか怒ってる? そりゃそうか。僕のせいで奴隷になりかけたんだもんな。


「あ、あの」


「うん! なに!?」


「(助けにいくのが遅くなって)……ごめん」


「…………え…………」


 どうも僕の謝罪はお気に召さなかったらしい。

 フィーネはまるで「ガーン!」って言う音が聞こえてきそうなくらいショックを受けて、2歩あとずさった。そして……


「ア、アルフのバカーーー!!!」


 絶叫して彼女は飛び出してしまった。どうやら怒らせてしまったみたい。




「まいったなぁ。お夕飯までに帰ってきてくれるといいんだけど……」


「どうしたのダ?」


「うん、いや、フィーネ怒っちゃったみたい」


「それはいかんナー。でもまァお腹すいたラ勝手に帰ってくるのダ」


「そうだね……そうしよっか」


 よし、フィーネの機嫌を取り戻すためにも今日はちょっと頑張ろう!

 僕達は簡単なお掃除だけ済ませてから食材の買い出しにいき、夕飯の準備にとりかかった。

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