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涙目になって敗走する首長

「いやー、助かったよ! アタシん家、鍛冶屋やっててさぁ。流石に親父1人じゃ任せらんないからどうしようかと思ってたんだけど。職業柄、衛兵連中とことを構える訳にもいかなくってねぇ」


 赤いポニーテールのお姉さんが豪快に笑う。あ、素の喋り方はこんな感じなんだ……


「すいません、ご迷惑をおかけして……」


「いーって、いーって! 私も年甲斐もなく可愛い衣装着れて楽しかったよ。しっかしバカだねー。街一番の美人を集めてVIPを歓待しようってのに、私なんかに声かけてどうすんのってね」


 カラカラと笑うその表情には皮肉や自虐めいた影は一切ない。え、まさかこの人気付いてないの?


「え? あ、あの。お姉さんは凄く美人だと思います……よ?」


 そういうとお姉さんは一瞬目を丸くしたあと、にまーっと笑って。


「なんだい……惜しい事しちゃったかなー。ま、しょうがないか! アタシ、サニアってんだ。装備の事ならなんでもうちに寄ってってよ。もし自作するスキルがあるなら設備を使ってくれて構わないよ!」


「あ、ありがとうございます」


「……………………」


 良かった。あまり禍根を残さずに済みそうだ。と、思ったら金髪の小さい子が凄い勢いで駆け寄ってきた。なんか目が血走ってて恐い。


「ご、ご主人たま! キノラは小さい頃からお父さんにマッサージが上手いって言われてたのら。経験は無いけどきっと夜のご奉仕も……」


 と、なにやら不穏な発言が飛び出しそうになったところでサニアさんに首根っこを掴まれる。


「こら! キノラ。新婚さんなんだから邪魔するんじゃないの!」


「し、しんこっ!?」


 うわぁ、なんでフィーネにまで飛び火させるの!?


「やめるのらー! キノラの可愛さは3食昼寝付きで愛玩動物として金持ちの美少年に飼われるために神様から授かったチートスキルなのらー!」


「はいはい、酒場のアイドルで我慢しときな」


「うがぁー! マジで放せクソババァ! もう汚ねぇ酔っ払いのゲロと戦いながら床掃除するのは嫌なんじゃー!」


「ババッ!? アンタ私とタメだろうが!」


 あの女の子、お姉さんと同い年なの!? って事はもう成長期終わってるのか。なんて可哀想な……


 二人はギャンギャンと何かを喚きながら部屋を出ていった。若干涙目になった首長も二人の影に隠れるようにこっそりと出ていく。


 そして……



「エ、エミリー。本当にごめん。このお詫びは……」


 エミリーは頬っぺたをぷくーっと膨らませていた。見るからに怒ってる。まぁ……当たり前だよね。


「……あんまりです……」


「ほんとにごめ」


「もー! せっかく恥ずかしいの我慢して頑張ったのにー! ちょっとくらい可愛いって言ってくれてもいいじゃないですかー!」


 謝ろうとすると、突然エミリーが両手の拳を軽く握って僕の胸をポカポカと叩いてきた。


「え!? え!? え!?」


 混乱する僕に、エミリーが今度は左手を腰にあてて人差し指を突き付けてくる。ほっぺたはまだプリプリしたままだ。


「あのですねアルフ様。いえ、アルフ君! 勘違いのないように言っておきますけど、私はここに無理矢理連れてこられたんじゃありません!」


「え、あ、あの……」


「私が首長から命令された勤務内容にはですね。夜のご奉仕以外にもベッドメイキングやお部屋のお掃除など、様々な身の回りのお世話を承っております。私も治療院を出てこちらに住み込みになりますので、アルフ君達と凄く近いところで生活する事になります」


 と、そこまで言うとエミリーが急にトーンダウンした。視線を逸らして人差し指をつんつんと突き合わせている。


「ですので、その……ご迷惑でなければお傍に置いて頂きたいと申しますかなんと言いますか……」



 そこまで言うとエミリーは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 え、なにこれ。なにが起きてんの。

 予測不能な事態に僕が硬直していると意外な人物が声をあげた。


「はぁぁぁぁ!? 急に現れて何言ってんの!? って言うかアナタ誰!?」


「フィ、フィーネ!?」


 訳もわからずに激昂するフィーネ。

 さらに混乱する僕たちに追い打ちをかけるように、エミリーが訳のわからないことを言う。


「あ、ごめんなさい、挨拶が遅れちゃって。私、あなたともとってもお話したかったんです。フィーネちゃん。って、呼んでいいですか?」


「……へ? わ、私?」


「はい。あぁ、想像してた通りすっごい可愛いですぅ……」


 ……訳がわからない……

 さっきから会話って成立してる? なんなんだこれは。どこから狂ったんだ?


 ふと、森の魔女の幻惑トラップの記憶が蘇る。

 まさか……僕は今、正体不明の敵に攻撃を受けているのか?!

 と、なれば状況を打開するのはあの人しかいない!


 僕が期待を込めて視線を向けると、シモンさんが気まずそうに口を開いた。


「あ、あぁ~。すまん。その話、長くなるか? こっちも仕事が溜まっててな……先に俺の用事の方を見てもらいたいんだが」


 フィーネもエミリーもまだ何か言いたそうだったけど、指示に従って動いてくれる。

 ドアの外でルーを回収した僕たちはエミリーと一旦別れ、シモンさんに続いて宮殿をあとにした。


 やっぱりこの人がいないと話が進まない。

 流石は大人の男の人……大人の男の人だ!

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