何もしなかった僕
「おい、さっさと水出せや荷物持ち! なにやってんだ!」
お尻を蹴っ飛ばされて地面に転がる。
僕の名前はアルフ。職業は荷物持ち……じゃない。これでも一応魔法使いだ。
「ちょっと。蹴っ飛ばす事ないでしょ!?」
白っぽいエメラルド色の髪の女射手が僕を庇うように、手を広げて抗議してくれる。
彼女の名前はフィーネ。一緒に冒険者になろうと村を飛び出してきた幼馴染だ。
「あぁ? こいつがトロくせぇから悪いんだろうが」
「クッシッシ。相変わらず女に守られてカッコ悪いデス」
横暴な態度で吐き捨てる色黒の金髪男がガイ。僕をバカにしたような顔で特徴的な笑い声をあげるのが神官のリド。
神官と言っても回復魔法より死霊術の方が得意で、なんか怪しい神様を信仰してるちょっと変わった奴だけど……
ガイは僕やフィーネと同期の冒険者で、駆け出しの頃に一緒にパーティーを組まないかと誘われたんだ。
ガイはパーティーの重要な役割を担う、前衛の戦士だ。最初は色々と教えてくれて、なんて頼りになる人なんだと思っていた。
でも、その関係は段々と壊れていく……僕は人に比べて必要な経験値が多く、レベルの上がるのが遅かったんだ。
やがて戦闘でほとんど役に立たなくなった僕に、ガイとリドの態度は冷たくなっていった。
もう冒険者でやっていく事を諦めて故郷に帰ろうかと思ったけど、いつもフィーネが支えてくれていた。
「大丈夫。アルフは役立たずなんかじゃない。ただ大器晩成型なだけなんだから。だから一緒に頑張りましょ。ね?」
そう言って優しく微笑んでくれるフィーネ。
彼女はいつも目を吊り上げて不機嫌そうにしていたけど、僕が本気でへこんでいる時は決まっていつも励ましてくれた。
『彼女さえいれば、このままでも構わない』
僕は甘えていた。そして知ろうともしなかった。
このままでいいと願う、その「このまま」は。僕が作り上げたものじゃなく、誰かが必死に支えてくれていたものだったと言う事を。
現実とは時の流れに晒される砂の城。永遠なんてどこにもない。
目の前の出来事に精一杯で、何も知ろうとせずにただ耐えるだけの日々。
その間。刻一刻と世界は壊れていってしまっていたんだ……