第九話 闇の巫女ロッティ
朝か。
今俺は、ベッドの上でモモとカサンドラに左右から裸で抱き付かれている。
カサンドラと行為に及んだのが昨日の昼過ぎぐらい。
三回戦の途中で目を覚ましたモモの身体を、カサンドラと俺で綺麗に拭き、三人での行為が始まった。
食糧を口にしながら代わる代わる抱いていたら、いつの間にか眠って、朝になっていた。
モモは、俺とカサンドラの関係を受け入れてくれた。内心はどう思っているか分からないが、カサンドラが俺にとって必要な人だと言ってくれた。
俺って本当に、この間まで童貞だったのか? 自分で言うのもなんだが、かなり慣れている気がした。どうすれば二人が喜ぶのか、手に取るように分かったんだ。
二人同時でもまったく苦じゃなかったし。
前前世では呪いを掛けられるくらい女関係が酷かったらしいからな。身体に、いや、魂に刻み付けられているのかもしれない……嫌な事実だな。
異世界に転生してから五日、今日で六日目か。俺に二人の妻が出来た。
余裕が出来たら結婚式を上げないとな。
「怖いくらい幸せだ」
「では、幸せな夢からとっとと目覚めてくれませんか? 月島 玄さん」
「なっ!?」
俺の前世の名前! この世界にその名前を知っている者などいないはずなのに!!
ベッドから跳ね起き、声がした方を見る。
そこには、青い瞳に紫銀の髪をツインテールにした、黒いエロ下着姿のロラちゃんが立っていた。
「キャアアアアアアアアアア!!!」
マズい、俺の朝立ちした逸物を見せてしまった。
★
「なぜ、ロッティ殿がこのような場所に?」
カサンドラが不思議そうに、ツインテールの少女に尋ねた。
俺の逸物を見て悲鳴を上げた子は、ロラちゃんではないらしい。
全員服を着て、ロッティちゃんが持ってきてくれた食事を戴いている。
柔らかいパンに、みずみずしい野菜、ジューシーなステーキ。五日ぶりにまともな食事をしている。
贅沢を言えば、米と味噌汁が欲しかった。あと漬物。
「それにしても、無防備すぎますよ」
”結界石”に込めた魔力がとっくに切れていた事を言っているのだろう。ロッティちゃんが来てくれなければ、いったいどうなっていた事か。
彼女は、俺達が起きるまでスキルで結界を張ってくれていたらしい。
「まさか、カサンドラさんが女にされているなんて思いませんでした」
カサンドラとロッティちゃんは知り合いのようだな。
慌てた様子でカサンドラが言い訳をしようとしているが、言葉が見つからないのか、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。
ロッティちゃんが席を立ち、俺の横に来て、片膝を付く。
「まずは、覚醒おめでとうございます。新たな魔王、クロウ様」
「……………………クロウ殿が…………魔王?」
カサンドラが驚きすぎて固まっている。
モモの方は……大して気にしていないようだ。
「私は、魔の女神であらせられるロラ様の闇巫女、ロッティと申します。これより、クロウ様と行動を共にし、随時、ロラ様の神託を伝えさせていただきます」
いきなりメンバーが増えるのか。しかも美少女。
「…………お、お望みであれば、よ、夜伽の方も、つ、つ、務めさせていただきます!」
顔を真っ赤にして宣言するロッティちゃん。
今のところ、彼女を女として見ることはなさそうだ。
「巫女なのに、いつもその格好なのか?」
ロッティちゃんは今も下着姿だ。デザインが凝っていて、かなり扇情的だった。正直、目のやり場に困る……大変眼福ではあるが。
顔はロラちゃんと瓜二つだが、ロッティちゃんの方が幼く見える。格好のせいだろうか? 声音も少し違う気がする。
「私の種族はサキュバスですから。この格好が正装なのです」
下着が正装とは、けしからん種族だな。
俺の娘があんな格好をしていたら、土下座をしてでも止めさせる。
「ローブを渡すから着てくれ。でないと、行動を共にはしない」
あんな格好で近くに居られては、たまったものではない。あんな華奢な子が、あんな格好をしていては、押し倒したい衝動に駆られてしまう!
出るところは出てるし。
女として見てるじゃん! 馬鹿じゃねえの俺!
身体が若返ったせいか、邪な感情が強くなっている気がする。
「な、なるほど、チラ見の方が好みというわけですね。さすが、どこぞの神に童貞の呪いを掛けられていた男」
「…………なんでそうなる」
ロラちゃん、余計な事教えすぎじゃね! というか、俺に呪いを掛けたのって神様だったの!!
「申し訳ありませんでした!!!」
カサンドラが土下座をしている。
「魔王様であったとは知らず、無礼な言動の数々、本当に申し訳ありません!!」
前魔王の元に居たんだもんな。カサンドラからしてみれば、畏れ多い存在というわけか。
「カサンドラ、俺が今までで一番無礼だと思ったのは、今この瞬間だ」
「……え?」
「お前は俺の所有物だ。魔王とその部下ではない」
カサンドラの肩が震え、メスの顔になる。
ますます変態になっているな。俺のせいだろうけど。
「ご主人様の奴隷として! 一生尽くさせていただきます♡!!」
今朝までのカサンドラとの関係を変えたくなくて掛けた言葉だったが、予想の斜め上の結果になってしまった気がする。
「男を寄せ付けなかったカサンドラさんを、たった五日で調教するなんて…………」
正確には、丸三日もかかっていないが。
……調教した覚えも無いし。
「ゴホン! ロッティちゃん、ロラちゃんから何か指示があったりするのか?」
「特にはありません。世界をゾンビから救ってくだされば、他は自由にして良いと」
青い地平線で会ったときと同じか。
「この辺のゾンビは一掃されたようですからね、別の町に移動する事をお薦めします」
別の町か…………。
ロッティちゃんに”探索者の高級ローブ”を渡し、俺達は旅の準備を始めた。
★
昼までは、瓦礫だらけになった町から使えそうな物を探すことにした。念のため、二人一組で行動する。
瓦礫だらけになった景色の方が綺麗に見えるから不思議だ。血肉が散乱しているよりは、遥かにマシだからだろうが。
「私のスキルは、戦いに適したものではありません。戦力外と考えてください」
俺はロッティちゃんと行動を共にしている。彼女には色々聞きたい事があったからだ。
「どんなスキルなんだ?」
「魔王に覚醒したのであれば、見ることが可能ですよ」
言われて意識して見ると、情報が流れ込んできた。
○ロッティ 十五歳 〔サキュバス〕
加護 闇巫女の加護
スキル 結界術 生活魔法 時空魔法 強魔
暗黒魔法
「確かに、ゾンビ相手には通用しないな。だが、守りのすべがあるのは助かる。頼りにさせて貰うよ」
「……フフフ、変わった方ですね」
「ん? なにがだ?」
「私が今まで関わった男性は、女を見下す方ばかりでしたから。頼られるどころか、出しゃばるなって感じで……」
「男尊女卑か」
大昔は女性が優位だったが、子供をつくるのに男も必要だと知られるようになると、男性優位に変化した。そんな話しは世界中にある。
単純に、女性を危険な目に遭わせたくないという考えの者もいるだろう。戦場で、男なら殺されるか捕虜にされるが、女なら慰み者にされかねない。
女性の方が身体が弱く、病気になりやすいしな。
俺だって、出来ればモモ達には安全な場所に居て欲しいと思っている。
だけどそれが、不和を生む結果になってはいけない。誤解やすれ違いが悲劇を生む事は珍しく無いのだから。
女は道具ではないし、守られるだけの存在じゃない。
男の意地ごときで女の想いを踏みにじるなど、ただの間抜けのすることだ。
「ロッティちゃん、守りは任せるよ」
「お任せください、クロウ様」
微笑むロッティちゃんが魅力的で、見惚れてしまう。だが、すぐにロッティちゃんが顔を曇らせてしまった。
「…………闇側の勢力が分裂しようとしています」
あまりに唐突な話題だった。闇側の勢力ということは、ロラちゃんの地盤が揺らいでいるって事か?
「元々派閥主義な面が強かったのですが、今回のゾンビ事件が闇側を追い詰めているんです。闇側にはゾンビを討伐する力が無く、事件を引き起こしたのが前魔王のゼオという事もあって、光側と手を組もうと考えている者までいます」
「魔王というだけで、闇側にも命を狙われそうだな」
「まさしくその通りです。ロラ様も私も、それを危惧して闇側の首都パンデモニウムにクロウ様を近付けない事にしました。様々な思惑が渦巻いていて、私ですら謀殺されかねません」
「良いのか? 闇側の方が被害が酷いと聞いたが?」
「まだ貴方は、第一覚醒しただけです。今の貴方より強い者は幾らでも居ます。さらに力を付けて、眷属を増やして欲しい。それが、ロラ様の願いです」
さらにって、アレより上があるのか。
覚醒が全部で六段階あるとは聞いていたが、今以上の力を持つことに恐怖を感じる。
「それにしても、ドライアドを仲間にしているとは思いませんでした。彼女が居るなら、尚更闇側には近付かない方が良いでしょう」
「何故だ?」
「ドライアドは光側に属する種族です。光側というだけで、殺すべきと叫ぶ過激派も居ますから」
カサンドラを基準に考えてはダメという事か。
「……ロッティちゃんがロラちゃんに似ているのは、理由があるのか?」
今朝から疑問に思っていたため、話しが脱線すると分かっていても、聞かずには居られなかった。
「女神様から神託を戴くため、巫女は女神様に近しい存在でなければなりません。言わば私は、ロラ様の分身なのです」
ホムンクルスのような存在……ということか?ロラちゃんには実体が無いと聞いているし。
「その為、代々の巫女は同じ顔をしていたそうです」
巫女になるために産まれてきた存在か。
俺も娘を生み出した時は、役目を押しつけようとしていたんだよな。
今更になって嫌な気分になる。
「ロッティちゃんには、やってみたい事とかってあるのか?」
あるならば、叶えてやりたくなった。
彼女と娘を重ねてしまったから、こんな事を口にしてしまったのかもしれない。
「……姉を殺した勇者達を、殺したいです」
ロッティちゃんの顔が、憎悪に染まる。
「姉というのは先代の巫女です……魔王ゼオの妻でもあった人です」
その話なら聞いたことがあるな。
「このゾンビ化事件は、ゼオが魔王として最終覚醒した事で得た能力によって引き起こされました。勇者達が、ゼオの家族を惨殺したから覚醒してしまった力でです。家族を殺されたゼオは、力を使うことを躊躇わなかったのでしょうね」
「だが勇者は、勇者の加護によって守られた」
勇者の加護は、ゾンビ化を防ぐ力がある。
最初にゾンビ化したのは、魔王城に居た者達。そこから魔族領を超え、世界中に被害が広がっていった。
「勇者共は闇側の種族をゴミぐらいにしか思っていない。そんな奴らが生きているのに、光側と手を組むなんてあり得ない!」
ロッティちゃんという人間を垣間見る事が出来たな。もっと壁を作るタイプだと思っていたから、少し安心した。
「……クロウ様。私の望みを叶えるために、力を貸して戴けませんか」
「良いよ」
「本当に!? ……宜しいのですか?」
なんでそんなに驚いて居るんだ?
「いずれ戦うことになると聞いているし、ロッティちゃんの願いを叶えてあげたいしな」
「……私の望みは復讐ですよ? 復讐が成功しても虚しいだけと、何度も思いとどまるように言われました」
「復讐されるような人間は、悲劇を生み続ける存在なんだよ。復讐の連鎖がどうとか言う人間は、現実が見えていない」
「フフフフ。そんな話、初めて聞きました」
ロッティちゃんに笑顔が戻る。
「八十七年、己を貫いてきた男の持論だ。中々、真理に近いと思うぞ」
ドオオオオオンンンンンンンン!!!
その時、離れた場所から轟音が聞こえてきた。
★
爆発音があった場所へ駆けつけると、呆然と立ち尽くすカサンドラの姿を発見した。
モモは、微動だにしないカサンドラに慌てている。
「何があったんだ!」
俺の声に気付いたのか、カサンドラがこちらを見る。
「クロウ殿、ゾンビが……ゾンビが死にました!私の攻撃で!!」
「へ!?」
カサンドラには、ゾンビを倒すすべが無かったはず。
「霧雀のゾンビが群れで現れたので、大技で吹き飛ばしたら、復活してこなかったんです!」
カサンドラの顔が笑みでいっぱいになる。
「カサンドラさんは、クロウ様の眷属になったんですよ! クロウ様、彼女達の加護を確認してください!」
ロッティちゃんに言われ、確認する。
○モモ 十六歳 〔ドライアド〕
加護 植物の加護 魔王眷属の加護
スキル 植物魔法 神聖魔法 生活魔法
○カサンドラ 二十歳 〔魔族〕
加護 暗黒騎士の加護 魔王眷属の加護
スキル 暗黒剣術 強化魔法 闇の衣
暗黒魔法 生活魔法
「二人とも、”魔王眷属の加護”がある」
ロラちゃんが新たな魔王を生み出し、俺にゾンビ狩りをお願いした理由そのもの。
「魔王の加護が持つ、”滅び”の属性……」
「眷属になったことで、カサンドラさん達にも滅びの力が宿ったんです。クロウ様が魔王に覚醒した証ですね」
「これで私も、ゾンビ共を……フフフフフフフフ、オッシャーー! 一匹残らずぶちのめす!!!」
カサンドラって、S気もあるんだな。
「ロッティちゃん、眷属にする方法ってなんなんだ? ロラちゃんには聞けなかったんだが」
「私にも分かりません。ロラ様は、ズッコンバッコンするのが一番手っ取り早いと言っていました。ズッコンバッコンって、どういう意味なんでしょうか?」
なぜ女神の分身であるロッティちゃんがサキュバスなのかと思ったが、なんか納得いった。
「お互いに、多少なりとも気がある状態でズッコンバッコンすれば、大抵は上手くいくと言っていましたね」
…………ロラちゃん、あんた最低だよ。
多分、親密度が関係しているんだろうな。行為そのものは、直接関係ないようだし。
★
六日目は、明日に備えて早めに休む事にした。旅の準備が終わった後は、モモとカサンドラを両隣に抱き寄せて、ただただ三人の時間を噛み締める。
幸せな時間だ。娘を膝に乗せて、一緒に花火を見たのを思い出す。
ロッティちゃんは気を遣ったのか、”結界術”で外が見えない壁の部屋を造り、引きこもった。
「ご主人様、明日から旅が始まるんですね」
「ああ、ロッティちゃんと話し合って、光側の領域を旅する事になった」
実際、闇側の方が強力なモンスターが多いため、必然的に強力なゾンビも多くなる。単純な危険は、闇側の方が大きいようだ。
「ご主人様、どこまでもついて行きます!」
「クロウ殿と共にあり続けます」
「ああ、ずっと一緒だ」
ゾンビ溢れるこの世界で、まともな生活を送れる保証など無いが、必ず三人の未来を手に入れる。
「……ご主人様、今日は、その…………しないのですか?」
「そ、そうですね。野宿するようになれば、暫くお預けでしょうし……」
「二人とも、はしたないな」
二人揃って顔を赤くする。
「なら、俺をその気にさせてくれ」
二人が無言で離れ、俺の正面に立つ。
モモとカサンドラが、恥じらいながらゆっくりと、俺に見せ付けるように自分の衣服を脱ぎ始める。
モモの純白の下着姿と、カサンドラの黒の下着姿にあっという間に興奮し、裸になる前に二人をベッドに押し倒した。