抗う者たち
……随分と寝入っていたらしい。意識が覚醒するより前から、耳は喧騒を届けていた。
ガバッ!
ただならない気配がして飛び起きる。
「悲鳴!?」
誰かが襲われているのかと思ったけど、まわりを見渡すと様子が違う。
みんな口々に何かを話し合っていた。
「なにかあったんですか!?」
事情を尋ねると商人さん達は荷物をまとめて移動の用意をしていた。
「大変だ。西の砦がドラゴンに襲われているらしい。伝令がかけこんできてね。少し前に街の衛兵連中が救援に向かったよ」
「なんですって!?」
「ドラゴンは西の砦を焼き終えたら、ここに向かうはずだ。街の中に入れなかったのがかえって幸いだったかもしれない。きっとパニックになって身動きがとれないだろうからね。衛兵達が時間を稼いでくれている間に、私たちは山影に隠れるよ。実を言うと穴を掘るのが少し得意なんだ。君も一緒に隠れるかい?」
「僕は……」
急いでルーを起こす。
「ヌー? おはよーなのダ」
「ルー。凄く恐いモンスターがこっちに向かってるんだ。この人達を守るために戦わないといけない。お願い、力を貸して」
ルーがスンスンと空中を嗅ぐ。
「ヤバいのがきてるナー。わかった。一緒にいくのダ」
「ちょっと君。さっきは言葉を濁したけどね。救援と言っても戦いになんてならないよ。君のような若い者がやる仕事じゃない」
「僕は……」
拳を握りしめて振り返る。
「僕は。戦わなくちゃいけない人間ですから……」
「…………」
「いこう! ルー!」
「オゥ!」
「あ、ちょっとだけ待ってくれ!」
駆けだしながら一瞬だけ振り返ると、商人のおじさんは両手を組んで祈りの姿勢をとっていた。
「勇敢なる魂に祝福あれ。彼の者にアズールのお導きがありますように」
「……ありがとう!」
-------------------------------------------------------------
ルーに乗って進むと、彼女はすさまじいスピードで野を駆け抜けた。
あっと言う間に先行していた騎兵部隊に追い付くと、部隊の隊長らしき人が驚いて声をかけてきた。
「君は!?」
「クセルの街から来ました。冒険者のアルフです。こっちはルー。共に戦います!」
隊長さんは顔をくしゃりと歪ませた。
「畜生。なんてこった。シェオールはこんな子供の魂までお召しになるってのか。いや、今更言うまい。君たち、凄まじい速さだな。特殊な才能の持ち主って訳だ」
隊長さんが衛兵達に振り返って叫ぶ。
「聞いたかお前ら。このオチビさん達が俺達の幸運の女神になってくれるんだとよ!」
「ハッハッハ!」
「こりゃぁ、ヴァルハラではうんとサービスしてもらえそうですな」
一瞬、兵たちに陽気な喧騒が生まれる。だけどそれはすぐにかき消されてしまった。
馬が、一斉に暴れだして前に進めなくなったんだ。
「どうしました!?」
「…………ヤツだ……」
みんな馬から降りて息を止める。そんなはずがないのに、まるで全ての音が止まったような錯覚を覚える。
バサ バサ バサ
沈黙を切り裂いて翼の音が届いてくる。そして……
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
まだ遠い。それでもわかる。あまりにも巨大な肉が擦れてかなきりだす音。
隊長さんが剣を抜いた。
みんなが唾を飲み込む。
「いいか! 街には防壁がある。空からの脅威を想定して作られたものではないが、ないよりはマシだろう。だが! それでも! 街を戦場にする訳にはいかない。それは数えきれない人達の死だ!
俺達は今から虫けらみたいに殺される。あのクソッタレのドラゴンが遊び疲れてどっかに行ってくれるなんて言う、なけなしの奇跡を願いながらな。
それでも今、俺は何も恐れてはいない。思い出せ。俺達は日常の中で生きた。そして今日、名誉の中で死ぬ!
進めぇ! グリーンヒルのために!!」
『グリーンヒルのためにぃ!!』
オオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!
兵士達が抜刀して雪崩のように走りだす。
それは奇妙な戦いだった。
やる事と言えば走って行って。盾と剣をガンガン打ち付けながら大声で威嚇するだけ。とても空の脅威に対抗する戦いとは思えない。
急降下して地面ごとえぐりとっていくかのように口を開けるドラゴン。そして食われる。上半身をかじりとられた下半身が膝をつく。
すれ違いざまの一撃などありはしない。そもそもこの怪物に鉄の剣を打ち付けて何か意味があるんだろうか。
射手も精一杯矢を放つ。でもきっと百も承知なんだろう。
城壁を弓矢で崩す事など不可能なように、自分の矢がドラゴンの鱗を貫通する事が決してないと言う事を。
近くを通りかかっただけで風圧で吹き飛ばされてしまう。生き物としての格を見せつけられる風。
立つことすら困難な戦場で、それでも戦いの雄たけびを止める者は誰もいない。
まるで雨ごいのように死を呼び寄せるダンス。それはとても無様で、不格好で。だけど僕は不謹慎にも、その姿を美しいと思ってしまった。
◆◇◆◇
(3人称視点)
喧騒の中、誰にも気づかれずに草むらの中を進むものがいた。
地面スレスレに腹を落とし、肩甲骨を隆起させ、4つ足で音を立てずに進む。
その影は生物としての気配を一切発していない。
もし誰かがここを偶然通りかかったら、気づかずに踏みつけてしまうだろう。
彼女には遠くの喧騒が、まるで遠くの別の世界から聞こえてくるような気がした。
関係のない情報がシャットアウトされる中で、かわりに強調して聞こえてくるのがドラゴンの心臓。そして体の肉の動きそのものが発する音。
この獲物は強い。そして美しい。ニンゲン達にとってはただの暴虐と野蛮の化身。しかし彼女は格上の存在に対して敬意を払う。
自分より大きな獲物に襲い掛かる時、彼女はいつも大自然の恵みに感謝してきた。
初めましての形はとびきりのものにしないといけない。だって相手はこんなにも偉大なのだから。
◆◇◆◇
僕たちは戦いながら走り続け、ついに砦に到達した。
「何人残っている!?」
「わかりません! もう指揮が崩壊していて!」
防衛隊の生き残りに対して隊長さんが声を荒げる。有用な情報はかえってはこなかったけど。
砦には一番大きい石造りの建物のほかに、いくつかの建物もあったけど。もうほとんど機能していないようだった。
砦に着いても衛兵達の戦いは変わらなかった。全員で建物に籠ればドラゴンが興味を失って街に向かう恐れがあったから。
それに、もしあいつがその気になればこんな石造りの砦なんて体当たりで壊してしまえるだろう。
遅れて魔術師部隊。更に遅れて歩兵部隊が到着する。魔術師たちは馬の扱いに不慣れなのと、走るのが遅いので遅れたようだった。
「おのれ化け物! アイススパイク!」
魔術師たちが次々と魔法の矢を撃ち出す。しかし飛んでいった氷はドラゴンの鱗に当たると、ステンドグラスみたいに簡単に砕けてしまった。
「なんてやつだ! 微塵のダメージすら通らないとは」
「ドラゴンスキンに生半可な攻撃は通用せん。おぬしらは下がっておれ!」
白髪のおじいさんが全身からオーラをたぎらせ。踊るような構えをしながら呪文を詠唱する。
胸に片翼の鷲を模した金のブローチ。……って事は宮廷魔術師!? そんな人まで駆り出してきたのか。
「パーラ・ノードイ・フォーモー・ブルール……人間をナメるなよ化け物がぁ! 達人魔法。ライトニングテンペスト!!!」
凄まじいエネルギーが両手の間に集まり、そこから雷の波動が光線となってドラゴンに襲い掛かる。
「GYAAAAAAAAAAAAA!!!」
ドラゴンの体に当たった雷光線が拡散して、周囲の空気がスパークする。
激しい閃光の中、ドラゴンの爬虫類のような瞳がギョロリと魔術師たちの方を向いた。
「伏せろーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
隊長さんが絶叫すると同時、ドラゴンの口から火球が放たれる。
真っ赤な火球が地面に着弾して、砂がキラキラしたガラス状になる。
中心部付近にいた人達は即死。だが火球の本当に恐ろしいところはそれだけじゃない。
急激に熱せられた空気が膨張して、透明な熱波があらゆる命を焼き尽くす。
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁ!!!」
地面に伏せて盾を構えた人達はかろうじて助かったみたい。
でも、立ったまままともに熱風を浴びた魔術師たちが火だるまになって踊り狂う。
魔法の行使には自然と一体になる必要があり、盾や鎧を装備すると魔法の威力が下がってしまう。
魔術師たちは盾を持たないうえ、自分達の詠唱に集中していたこともあってまともに熱波を浴びてしまった。
「っくそ!」
ザシュッ!
隊長さんが火だるまになった魔術師の人の首を斬り落とす。
「なにをっ!?」
「あいつはもう助からん! それよりお前も魔法使いなんだろうが。撃て! 怯むな!」
「すいません! 僕、短射程の初級魔法しか使えなくて!」
「バカ野郎!! じゃあ何しにきたんだお前は!」
ズドォン! ズゴォン!
ドラゴンの翼がかすって砦の一部が崩れる。落石。立ってられないほどの振動。さっきから轟音が激しすぎて、耳がキーンとなっている。人の声がほとんど聞こえない。
再びドラゴンの火球が襲う。吹き飛ばされる人達。まるで地獄みたいだ。
僕は必死に這いずって、倒れて動けなくなった人のところにつく。
安全なところなんてどこにもないけれど。それでもまだ壁が残っている場所の影に連れていく。
「ハァ、ハァ、ハァ」
この衛兵さんはまだ息があるみたいだ。呼吸が楽になるように衣服の締め付けを緩める。
「ちょっと水筒借りますね!」
背中の患部に水を流して冷やすと、衛兵さんが苦痛のうめき声をあげた。
「うぅ、いてぇ……いてぇよぉ……」
「大丈夫。僕は冒険者です。応急処置の心得があります」
僕は昨日商人さんから買ったポーションを取り出す。一本は体力回復用。そしてもう一本は毒ポーション。
モルヒネ トリカブト それに猛毒の木椅子キノコを混ぜた毒。麻痺の効果があって大量に摂取すると死んでしまうけど、痛みを和らげる効果がある。
僕は回復ポーションを口に飲ませてから、特殊なシートに毒ポーションをしみこませて貼り付ける。こうする事で毛細血管を通じて静脈に吸収される。
衛兵さんはいくらか楽になったようで、呼吸も落ち着きを取り戻した。
「大丈夫です。助かりますからね! ……次っ!」
近くに倒れていた人をまた引きずり込んでくる。
「うっ!」
前側の上半身がひどく焼けている。立ったまま焼かれてしまったんだろうか。
衛兵さんが僕に言った。
「うぅ……だ、大丈夫。あまり痛みはないんだ。他のやつを診てやってくれ」
「喋らないで! あなたの方が重傷なんです!」
まずい。かなり火傷が深い。流水をかけると細胞が崩れてしまうかもしれないし、シートに水を含ませて貼り付けると癒着してしまうかもしれない。
「これならっ!」
僕は鞄の中から氷の精霊の歯の入った瓶を取り出し。ナイフで細かく削って振りかける。今の僕の所持品の中では凄く高価な品だけど、そんな事言ってる場合じゃない。
「脈拍が弱くなってる……皮膚呼吸も出来てないし、このままじゃ……!」
心臓に負担がかかってしまうけど仕方がない。僕はトロールの脂肪とベニテングダケから作った強心剤と、市販の造血剤を投与する。
「安全な場所についたら輸血します。意識を強くもって呼吸を続けてください。絶対に眠らないで!」
「あ、あぁ。ありがとう」
心配だけどここにいてもしょうがない。顔をあげると別の衛兵さんが魔導士らしき人を背負ってきた。
「おい! この人も診てやってくれ! 大事な人なんだ」
「こ、この人は宮廷魔導士の!」
衛兵さんが魔導士のおじいさんを横たえると、コヒュー、コヒューと、喘鳴の混じった苦し気な呼吸音が聞こえてきた。
「やばい! 気道熱傷だ!!」
このおじいさんはかなり高位の魔導士みたいだった。きっと熱波の直撃は防護魔法で防いだんだろう。でも、爆心地に近かったからその後で煙を吸い込んでしまったに違いない。
気道の解毒はここじゃ出来ない。まずは酸素を供給しないと。
僕は鞄の中から魔法のスクロールを取り出す。以前フィーネからもらった、たった一枚しかない。僕の宝物。
スクロールには魔法陣が描かれていて、そこに手を当てて魔力を流す事で、本来発動出来ないランクの魔法でも1回だけ使用する事が出来る。
「水中呼吸!」
魔法が発動する。これは魔力によって二酸化炭素を分解して酸素に変換する魔法だ。本来は水中での行動を可能にするものだけど、こんな風に呼吸困難な状況でも役に立つ。
呼吸が楽になるとおじいさんは落ち着きを取り戻した。体力回復ポーションを飲ませ、生のエルフイヤー・リーフを中にいれた酸素マスクを口にかぶせる。
「頑張ってください!」
休む間もなく次の負傷者が運ばれてくる。僕は地獄に迷い込んでしまったんだろうか?
左腕のちぎれた衛兵さんが血をまき散らしながら剣を振り上げて向かっていく。
街では避難するのか立てこもるのか、どんな判断が下されたのかを僕はまだ知らない。
きっとこの人達も知らないんだろう。この戦いに意味があるのかどうかもわからない。
でもきっとこの人達にはそんな事関係ないんだろうな。強いとか弱いとかじゃなくて、戦う使命がある。この人達はそれだけで十分なんだ。
殺されても、殺されても。まるで士気を衰えさせずにガンガンと盾を打ち付けて衛兵さん達は雄たけびをあげ続けた。
ドラゴンと人間じゃあ、犬と虫くらい差がある。それがこんな反抗的な態度を見せるもんだから、ドラゴンもシャクにさわったのかもしれない。
ドラゴンは高度を下げてホバリングすると、広範囲に持続性のある火炎放射を噴き出した。
唾を飛ばすように発射する火球ではなく、息を吹くような炎の風。伏せようと防ごうと何の意味もない死の吐息。
人が死んでいく。さっきまでの火球や急降下攻撃とは比べ物にならない勢いで人が死んでいく。
まさに一網打尽。ここは地獄だ。僕は無力だ。そして……
そして。ルーがとびだした。
「とーゥ!」
ガシィッ!
「こんにゃロ! こんにゃロ! こんにゃロ! 」
ズガゴォン! ガキィン! ビリビリビリビリ!!!
低空をホバリングしていたドラゴンにルーがとびつき、首にしがみついた。
尋常ではない力で繰り出されたパンチがドラゴンの頭に命中し、ルーの拳とドラゴンの鱗が激突する度に空気がビリビリと震える。
「ぬゥ。堅くテ強イのダ」
ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン!!
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
まるで城と城が衝突するような轟音に脳が揺さぶられる。僕は戦いの様子を見ようと砦の階段を駆け上がった。
ここで戦っていたんであろう弓兵さん達の、黒焦げになった死体がいくつも横たわっている。
ドラゴンが降り落とそうとして空中で暴れるけど、ルーは首にしがみついて離れない。
だけどルーもしがみつくのに精一杯で、腰の入ったパンチは打てないみたいだった。
「こんナ体勢で片手で殴ってモ全然効かなイのダ。よーシ」
ルーがパンチを止めて両手でしがみつく。
「フぅぅぅぅぅぅぅ。スぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……………………」
ルーが大きく息を吐いたり吸ったりして、お腹が異常に膨らむ。
ピタッ。と一瞬動きが止まった気がして嫌な予感がする。僕は耳を塞いで、階段の影に隠れて壁に張り付いた。
「ダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
音、と言う表現は合わないだろう。何も聞こえないんだから。空振動と呼ぶべきだろうか。
常軌を逸した物理は魔法と区別がつかない。名状しがたい一撃に、僕はなんとか意識を手放さずに引き寄せる。
グラリ、と体が傾くのを足を一歩踏み出してこらえると、鼻血がポタポタと地面に落ちた。
直撃を受けたドラゴンは空中でじたばたと手足をもがかせて、そのまま浮力を失って墜落してしまった。
かろうじて動ける衛兵さん達が一斉にドラゴンに群がる。だが、やはり誰もドラゴンの鱗を貫く事が出来ない。
「おい、小僧! 手伝え!」
僕は不意に肩を叩かれて振り返った。隊長さんだ。
隊長さんが必死に何かを言おうとしているが何も聞こえない。
「せーっノっ!」
ズドゴォン!!!!!!
ルーが足を降りかぶって蹴りを加える。ドラゴンが手足をばたつかせながら苦悶の表情を浮かべる。
「GYAAAAッ!?」
「アイッター!! かったイのダー!」
隊長さんが慌てた様子で、床に転がっているスイカみたいな大きさの鉄球を指さす。なんだこれ?
よく見ると砦には滑り台のような溝があって、鉄球のサイズとぴったりだ。
まさかこれ、この滑り台から鉄球を落として、下の人を攻撃する武器なんだろうか?
滑り台の横には鉄球の設置台のようなものがある。きっと衝撃で床に落ちてしまったんだろう。
隊長さんが必死の形相で鉄球を持ち上げようとする。僕も手伝うけどあまりにも重すぎる。
両足を広げ、腰を落として踏ん張る。鉄球がゴトリと動いて、少しだけ宙に浮く。
……あの日。フィーネが奴隷商館に売られていった時の顔が脳裏に思い浮かぶ。
彼女は何かを言おうとして俯いた。僕は何も声をかけてあげられなかった。
どうして僕はガイと戦おうとしなかったんだろう。恐いのを我慢して交渉しなかったんだろう。
僕は戦わなかった。僕が弱いからじゃない。僕が何もしなかったからだ。
だけど今日見てしまった。自分よりはるかに強いドラゴンに向かっていく、名前も知らない大勢の人達の姿を。
(僕は……僕は……!)
腰が砕けたっていい。全身全霊で鉄球を持ち上げる。
(あなたたちみたいに……!! なりたいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)
持ち上げられた鉄球が発射台に滑り込む。
ゴロゴロと転がっていったその姿を呆然と見送って、一瞬のあと僕は隊長さんと顔を見合わせた。
ズドォン! ズドォン! ズドォォン!!
「ヌ、ヌゥ。堅いのダ。このままじャルーの手が先にダメになってしまうのダ」
と、そこへ鉄球がゴロゴロと転がってくるのにルーが気付く。
ピコーン!
「あれダッ! ルーは賢いのダっ♪」
ルーは4つ足で鉄球に駆けつけると、軽々と持ち上げてダッシュの体勢をとる。
ザ ザ ザ ザ ザザザザザザザザシュシュシュシュシュシュ
凄まじい加速力で光の矢と化したルーがドラゴンに迫る。そして…………
「ダァァァァァァァァ!!!」
ガッキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーィィィィィィィィィン…………………
閃光。そう、閃光だった。ドラゴンと鉄球を超高速でぶつけたら光が発生するなんて、きっとどこの学校でも習いはしないだろう。
接触の際の超高温のエネルギーが鉄球の前半分を溶かし、液状になった破片と固体の破片が宙に飛び散る。
「…………!!!!!!!!!!」
ドラゴンが起き上がる。首を振りかぶり、声にならない雄たけびをあげてもだえ苦しむ。
そしてヤツは飛び上がると、尻尾を丸めて飛び去ってしまった。
「うそだろオイ……勝った。勝ったのか!?」
「信じられねぇ。生きてる……生きてるぞ! バンザーイ! グリーンヒルに栄光あれ!!」
みんな大きな口を開けて口々に何かわめいている。きっと歓声があがってるんだろう。
「アールフーっ♪」
ルーが飛びついてきて顔をペロペロと舐めてくる。
立ち上がる事すら出来ない僕は、座ったままルーの柔らかい髪を撫でる。
手のひらから伝わってくる感触に、ただ僕は生きている実感を噛みしめていた。