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手を汚す覚悟

ちょっと違和感があるかもしれないので補足。

この世界のレベルとか経験値って言うのはあくまで異世界の勇者の神域にアクセスするための条件であって

完全に強さ=レベルではありません。

例えば10時間くらい激闘を繰り広げたあとにとどめを横取りされちゃった場合なんかも、経験値は全部持っていかれます。

(習熟度は上がります。また、本人そのものの修行にはなります)


あと、ドラゴンの角は一本まるまる折れた訳じゃありません。先っちょがちょびっと欠けただけです。

 最初の3日間。シモンさんに連れられ、僕たちはまず近隣のモンスター退治に奔走した。

 こっちの方でも例のドラゴン騒ぎのせいで、冒険者たちが逃げ出してしまって困っていたみたいなんだ。

 本来なら移動と調査に物凄く時間のかかる地道な仕事なんだけど。ルーが恐ろしい速さで僕たちを乗せて駆け回ってくれたおかげで時間を短縮出来た。

 そして、シモンさんの的確な指示とルーの嗅覚で敵を探し出し、僕たちは凄い勢いでモンスターを退治していった。


 戦闘の様子について語る前に、僕の新しい力。召喚魔法について少し記しておかなきゃいけない。


 一般的な召喚魔法と言うのは異界から使い魔を呼び出して自分の代わりに戦ってもらうと言う魔法だ。

 使い魔と術者は一時的な魂の契約が結ばれて、使い魔が倒したモンスターの経験値は術者に入る。


 僕は以前から最低ランクの召喚スキルを持っていたけど、マジ力が低すぎて何の呪文も唱えられなかった。

 それが今、高級な装備のおかげでちゃんと使い魔を呼び出せるようになったんだ。しかもマジ力自動回復の指輪のおかげで半永久的に。

 

 そこまでは良かったんだけど……僕に呼び出せるレベルの使い魔は余りにも弱く、ゴブリンにも1対1で負けると言う有様。

 そこでシモンさんが提案してきたのが、使い魔をルーがぶん投げて強制体当たりで敵を倒していくという作戦だった。


 「キャウゥゥン(キャウゥゥン(キャウゥゥン))」と言う悲鳴をあげて、狼のような姿をした使い魔がかっとんでいく。

 けれど、魔力によって受肉した召喚体は質量が極端に軽いと言う性質があって、投擲には向かなかった。あと可哀想だったし…… 

 早くも暗礁にのりあげかけた修行を打開したのが。2つある召喚術の外法のうちの1つ、魔装術だった。


 魔装術とは召喚する際に使い魔の性質を変化させ、武器として召喚する魔法のこと。

 この魔装術によって召喚された使い魔は。自分で動く能力を一切失ってしまう反面、武器としては破格の性能を持っていた。

 しかも魔装は使い魔と同じ性質を持っていて、魔装で敵を倒せば経験値は術者に入る。

 だけど性質変化を伴う召喚は通常の召喚より不安定なものとなり、術者の手を離れるとすぐに召喚が解除されてしまう。

 つまり魔法使いが自分で武器を持って戦う必要があるから、今では知る人もあんまりいなくてほとんど廃れてしまっていた。


 術者の手を離れてから魔装が元の世界に還ってしまうまでほんの数秒。まともな剣士が切り結ぶには余りにも短い時間。だけどルーにとっては……

 召喚された異界の剣を僕から受け取り、たった数秒の間に飛び込んでは次々とモンスターを切り裂いていくルー。

 口に剣を咥えて4つ足で駆け抜けていくその姿はあまりにも速く、そして芸術的で……

 僕はまるで世界にスローモーションがかかったかのように、その動きに見とれていた……


…………

……


 ガツン!


「危ねぇぞアルフ! ぼーっとすんな!!」


「えっ!?」


 突如、鈍い音が響いて我に返る。トロールが僕に向けて放った投石を、シモンさんが弾いたらしい。

 気が付くとルーの口に加えられていた異界の剣は元の世界に還っていて、ルーが僕の隣でおすわりしていた。


「ご、ごめん!」


 慌てて次の剣を召喚し、ルーに渡す。そして再び前線に飛び込んでいってモンスターを切り裂いていくルー。

 強い。本当に強い……


………………

…………

……


「……ォィ! ォィって!」


パン!


 軽く頬っぺたをひっぱたかれて意識が戻る。


「おい、大丈夫か!?」


 目の前にはシモンさんがいて、僕の頬を両手で掴んで僕の目を覗き込んでいた。


「あ、すいません! まだいけます!」


 景色が色を取り戻して、意識が覚醒する。マジ力は指輪から供給されるけど、呪文の唱え過ぎで精神的にちょっと疲れちゃったみたい。


「いや……ここまでだ。ちょっと一旦街に戻ろう。明日は半日休養を兼ねて移動時間だ。ルー、すまないけどまた運んでもらえるか?」


「大丈夫なのダ!」




 そして僕たちは帰り支度を始めた。いつの間にか周囲のモンスターはあらかた退治し終えてたみたい。

 さぁ、出発しようかというところで。死屍累々となった森の中を振り返ってルーがポツリと呟いた。


「……こんなにたくさンは、食べきれないナァ……」


「ん?」


 トロールの皮はそこそこの値段で売れる。僕たちは今回素材集めが目的じゃなかったので、後で近隣の住民が回収してくれるてはずになっていた。 

 だけど、トロールの肉は食用に向かない。毛皮や骨、それと錬金術用のいくつかの脂肪や内臓をとられたら、きっと村で焼却されて埋められてしまうんだろう。


「食べてありがとウは出来ないかラ、ごめんなさイするしかないナ。ルーは悪い子ダ……」


「…………っ!」


 それを聞いて僕はハッとする。

 そうか。この子はずっと食べられる獲物だけを追いかけてきて、食べられない敵からは逃げてきたんだ。僕はそれを、それを……


「ご、ごめん!」


 僕は慌ててルーのところに駆け寄り、膝をついて彼女を抱きしめる。


「ごめん、ルー。僕は、君の大事ななにかを汚してしまって……」


 けれども彼女は首を横に振った。


「うぅン。いいんダ。ルーはアルフのためなら悪い子でイイ。いっぱイごめんなさいするゾ。けどナ。アルフは悪い子は好きじゃなイだロ? だかラ1つだけ約束してくレ。ルーの事嫌いになりそうナ時は、ちゃんと教えて欲しイのダ」


 ルーの事を嫌いになる時? 彼女は信じられないことを言った。

 ならないよ……君の事を嫌いになんてなる訳ない。だって君はこんなに良い子じゃないか。

 僕たち人間は、彼女よりもっとずっと殺生に寛容的だ。むしろ人間同士で殺し合ったりもする。

 だけどその点について僕たちは話し合いが十分じゃなかった。ルーは虐殺に手を染めた自分を悪い子だと思ってる。


 なんて声をかければいいのか戸惑っていると、後ろから肩を掴まれて僕は振り返った。


「……ルーは大丈夫だ。人と交わって生きていく事をちゃんとわかってる。だが、決して軽くはない。無意味でもない。汲み取ってやれ。お前は問われている」


 そして僕は前を向いてルーの顔をじっと見つめた。


「ありがとう……僕のために」


「だいじょーブ! ルーはナ。チョットだけ強イんダ」


 ルーが僕の首に腕をまわし、「だいじょーブ、だいじょーブ」と言って背中をポンポン叩く。そして


「チョットだけナ」


 そう言って彼女は人差し指と親指の間に少しだけ隙間を作り、片目をつぶって悪戯っぽく笑う。全然大したことないよって。



 ウソだ。絶対ウソだよ。大したことなくなんてないんだ。人差し指と親指が少し震えてたから、鈍感な僕にもわかってしまった。

 ルーは僕に嫌われる事を恐れていながら、それでも僕の力になろうとしてくれてるんだ。


 食べられるものだけを襲い。意味もなく殺したりはしない。ルーのその信念は別に何も間違っちゃいない。

 そして、僕に嫌われたくないって言う気持ちも何も悪い事じゃない。

 それでも、自分の中でどうしてもやりたい事が出来た時。ルーは自分の意志でそれを捨てる事が出来る。変わる事が出来る。それがルーの強さ。



 僕はずっと避けられる戦いは避けて通れたらいいって思ってた。人を意味もなく傷つける事は悪い事だって思ってた。

 やられたらやり返すって言うのを繰り返してたら、際限のない争いになってしまうからって。

 別に誰もその事自体を否定しちゃいないんだ。ただ、それを自分で選ばなきゃ意味がない。

 戦えないから逃げる事と、戦えるけど許す事は違う。

 

 昨日、宿屋でシモンさんに言われた事を思い出した。人生は積み重ねだ。そしてバランスが大事だ。

 だから、弱い僕はまず戦う意志を学ばないといけない。ガイ達が許す心を学ばないといけなかったのと同じように。



「……ルー」


「なんダ?」


「僕、まだ弱いけど……いつか君が困った時。戦うよ。絶対に君と一緒に戦う」


「……うン!」


 白い八重歯をチラつかせてルーがニッコリと笑う。

 僕は本当に仲間に恵まれたと思う。だって、この子のためならなんだって恐くない。今ならそんな気がするんだ……

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