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フィーネが守りたかったもの

「ちょっと! どういう事よ!」


 ダンッ! とフィーネがテーブルを叩く。


「おいおいおい。何を怒ってんだ。キチンと三等分してやってんだろう? 俺の。寛大な温情によって、よぉ」


「アルフの分が入ってない!」


 フィーネがガイを睨みつけると、ガイは不機嫌そうな視線を僕に向けてきた。

 自然と肩がすくんで下を向いてしまう。


「あぁ?! 荷物持ちなんかが俺達と同じ分け前なわけねぇだろうが!」


「だからって! 全くのゼロだなんて!」


「い、いいよフィーネ。僕、全然役に立ってないし……」


「よくない! アルフは黙ってて!」


 フィーネに睨まれて僕は再び下を向いてしまう。


「クッシッシ。そんな恐い顔したらアルフちゃんが泣いちゃうデスよ」

 

 リドが僕にバカにした視線を向けてくる。


「フィーネもいつまでこんなグズに拘ってるデスかねぇ。頭はカラッポですが胸だけは……あ、ごめん。胸もなかったデス」


「なんですって!」


 僕は会話に加われずにビクビクとみんなの顔色を窺っていた。と、そこでガイが何かに気付いてような顔をする。

 そしてガイは舌なめずりをして、フィーネの体を嫌らしい視線でぬめまわした。


「そうか……たしかにその通りだ」


 ガイが両手を広げて立ち上がり、僕の肩に手を回してきた。


「俺達は仲間だ。仲良くしないといけねぇ。そこでだ。今度からはアルフの分もちゃーんと報酬を分配してやろう。それだけじゃねぇ。クセルで最強の冒険者である俺が、誠心誠意手取り足取りアルフちゃんのレベル上げを手伝ってやろうじゃないか」


「…………条件は?」


「良ーぃねぇ。そういうとこ好きだぜフィーネ。この世界じゃ口約束なんて何の効力もねぇ。頭の良いヤツはみんなそれをわかってる。だからどうだ? 公証人付きの決闘で負けた方が、勝った方の奴隷になるってのは。これならなんでも言う事聞かせ放題だ」


 フィーネの眉がピクリと歪んだ。


「……私の方が強いってわかってて言ってる?」


「そいつはどうかな? 弓兵は不利だぜぇ。1対1の決闘ではなぁ」


 そして、フィーネは決闘の申し出を受けてしまった。彼女はきっと本気でガイを奴隷に落とすつもりなんてなく、ちょっとお灸をすえてやるつもりだったんだろう。

 でも、ガイの方は明らかにそんな感じじゃなかった。僕は止めるべきだったんだ。どんな手を使ってでも……



------------------------------------------------------



 --翌日 決闘場


「ね、ねぇ。今からでもやめた方が……」


「もう書面にサインしちゃったから引き返せないわ。それに……」


 フィーネが僕に向かって可憐な笑顔を見せる。


「大丈夫。私勝っちゃうから。ね?」


 勝気な顔で彼女がウインクしてくる。

 フィーネの実力は僕も知ってるつもり。だけど、僕の胸の中にはなにか得たいの知れない黒い不安が渦巻いていた。


「はじめっ!」


 そして試合は始まってしまった。この世界の決闘では武器の使用が認められていて、降参する前なら殺してしまっても反則にはならない。


「うおらぁ!」


 ガイが盾を構えて突進する。当然そうくるはずだ。

 弓兵は後方から空中の敵を狙ったり、敵の魔法使いを倒すのに向いている。

 反面、一対一の決闘には向かない。よっぽどの実力差がないと、盾を構えて突っ込んでこられたら接近されて終わりだ。


「パワードロウ!」


 フィーネがスキルを使って、気を込めた矢を放つ。


ガキィン! 


 矢が盾に当たって鋼鉄の盾がビリビリと震え、ガイの足が止まる。


「クイックショット!」


 続けざまに恐ろしい連射力で矢が放たれ、盾の構えた徐々に崩れる。


「ぬっ! くそっ!!」


 何度目かの矢を受けて、ガイの構えた盾が弾き飛ばされた。


「おしまいっ!」


 ヒュッ    ドスッ!


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 フィーネの放った矢が、ガイの膝に突き刺さる。ガイは激痛に悶えて地面を転げまわった。


「どう? まだやる?」


 フィーネが勝利を確信して構えを解く。でも、それが致命的な隙となった。


「畜生っ! 調子にのるんじゃねぇぞこのクソが! 麻痺の杖!」


 バリバリバリバリバリ!


 一瞬、何が起きたかわからなかった。ガイが背中とマントの間から杖を取り出してそれを向けると、フィーネがビクビクと体を震わせて膝をついた。


「あぁっ!? か、体が?」


 あれは魔法の杖……中に強力な魔法が込められていて、杖に貯められた魂魄を燃料にして誰でも発射が出来るという超強力な武器。

 でもあれは製造に、今はもう失われたハートストーンと言う鉱石が必要で…… 市場には出回っていないはずのに、なぜあんな高価なものをガイが持ってるんだ?


「クッシッシッシ」


 膝をついて身動きのとれないフィーネに、リドが耳障りな笑い声をあげる。


「実は最近。私の死霊術師仲間からのツテで、とある秘密結社に誘われていたのデス。この魔法の杖は組織からお借りしたもの。ちなみに一本で金貨500枚はするデスから、お前達が一生かかって稼ぐ金額よりはるかに高価な品デスね」


「まぁそういう事よ。俺もここいらじゃ大分有名になってきたからなぁ。そろそろお前らやこの街ともおさらばしようと思ってたのよ。って、マジいてぇなクソが」


 ガイが足を引きずりながらフィーネに近づく。



「この世界の経済を裏から操ってるような本気でやべぇ人達だ。ったく、ちょっと魂魄使っちまったから後ですげぇ料金とられちまうな…… 払ってもらうぜぇ。お前の体でよう」


 ガイが剣の切っ先をフィーネに突き付け、顎を上に向けさせる。


「……っくっ!」


「勝負あり! 勝者ガイ!」


「そ、そんな……」


 僕は呆然と立ち尽くすだけ。フィーネは切っ先を突き付けられてなお、気丈に声をあげた。


「情けないわね! 自分の実力で勝負出来ないの!?」


 それを聞いてガイが高笑いをする。


「あぁん? 決闘は武器の使用も認められてるだろ。なんだよ、不服なのか? いいんだぜ、別に逃げ出してもよぅ。その場合、お前は犯罪者で一生追われる身だがな!」


 フィーネが悔しそうに歯ぎしりする。


「や、約束は守るわ……アンタ達の言う事を聞いてあげる」


「はぁん? さっきの話聞いてなかったのかよ。俺達はもう違う次元の世界にいくんだ。お前を売り払ったらそのままもう2度と会う事もねぇだろうよ」


「クッシッシ。どんなスケベ親父に買われていくのか見ものデスねぇ」


「う、うそ……!?」


 フィーネが目を見開いてガックリと項垂れる。 


「ちょ、そんな。うそだよね! 僕たち仲間なのに!」


 ガイに縋りつくと、片手で振り払われてしまう。尻餅をついて僕は短い悲鳴をあげた。


「仲間……そうだな。確かに仲間だった。恨むなよアルフ。全ては俺に才能がありすぎて……そしてお前に才能がなさすぎたんだ」


「ま。元気でやるデス。フィーネの売買契約が決まったら、相手の顔くらい見せてやるデスよ」




 そして……フィーネは奴隷商館に売り飛ばされてしまった。

 彼女の目には涙が浮かんでいた。

 唇をぐっと噛みしめて彼女は言葉を発せられなかったけど、それでも助けを求めている事くらいは伝わった。


 それでも僕は出来なかった。いや、何もしなかったんだ。

 自分に矛先が向くのが恐くて……

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