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引き留める首長

「よくぞ舞い戻った英雄よ! ……なんてな。言ってみたかっただけだ。だが、待っていたよ。本当に……本当に待っていた」


 2週間ぶりに会った首長は幾分かやつれていて、後ろ向きに固めてた前髪が力なくパラリと垂れていた。


「首長。角の件に関しては後ほど別途詳細を報告させてください。若干説明が難しいので……ですが、俺の考えが正しければこの件に関してはとりあえずの危険は回避されたかと」


「うむ。ところでその……」


 首長さんの目線がシモンさんの腕に行く。


「……正直に言って剣は握れません。治る見込みも不明です。どちらにせよ一度部隊の指揮に戻ります。報告書も溜まっているので。今後の事についても後でご相談させて頂きますので、まずはアルフ達を労ってやってください」


「うむ……そうだな」


 首長さんが玉座から立ち上がり、こっちに向かって歩いてくる。膝をついて僕とルーの手を片方ずつ握ると、首長さんが口を開いた。


「本当に……本当によく戻ってきてくれた。君たちがいないあいだ。やれ『ドラゴンはどこにいったんだ』『戻ってくるのか、来ないのか』『帝国や他の首長、市長はなんと言ってるんだ』『対策はどうなってるんだ』『避難民をどうするんだ』と毎日毎日毎日毎日……」


 首長さんが手に力を込める。ちょ、痛い。イタイタイタイタイタイタイ。


「待っていたぞ。君たちの帰還を。グリーンヒルは君たちを歓迎する」


「あ、ありがとうございます」


 首長さんは満足気に大きく頷くと、玉座の前に戻っていった。フィーネはポカーンと口を開けたまま突っ立っている。



「さて、始めようか。まず勇者ルーよ。ドラゴンを見事撃退した功績は今更語るべくもない。そなたがいなければ街は火の海と化すところだった。グリーンヒルを代表して礼を述べよう」


「ハハー!」


 ルーが両膝をついて両手を挙げ、掌を前に向けてゆっくりと倒す。うん、なんかやっぱりこの子の文化圏って僕たちと違う……



「さて、褒賞の件だが……街をまるまる救ったのだ。これは過去のどんな功績にも比類する事の出来ないかつてない大きなものだ。よって、今回「ドラゴンバスター」と言う新たな称号を設ける事にした。まず栄誉一級市民の全ての特権に加え、私へのアポイントメント無しでの謁見、あらゆる税金の免除、牢獄を含むすべての施設への立ち入り許可など様々な特権が課せられる。また、衛兵やお抱えの魔術師達に対しても一定の指揮権が与えられる。命令系統などの詳細は追って執政官から説明を受けてくれ」


「えぇっ!?」


「うそっ!?」


 む、無茶苦茶だ! 僕とフィーネが思わず声をあげてしまう。


「あ、す、すいません!」


 しまった。大事な謁見中の最中なのに……俯いて謝罪すると


「いいんだ。気にしないでくれたまえ」


「気にするナ」


 いや、君は気にしろ!


「物品による謝礼に関しては、アルフ君が昏睡状態だった時にルーちゃんと話したのだが……代理としてアルフ君にまとめて渡して欲しいとの事だ」


「試しニ剣とか貸しテもらったんだけド、すぐ壊れちゃっタのダ。今ノところルーに合う装備はナイのダ」


「と、言う事だ」


「は、はぁ……」


 頭がクラクラする。横に視線を向けるとフィーネも苦笑いだ。

 ルーの首に勲章がかけられ、なにやら書状をもらう。すると次は僕に視線が集まった。



「次に、従者アルフよ。まず君の功績についてだが、ルーちゃんを連れてきてくれた事に関しては言うまでもない、が。それだけではない。君が救出にあたってくれた宮廷魔術師のオシム師についてだが……私が首長の任につくよりもはるかに以前からこの街に尽力してくれた人だ。彼を救い出してくれた功績は計り知れない。私個人からも礼を言わせてくれ、ありがとう」


 首長さんが頭を下げる。こういった勲章を授けたりする式で、授ける側が頭を下げるのは儀礼違反のはずだ。つまりこれは本当に、個人的なお礼なんだろう。


「あ、いえ……」


「首長」


 どうしよう。あのおじいさんを連れてきてくれたの僕じゃないんだけどな。

 と、返答に迷っているとシモンさんが口をはさんできた。


「もう一つ報告しておきたい事が……アルフの召喚獣がイゾルデを仕留めました」


「なにっ!?」


 一瞬にして場内が騒然となる。


「まさか。嘆きの森の魔女を!?」


「仕留めたというのか」


「流石はドラゴンバスターとその従者……いやはや、たいしたものですな」


 ざわざわと両脇に控えたお偉いさんたちが口々に話し合う。


「本当か?」


 首長さんが目を見開いて訪ねてくる。


「あ、はい。一応……」


 え、でもあれってシモンさんが……と思ったら首長さんが駆け寄ってきた。


「いやぁ。実際には攫われた人数だけで言えば、通常の盗賊団なんかと比べてそこまで甚大な被害でもなかったんだが……いかんせん風評被害が凄くてな。何度か討伐隊が編成されたんだが、大軍を送り込んでもみんな同士討ちを始めてしまって本当に困ってたんだよ」


「クセルから知り合いに頼んで首を送っておきましたので、後日帝国から恩賞の話があると思います」


「わかった。いやぁ、本当に君は大した男だな……」


「いや、でもあれほとんどシモンさんのおかげですよ!?」


「いいんだよ俺の事は。元々サポートについてってやれって話だったからな。通常業務だ」


「えぇ……」


「うぉほん!」


 相変わらずだなこの人は……と、思ってたら首長さんが咳払いをして場を仕切りなおす。

 まぁこれだけ人が集まってる時に押し問答するべきじゃないか……


「とりあえず今日のところは予定通り栄誉一級市民の称号を授けたいと思う。酒場で喧嘩を吹っ掛けられるような事は一切なくなるはずだ。衛兵……と、言うより街全体が君の味方になると思ってくれていい」


「は、はい。身に余る光栄です。謹んでお受けいたします」


 そして僕にも勲章のようなものが授与された。



「ところで……」


 執政官の人からいくつかの簡単な説明を受けたあと、首長さんが切り出してきた。


「今後の予定はあるのかな? 我々としては君たちに是非、グリーンヒルに滞在して欲しいと考えているのだが」


「え、えぇっと……」


 僕としては勿論賛成だ。シモンさんに相当借りがあって全然返せてない。

 ただ、他のみんなの意見も聞かないと……と思って視線をチラチラと彷徨わせると、それを違う意味で受け取ったのか首長さんが肩を掴んできた。


「新築の一軒家をたてる事も考えたんだがな。どうせなら宮殿の来賓室を自由に使ってくれ。プールも庭園もあるし、料理だってこの一帯で最高級の食材とシェフが君を待っている」


「え、えぇ!?」


 そ、そんな。罰当たり過ぎる!


「なぁ、頼むよ。君たちがいないと私はまた終わりの見えない質問攻めに延々と晒される事になるんだ。なぁ、いいだろ? な? な?」


「ちょ、首長! 落ち着いてください!」


「それだけじゃないぞ……ちょっと着いて来てくれるかな」


 首長さんが指を鳴らすと執政官の人が恭しく頭を下げて別室に下がった。


「な、なにを……」


「グッフッフ。気に入ってくれるといいんだがね……」


 首長さんが嫌らしい笑みを浮かべる。なんだか不安になる笑顔だ……

 そして案内された部屋には……





『ようこそいらっしゃいました。ご主人様』


 3人のメイド服を着た女の人が直角に頭を下げている。

 いや、メイド服……なのかこれは?

 パンツギリギリの高さまであげられたあまりにも短すぎるスカート。オヘソ丸出しの上半身。

 そして靴紐のように交差してヒモで結ばれた隙間から胸の谷間がこれでもかってくらい強調されている。


 肩のフリルと下半身しか守ってない用途不明のエプロンドレスや、頭のヘッドドレスがかろうじてメイド服である事を主張してる。

 けどこんな衣装で油ものの調理とかしたら火傷しちゃうよ。この格好で厨房入ってきたら怒るからね僕は!

 これ絶対いかがわしい目的のアレじゃないか!



「よろしくお願いいたしますわ。ご主人様」


 赤いポニーテールのスラっとしたお姉さんがバレエのような動きで膝と首を曲げて挨拶してくる。

 はちきれんばかりに存在感を主張する胸の圧力と、腰のくびれが強調されて……

 み、見ちゃダメだ。部屋の前でフィーネ達も待ってるのに!



「うふふふふ~♪ ご主人たま~。キノラのこと~。た~っくさん可愛がってほしいのら~☆」


 背の低い金髪の女の子がニマーっと笑みを浮かべて挨拶してくる。

 何の凹凸もない胴体が、いかがわしい衣装によって残酷な現実を見せつけられてしまっている。

 可哀想に。こんな幼い子まで連れてこられてしまったのか……


「あ、あの。ご主人様。よろしくお願いします……ね?」


 最後にじっと下を向いて俯いたままピンクの髪の女の子が挨拶する。

 その声を聞いて僕はゾワリと鳥肌が立った。どこかで聞いた事がある気がする。


 「予感はしていたけど脳が否認した」って言うのはこういう感覚の事を言うんだろう。

 だって、今の彼女の衣装も表情も、いつか治療院で見せてくれたあの姿とはあまりにもイメージが違い過ぎて……


「ど、どうして……」


 彼女が顔をあげて、記憶の中の彼女の写真がガシャンと割れ落ちる。

 そこには顔を真っ赤にして、内股でもじもじと膝をすり合わせるエミリーがいたんだ……


※ 2章の後半、14と15話でアルフの介抱をしてた治癒術師

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