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決闘

 そして決闘の当日。僕はルーとシモンさんと一緒に決闘場に来ていた。

 階段を上り、砂が敷き詰められた円形のスペースの先。反対側の出入り口の付近にガイ達がいた。


「よーぅ、アルフ~。まさか本当にお前だとはなぁ」


「クッシッシ。白金貨にも驚いたデスが、その装備はどういう事デス? 大金持ちの男色家にでも気に入られたデスかね。クッシッシッシ」


 久々に会うガイの装備は全身を鈍い金色の鎧で覆い、頭には仮面のように顔面まで覆うトサカのついた兜を被っていた。

 リドがガイに耳打ちする。


「ガイ。ガイ。アルフのあのローブは召喚士用の高級品。アルフのお古と言うのは癪デスが、是非とも私に……」


「わーってる。わーってる。なるべく傷を付けずに首を撥ねてやるぜ……カッカッカ!」


 ガイは両手を広げて決闘場の中央まで歩み寄ってきた。


「悲しいなぁ、オイ。どうやって手に入れたか知らんが、装備の性能頼りで俺に勝てると勘違いするほどバカだったとはなぁ」


「おい、わかってると思うが……」


 見え透いた挑発。シモンさんが心配して声をかけてくれるけど、もう以前の僕じゃない。


「大丈夫……です」


 そして僕も決闘場の中央に歩み寄る。ガイの目を見据えて対峙すると、少しだけ足が震えた。

 記憶に刷り込まれた先入観は簡単には消えない。それでもルーもシモンさんも色々な代償を払って僕に協力してくれたんだ。

 だから拳を握りしめて瞳をそらさずに真っ直ぐに見つめる。見つめる事が出来る。



「気にいらねぇなぁ……なんだその目つき? なぁ、コラ。あぁ?」


 出会った当初のガイは良い奴だった。面倒見があって、頼りがいがあって。だけど才能に溢れた彼はあっという間に頭角を表すようになり、良い人も悪い人も色んな人達がすり寄ってきた。そして、若かった彼には暗がりの誘惑の方がより魅力的に映ったんだろう。

 正直に言うとガイの将来を心配する気持ちが全くない訳じゃない。段々と彼が反社会的な人達と付き合うようになっていった時、僕がルーやシモンさんみたいに強かったら……僕たちはもっと話し合う事が出来たんだろうか。

 

「僕は……色んな過ちの末にここにいる。君の現状や取り巻きについて何か言う資格は僕にはないよ。だけど前を向いて君に勝つ。許してくれる人がいて、大切なものがわかったから」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? イカれちまってんのかコラァ!!?」


 ガイが大声を出すけど、今更そんなものに意味はない。僕の態度がよほど不服だったのか、ガイは唾を吐き捨てて自陣の方に帰っていった。


-----------------------------------


「おい、アレを出せ。いくらバカだからっつったって俺に勝てる気でいるのは気にくわねぇ」


 ガイが顎をしゃくると、リドが頷いて向こうの出入り口の階段を下る。そして再び戻ってきた時、リドは鎖を握っていた。その先には……


「フィーネ!?」


「ご、ごめんなさいアルフ。わたし……」


 向こうの陣地の出入り口から、手枷を嵌められたフィーネが出てきた。首輪が鎖に繋がれ、表情は怯えている。

 僕に見せつけるように強引にフィーネを前に突き出し、ガイがいやらしく笑う。


「逃げてアルフ! 私の事はいいからっ!」


「思い出したか? 俺に逆らったらどうなるかってのをよぉ? あの強気なフィーネも負けたらこのザマだぜぇ」


 視界が歪む。足元がグニャグニャして自分が真っ直ぐ立っているのかどうかもわからない。

 人生とは積み重ねだ。そしてこれが強い人達のやり方だ。

 彼らは自分に逆らってはいけないと言う事を刷り込んで、刷り込んで、思考を奪い、思考を……



「くだらんナー」



「…………は?」



 問い返した声は誰のものだっただろう。だが、その場にズカズカと割り込んだのは間違いなくルーの声だった。



「それがニンゲンのやりかたカ? 威嚇はナ、戦いたくナいヤツのやることダ。戦いたくナいならナにしにきたんダ?」


 そう言ってルーは尻尾を前に出し、ドラゴンの角のかけらを離した。そしてそれが地面に落ち……


『GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 圧倒的な呪いの瘴気が場に溢れ、僕の脳裏にあの日の雄たけびが蘇る。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!?」


「なんだあれは!?」


 観客がどよめいて遠ざかろうとする。ガイ達も公証人さんも慌てふためいている。


「見ロ。あいつらじャドラゴンと戦えなイ。でも、アルフは逃げなかったダロ?」


「……ルー……」


「ルーにしちゃ荒療治かもしれねぇな……が、方向性は悪くないと思うぜ」


 シモンさんが苦笑して、ルーと一緒に出入り口に戻る。


「気合い入れてけよアルフ。イゾルデの討伐パーティーがその辺のB級冒険者に負けたら笑い話にもなりゃしねぇ」


「がんばレー!」


「ありがとう……ありがとうございます!」


 僕は呪文を唱えて異界の籠手を召喚する。ドラゴンの角のかけらには武器破壊の効力がかかっていて、通常の装備では掴む事も出来ない。

 だが、異界から召喚されたこの籠手は性質変化させられてはいるものの、生きている使い魔だ。つまり、浸食してくる呪いのダメージを使い魔が肩代わりしてくれる。


「うっ……!」


 角のかけらを拾い上げると棘が食い込んでくるかのようにジクジクと痛む。

 これを直接掴んでいたシモンさんは、どれほどの痛みに耐えていたんだろうか……


「き、きみ。大丈夫なのかねそれは……」


 公証人さんが角のかけらを指さしてこわごわと尋ねてくる。


「大……丈夫……です……はじめましょう」


 リドとフィーネが向こうの陣地に戻って行く。痛みとともに意識が覚醒していく気がした。もしかしてこの角には対象を狂暴にさせる効果があるのかもしれない。


「フィーネ! 僕、勝つよ。もっと恐ろしいものを見てきて……そして、それに立ち向かう人達が力をくれたんだ」


「アルフ……」


 背中越しに振り返ったフィーネと目が合う。僕は精一杯力強く頷いた。ルーやシモンさん達が僕にしてくれたように。大丈夫だよって気持ちにさせてあげたくて。


 ……そして……出入口と決闘場を仕切る鉄格子があがった。


-----------------------------


「おい、リド! なんだありゃ!? 聞いてねぇぞ!」


 向こうの陣地でリドとガイはなにか相談していた。きっとドラゴンの角に関する事だろう。


「わからないデス……なるほど、アルフが1人で決闘だなんておかしいと思ったデス。あれが向こうの切り札みたいデスね……」


「ったく。高級そうな装備といい、どっからあんなもんもってきやがったんだ……この一か月であいつになにがあったんだ?」


「ガイ。落ち着くデス。どのみちアルフに近接戦はありえない。いくら装備がよくても本体はポンコツデスから。きっとあの魔道具から何か魔法を放つ気デスね。で、あればやる事は1つ……」


「そうだな。射出型か放射型かは知らんが、どっちみちこの反魔の盾を構えて突っ込んでおしまいだ。あいつが何かする前に決めてやるぜ」


「クッシッシ。新しい装備を手に入れたのが自分達だけじゃないって事を教えてやるデス。組織の力を思い知らせてやるデスよ」



 相談を終えたガイが開始位置まで歩み寄る。

 僕も少し中央に歩み出て、狼型の使い魔を召喚した。

 公証人さんが僕とガイの顔を見比べる。そして……


「はじめ!」


  

「うおおおぉぉぉぉぉ!!」


 ガイが盾を構えて突っ込んでくる。と、ガイの盾からエメラルドブルーの光の層が浮かんだ。

 あれは、アンチマジックシールド!? またそんな高価なものを!


「いけっ!」


 僕は狼型の使い魔をけしかける。しかし


「見え透いた囮だなぁ! なにもさせずに終わらせてやる!!」


 元々狼型の使い魔は飛び掛かるフリをしてバックステップと伏せ、ローリングを使い、相手の様子を見る事が目的だった。

 しかしガイはそんな使い魔のフェイントに一瞥もくれず、真っ直ぐ最短距離で突っ込んできた。


「しねぇ!!」


パキーン!


 僕の首を狙ってガイは横薙ぎに剣を振り抜いた。彼の手に握られた剣は途中から折れて、その切っ先を失っている。


 ガイは右利きで、初撃を右から振りかぶるクセがある。そして、彼が僕の装備に傷をつける事を嫌がるのも予想がついていた。

 つまりガイが狙ってくるのは僕の左側頭部。もしくは首。

 そこまでわかっていたらあとは恐怖に打ち勝ち、最後まで目をつぶらずにドラゴンの角をそこに合わせるだけだ。

 朝食の前と夕食の後、何度も何度もシモンさんに付き合ってもらった特訓の動きの中の1つ。予想していた中で一番欲しかった動きがドンピシャで来た。


「…………へっ?」


 呆然と折れた剣の切っ先を見つめるガイ。戦闘中に相手から視線を外したその隙は致命傷となった。

 割れたガラス片のような形をしたドラゴンの角のかけらを、彼の首をめがけて振り下ろす。


「うわぁぁぁぁぁ!!」


「うおぉ!?」


 ガイが折れた剣を握ったまま咄嗟に右腕でガードする。しかしどんな高級な防具もドラゴンの角の前には無力だ。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 角のかけらがガイの右腕に突き刺さり、ガイが絶叫の悲鳴をあげる。

 無茶苦茶に暴れまわるような動きで振り上げた足が僕にあたり、僕は壁際まで蹴飛ばされた。


「ぐ……は……」


「いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 畜生! なんだこれ。なんだこれは!!」


 ガイはもだえ苦しみながら角のかけらを抜いて投げ捨てた。


「くっそぉ! ふざけんな。麻痺の杖!」


 ガイが杖を取り出して僕に向ける。だがそれより一瞬早く、狼型の使い魔が飛び出した!


「キャウゥゥン!」


 使い魔が僕の代わりに体を痺れさせ、ドサリと地面に倒れた。

 ガイは事態についていけずに硬直している。この隙を逃してはならない。


「わぁぁぁぁぁ!!」


 僕はリスクを覚悟で突進した。頭から飛び掛こんで馬乗りになる事に成功する。そして兜を剥ぎ取り……


ガゴンッ! ガッ! ガゴッ!


 異界の籠手で包まれた拳。それを何度も何度も顔にたたきつける。


「がっ! ごっ! ぶへっ!」


 折れた歯が飛び、血しぶきが舞い散る。そして……わずかに隙間を空けた口を掴み、ゼロ距離の火炎放射!


「モガァァァァァァァァア!!?」


 凄まじく不快な異臭と煙に顔をしかめながら、全力で火炎放射を叩きこむ。そして……



「そこまで! 勝者アルフ!」


 ガイがビクビクと体を痙攣させ、意識を失う。

 公証人さんが勝利を告げ、僕の戦いが終わった……

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