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森の魔女と新たな武勇伝

 3日目の晩、僕たちは近隣の村に泊まった。トロールの死体を好きに持っていっていいと言う話をしてあったので、随分と歓待されたなぁ。

 4日目、僕たちは一度街に戻って休養になった。僕はレベルが3上がって8になり、スキルポイントを3つ消費して見習いランクの召喚スキルを獲得した。

 シモンさんはガイ達と会えたみたいで、話がうまくついたと言っていた。ガイ達は罠の可能性なんか全く考えずに、白金貨の話に大喜びしていたそうだ。

 あまりにもすんなりいったらしく、「ありゃそのうち怪しい邪教集団とかに騙されるぜ……」って苦笑してたっけかな。そして……


 5日目。


「あぶねぇぞアルフ! 前に出過ぎだ!!」


 シモンさんが僕を庇うように立ちふさがり、剣でオーガの側頭部を弾きとばす。シモンさんの剣には血、脂、そしてオーガの毛がべっとりとこびりついていて。斬ると言うよりもう殴ってる感じだった。


「まだ……大丈夫です!」


 僕はスキルを獲得して新たに唱えられるようになった召喚魔法。異界の両手槌を呼び出してルーの方に投げる。

 ルーはそれを空中でキャッチして振り回すと、彼女を取り囲んでいた3体のオーガが吹き飛んだ。


「ルー! もう毎回こっちに戻ってこなくても大丈夫。僕が投げて渡すから!」


「ン! わかっタのダ!」


「アルフ! あそこの木の影!」

 

 シモンさんが盾で何かを弾いた。視線の先には、特殊な蔓を使ったスリングでこっちを狙っているオーガがいた。


「炎の精霊!」


 僕が自分で召喚した精霊に指示を出す。精霊の放ったファイアーボールがオーガの顔に命中して視界を遮る。


「GRAAAAAA!!」


「させるか!」


 棍棒を上段に構えたオーガが思いっきり振りかぶって突進。しかし、シモンさんは流れるように身をかわすと、逆にオーガの足を払って体勢を崩す。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 前につんのめって地べたに倒れたオーガに飛び掛かり、首に異界の剣を突き刺す。ブチブチと言う筋繊維の切れる感触と、岩みたいな骨の堅さ。何度もそれを突き刺して、僕はオーガの絶命を確信した。


「や、やったぞ! 僕にもB級モンスターを倒せた!」


 それを見たシモンさんがやれやれと笑みを浮かべる。


「っかー! 張り切る若者ってのは羨ましいねぇ。おじさん、腰痛くなっちまったよ」


 そして彼はオーガの棍棒を拾いあげ、掌をパンパンと叩いて感触を確かめる。


「っしゃ、いくぞアルフ! 気合い入れていけよ!」


「……はい!」


------------------------------------------------


「ハァ、ハァ…………」


「も、もうダメだ……こんだけオーガ倒したのなんて何年ぶりだよ……」


 やがて、オーガの討伐が終わり。シモンさんは装備をボロボロにしてへたりこんでいた。僕も地べたに座って肩で息をしている。


「えらイ、えらイ♪」


「俺じゃねぇだろ! ……今日はあっちの兄ちゃん褒めてやれ。まぁ、気張ったと思うぜ? 昨日と面構えが違う」


 ルーがシモンさんの頭を撫でる。こら! 年上の人になんてことするんだ。



「なぁ、アルフ」


「はい?」


「人間、怠けもんだからよぉ。誰かに認められたくて夢中になってるか、なにかに追い込まれてる時しか頑張れねぇんだ。俺だってそうだよ。だから今日の気持ちを忘れんな。どうせならおっさんに追い込まれるより、可愛い子のために頑張りたいだろ?」


「ハハ……そうですね」


 思わず口元を緩ませると、ルーがトテトテと寄ってきた。


「ヌフフ。ルー、可愛イ?」


 両手の人差し指の先で、左右の頬っぺたをちょっと突いてルーが大げさに体を傾ける。


「はいはい。可愛い可愛い」


 頭を撫でてあげると、ルーがヤッターと言って両手をあげてクルクルまわった。




 しばしの休憩を終え。シモンさんが立ち上がって土をパンパンと払って言った。


「……なぁ」


「はい」


「今日も一旦街に戻らないか? 今晩のうちに宿屋で休めるだろう。そして明日……予定を変更して森の魔女の討伐に行こうかと思う」


「森の魔女……ですか?」


 なんだろう、聞いた事がない。


「あぁ。これまでの相手とは格が違うぞ。だが、今の俺達なら討伐が可能だと思う」


 シモンさんが少し神妙な顔で提案してくる。特に反論する根拠もないので僕たちは街に戻った。

 僕はレベルが9になって、スキルポイントを1使って魔装術強化(素人)を獲得した。


------------------------------------------------

 6日目。

 森の魔女イゾルデの討伐は、現地についてからわずか3時間足らずの間に起きた出来事だ。

 だけど詳細に語るととても長い話になるので、簡単に何が起きたのかだけを記しておこうと思う。


 イゾルデは元は美しい人間の娘だったらしい。そして異世界の勇者の残したスキルポイントによる魔法とは違う、独自の魔導を研究していた。

 やがて彼女は手足が樹木で出来た半人半妖の魔女となり、森の奥に住んで時々人を攫うようになったそうだ。


 きっと討伐自体はルーが誰にも気づかれずに侵入して、襲撃している事すら気づかせずに一撃で首をはねた方が楽だったと思う。

 勿論それだと僕の修行にはならないんだけど、それでも全員で向かった事を後悔するほどには強敵だった。


 粘着性の糸を吐く芋虫のようなモンスターに、下唇が伸縮自在の槍のようになっているカエル型のモンスター。

 砦の周辺には、イゾルデに操られたモンスターの群れが待ち構えていた。しかも丸太を並べて建てられた塀から、スケルトンが備え付けの大弓で狙ってくるし……

 砦の中にも僕たちを惑わす危険なトラップが満載で、ルーとシモンさんが助けてくれなかったら10回は死んでたと思う。


 そして魔女イゾルデとの決戦……ヤツは自分の育てたキノコ型のモンスターを利用した、眠りの胞子の魔法を繰り出してきた。

 これまで格闘戦では無敵の強さを誇ってきたルー。そんな彼女に露呈した、鼻の良さを逆手にとった絡め手と言う弱点。

 絶対絶命のピンチを救ったのは、百戦錬磨を自称するシモンさんだった。


 きっと彼は似たような敵と戦った事があるのだろう。敵の狙いにいち早く気付いた彼は、左腕にナイフを突き刺して無理やり意識を覚醒させた。

 そして眠りに落ちたルーの尻尾からドラゴンの角のかけらを拾いあげ、魔女に向かって走り出した。

 ……右手を真っ黒に浸食されながら、彼は何を思っただろう。


--ウォォォォォォォ!!


 息を止めても肌から浸食してくる眠りの誘惑。それをドラゴンの呪いによる激痛で払いのけ、彼は魔女の胸に角のかけらを突き刺した。

 僕はその時すでに眠りに落ちていたんだけど、夢の中で魔女の断末魔を確かに聞いた。

 そして、僕が召喚していた炎の精霊が魔女に抱きついて自爆したらしい。使い魔もまた、眠りと言う概念のない異界の存在だったんだ。


 魔女の首を持って、僕たちは街に帰った。そしてシモンさんの右手は、ドラゴンの角の呪いのせいで指一本動かせなくなっていた。

 そして彼はその晩、その晩……

 …………

 ……












 酒場で、飲んでいた。


---------------------------------------


「はーい、シモンさん。あーん♪」


「あぁーん♪」


 彼は酒場で飲んでいた。しかも両腕が使えないってんでその場に居合わせた知らない冒険者のお姉さんに手伝ってもらいながら。


バンッ!


「あぁーん♪ じゃないですよ! 治療院! 治療院いかないと!」


 机を叩いて抗議する。


「なに言ってんだお前? 呪われてんだから酒飲んでぶっかけないとダメだろうが。つまり、ここが俺の病院だ!」


 はぁ、もう無茶苦茶だよ……頭を抱えてるとルーが袖をひっぱってきた。


「ナー。ナー。あれやっテー。あれやっテー」


 ルーがフォークにベーコンを刺して突き出してくる。


「あぁ、うん……ちょっとだけだよ」


 火炎放射を唱えて軽く炙ると、ちょっと冷めかけていたベーコンの脂が再びじゅわぁっと泡をふく。


「アリガト♪ コレを……こうダっ!」


 はむっ♪ ゴクゴク ップハー!


「っハー! 仕事ノ後のオレンジジュースは、たまらンナー! これダから! これダからニンゲンってやつハ!」


 ルーはこの薄切りベーコンを直前に火で炙ってからオレンジジュースで流し込むのをいたく気に入ったらしい。いや、まぁ頑張ってたからいいんだけどさ……



「に、しても無茶しすぎですって! 大丈夫なんですかホントに?」


「大丈夫大丈夫。こんなんしょっちゅうある事だから。あ、お姉さん、ちょっと背中まくって、背中」


 そう言ってシモンさんは自分の服を脱がさせると、背中を見せてきた。そこには……


「ほらな?」


「うわっ!? ちょ、傷だらけじゃないですか!!」


 背中には生きてるのが不思議なくらいの無数の古傷があった。


「歳とったらみんなこんなもんだって。本当の修羅場ってのはもっとこう……パンツ一丁で吸血鬼に襲われた時くらいかなぁ」


「な、なんでそんな状況に!? って言うか大丈夫だったんですか!?」


「いやー、すっげぇ色白で美人の未亡人に、夫の形見のアミュレットを盗まれたって言われちゃってさぁ。苦労して盗賊のアジト突き止めて取り返してきたってのに、ベッドの上で襲われてよぉ。しかも腕力が強いのなんのって……」


「そ、それで……どうしたんですか?」


「そりゃまぁ。手も足も出ないんじゃグレートソードで戦うしかあるまい。ダーッハッハッハ!」


「やだー、もう。シモンさんったら。クスクス」


 同席してくれた冒険者のお姉さんがシモンさんの肩を叩く。


「そりゃ仕方ないナ」


 ルーが意味わかってるのかわかってないのか適当な事を言う。


「はっ!? そうだ! 子供の前でなんて事言うんですか!」


「ダーッハッハ! 冗談だよ冗談。……ところでアルフ。お前、前に俺が言った事覚えてるか?」


「えぇっと、酔っ払いは説教と武勇伝が大好き……」


「よーしよしよしよし! まぁ、あれだ。別に冒険者で大成しなくてもそれさえ覚えとけばなんとかなるからな!」


「ナ!」


 ルーが背中をポンポン叩いてくる。


「いや、僕明後日負けたら殺されるかもしれないんですけど……はぁ、まぁいいですよ。シモンさんの武勇伝ってあんまり飽きずに聞けそうですし」


 っと、まぁ雰囲気に流されてそんな事を言ってしまったのがマズかったのかもしれない。シモンさんは満面の笑みを浮かべて……


「おぉ!? 嬉しい事言ってくれるじゃないの! よーし、お前らぁ! 今夜は俺の驕りだぁ!(経費だけど)」


オォー! イェー! ヤッター!


 酒場に歓声が飛び交い、そして酔っ払い達の夜がまた更けていった……




 7日目は休養になった。僕はレベルが4あがって13に。スキルポイントが7増えた(1+3×2)

 僕はスキルポイントを7使って召喚(精鋭)を獲得した。


 そして、決闘当日……

ブックマークたくさんしていただいてありがとうございました!

しかも投稿する度に最新話のPVが凄く多いので励みになります。

路線を変更するべきなのかどうなのか凄い悩んでました。応援ありがたいです。

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