表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/23

第七話 ブラックハート

 エントランスまで何事も無く戻ってこれた。

 肖像画の真下にも扉を発見。出来れば二階に行きたくないため、肖像画の真下を通り、奥へ向かう。


 ……何故か、あの肖像画に負けた気分だ。


「モモ、さっきの魔法でエントランス内の甲冑ゾンビを全滅させてくれ」

「かしこまりました。ホーミングレイ!」


「「「ギイイアアアアアアアア」」」


 ゾンビの悲鳴が木霊する。

 一つの光球が、次々と甲冑ゾンビを貫き、浄化していく。


「片付きました」

「ご苦労。暫く魔力は温存だ」


 奥は思っていたよりも広かった。厨房があり、料理に使用する食材や調味料、薪などが大量に置いてある。

 調味料は、鍛冶屋で見付けた量とは比べものにならない。駄目になっていた物も有ったが、カレー粉を見付けることが出来た。いつかカレーを食おう…………小麦粉ないかな。


 薪や上等な調理器具、高そうな食器も貰っていく。

 食材はジャガイモ以外腐って居たが、軍用食なのだろうか、乾パンのような硬い食べ物が手に入った。香りからして、原料はトウモロコシとジャガイモだろう。

 酒も大量に置いてあった。全てジャガイモの蒸留酒のようだ。


 それにしても、ここにはゾンビが一体も居ない。もう屋敷には居ないと思いたいが、二階から気配がするんだよな。

 見た限り、ここに地図はなさそうだし、二階に上がるしかないか。


 エントランスに戻り、両脇にある階段の左側を登っていく。


 二階に上がると、壁の至る所に赤黒い何かが擦りつけられていた。何かは分かるが、口に出したくない。


 数メートル進んだら、大型犬が数頭出て来た。

 ゾンビ化しているということは、元モンスターと言うことになる。

 魔力を持たない普通の生物は、ゾンビ化しないからな。


「ベルハウンドですね。ベルのような音を喉で鳴らして、警告してくるモンスターです」


 身体の中身が部分的に見えていて気持ち悪い。腸らしきものが躍動しているし、目玉が取れかけているのも居るし!


 ベルハウンドゾンビ共が仕掛けてくる。壁を足場にして、通路を縦横無尽に移動している。

 床や壁にビチャビチャと体内のものが飛び散っている!! ウエー~~!


「”暗黒魔法”! アビス!!」


 カサンドラが発動したのは、昨日マジックゾンビが使用した魔法とは違うものだった。

 黒い球がベルハウンドゾンビ数体にぶつかり、押し返して行く。


「モモ殿、今です!」

「ホーリーランス!」

 

 アビスが消えると同時に、ホーリーランスがベルハウンドゾンビ四頭を串刺しにして消滅させた。


「スマン、モモ。魔法を使わせてしまった」

「これぐらい大丈夫です。それに、私には耐えられませんでした……」


 苦い顔でベルハウンドゾンビが居た場所を見ている。

 アレは、確かにキツい。あの体液に直接触れるのはマズかっただろうしな。


「ゾンビとはいえ、ベルハウンドは動きが速い。モモ殿の”神聖魔法”を積極的に使うべきかと」


 カサンドラの意見はもっともだ。俺の木刀では、飛び散る体液の外側から攻撃できない。だが、一つアイディアを思い付いた!


「俺に考えがある。万が一に備えて、サポートを頼む」


 通路を暫く進むと、再びベルハウンドゾンビが現れる。

 今回は三体。同じように壁を跳躍しながら近付いてくる。

 俺は聖水入りの瓶を取り出す。昨日、マジックゾンビに使用した物より大きな瓶だ。小瓶には全て聖水を入れたため、余った聖水を大きな瓶に入れていた。

 ベルハウンドゾンビを引き付けてから、瓶を盾で発生させた衝撃波で割る。聖水が勢いよく飛び散り、弾丸に撃たれた跡のようにベルハウンドゾンビの体躯を穴だらけにし、やがて消滅させた。


「さすがクロウ殿! 恐れ入りました」

「ご主人様は、頭が良いですね♡」


 カサンドラは感心した風に、モモはウットリとした表情で俺を褒めてくれる。

 お世辞じゃないと分かるので、本気で嬉しい!


 二階は会議室のような場所を抜けると、同じような部屋が多く、一つの部屋に簡素なベッドと棚が二つずつ置かれていた。

 どうやら、使用人達の生活場所になっていたようだ。質素なメイド服のような物を着たゾンビが沢山出て来たから間違いない。


 数が多いこと以外は問題なく、カサンドラが牽制し、俺の木刀でトドメを刺す。

 ゾンビが消滅した跡に残ったメイド服、侍女服を回収する。思ったより良い生地を使っているようだ。さわり心地が良い。後でクリーニングを掛けておかないと。モモは着てくれるだろうか。カサンドラは…………まあ、ありか。


 何気にメイドが好きなんだよ。メイドカフェには行ったこと無いけど。


 娘が、メイド服を着ているのを見たときは感動で泣いたよ! 小学校低学年の学芸会の話だけど。隣のお母さんがドン引きしていたな。全然泣くシーンじゃなかったからなあ、軽くトラウマだ。


 使用人達が身だしなみに使っていたものだろう、高そうな櫛や手鏡を持って、モモとカサンドラがはしゃぐ。

 そんな姿を見ていたら、今更になって他人の物を盗んでいるんだなと自覚した。

 かつては、別の人間が使っていた道具。大切に使われていたのかもしれないし、様々な思い出が宿っているのかもしれない。

 物に念が宿るという考えもある。死んでいるだろうが、元の持ち主に恨まれないよう、大切にしよう。

 

 目的の地図が見つからないので、三階へ向かうことにした。



          ★



 三階に上がると、甲冑ゾンビとベルハウンドゾンビが積極的に仕掛けてきた。この先に、行かせたくない理由でも有るのか?


 違うタイプの生物が連携してくるのは厄介だな。行動パターンが読みづらい。


「頼む! モモ!」

「ホーミングレイ!」


 

 数が多かったため、モモに魔法を使ってもらう。

 壁をすり抜け、威力が衰えない光球が、螺旋を描きながらゾンビ達を浄化していく。

 モモが討ち漏らした個体は、俺とカサンドラで対処する。


 一度に攻めてくれば、神聖魔法によって一網打尽になると分かっているから、今まで不意打ちを狙っていたはずなのに。やっぱり、この先に何か有るのか?

 それとも、モモの魔力切れを狙っているのか?


 次々と甲冑ゾンビとベルハウンドゾンビが出て来るが、すでに対処の仕方が分かっているため、危なげなく討伐に成功する。

 三階は、この町の有力者の生活の場であったようだ。階下とは違い、どこもかしこも凝った装飾がされており、高そうな調度品がズラリと並んでいる。


 三階はゾンビによって特に荒れていたが、”生活魔法”で洗えば問題ないと割り切り、カーテンや毛布、無駄に凝った武器や食器、タオルや天蓋付きベッド、ワインやドレス、本からカツラまで、片っ端からリングボックスに入れていく。

 二階にあった物と違い、不思議と良心が痛まない。

 ……………………本当に不思議だ。


 三階の探索が終わり、階段を降りる。

 地図が発見できなかったのは仕方ない。そもそも、この屋敷に有るというのは俺の想像でしかなかった。一番可能性が高いと思っていたが、当てが外れたようだ。


 二階には知能持ちのゾンビが居なかったが、三階に居た甲冑ゾンビは何故積極的に襲ってきた?

 やはり、モモに魔法を使わせ、消耗させる作戦だったのだろうか? だとしたら、知能持ちをまとめる上位種が存在する可能性が出て来る。

 知能持ちに自己犠牲を強いる存在が居ると考えれば、奴らの連携能力にも納得がいく。あまり考えたくない可能性だが。


 モモはフラついてはいないが、疲労が溜まっていそうに見える。鍛冶屋に戻って休息を取った方が良さそうだ。

 

「クロウ殿、モモ殿、何か居ます」


 エントランスから伸びた階段、二階部分まで戻ってきたときだった。

 カサンドラが見詰める方向、エントランスの中央に、ローブ姿のゾンビが微動だにせず佇んでいる。

 歯ぐきが剥き出しになり、胸には頭ぐらいの黒い石が埋め込まれていた。明らかに今までのゾンビと違う。

 

 ブラックハートとでも名付けようか。


 ブラックハートと目が合う。


 ……確信した! あいつには他のゾンビには無いはずの意思があると! 奴こそが、考えたくなかったゾンビの上位種であると!


『ワレ……ラ……ヲ……ハバム……モノ……キエロ』


 獣が無理矢理、人語を発したかのような声。だが、その言葉には明らかに敵意が滲んでいた。


「二人とも、やつのことはこれから、ブラックハートと呼称する」


 ゾンビの呼び方を決めておくことで、意思疎通が遅れたり、齟齬や誤解が発生ないようにする。


「「……はい」」


 ゾンビが人語を使ったことに、どちらも驚いているようだ。俺だって冷や汗が止まらない。

 ゾンビが言葉を発するということが、とんでもない事態が起こっていると直感させる!


『ゲー……ト』


 ブラックハートの足下に魔法陣が幾つも生まれ、五体のゾンビが出現する。


「まさか、”時空魔法”!」


 一体はローブ姿で杖を持っている。マジックゾンビか。だが、ゾンビ特有の揺れる動きをしている所を見ると、知能持ちではないようだ。知能持ちであれば、獲物を狙う動物のように無駄な動きをしない。

 他のゾンビは、全てモンスターか。巨大なコウモリや蛇、鬼のようなのはオーガか? 鋭い鉤爪を持った四つ足の獣ゾンビも居る。


『ゴウ……セ……イ』


 モンスターゾンビ四体が空中でゲル状になり、交わって、人型をかたどっていく。

 生まれたのは、四体のモンスターの特徴を持った人型ゾンビ。創作物に出て来る、悪魔のような姿をしていた。


「……デビルゾンビ」


 ブラックハートが胸の黒い石に、一部白骨が見える指を三本突っ込み、小さな黒い石を二つ取り出す。


 その光景を見た瞬間、頭に”禁断の果実”というワードが浮かぶ!


「カサンドラ! すぐに、奴らを吹き飛ばせ!!」


 ブラックハートの指先から黒い石が離れ、マジックゾンビとデビルゾンビに取り込まれる。


 禁断の果実。またの名を、知恵の実と言う。


 二体のゾンビの挙動が、明らかに変わった。


『ヤ……レ……』

「来るぞ!」


 デビルゾンビが膝を曲げた次の瞬間、高速で突っ込んできた!


「私が止めます! ”強化魔法”、フィジカルアップ!」


 カサンドラの身体が光りに包まれる。


 ブラックハートが居ない? 目を離した一瞬で消えた。

 まさか!


「モモ!」


 モモの背後に魔法陣が出現し、ブラックハートがそこから身の丈もある杖を振り下ろす!


「いっ!? つうーー!」


 間一髪でモモとブラックハートの間に入り、盾による”衝撃”で大杖を弾く事に成功したが、わずかに盾に杖が当たり、それだけで左腕が激痛に襲われた。


『ヨク……マニ……アッタ……』

「お前が”時空魔法”を、目の前で使わなければ間に合わなかったけどな」


 ゾンビを目の前で呼び出し、それを見たカサンドラが”時空魔法”という単語を口にしてくれたから気付けた。

 姿が消えたなら、不意打ちを仕掛けてくる。最も可能性が高いのが、”神聖魔法”を使えるモモと考えたから見付けることが出来た。狙ったのが俺かカサンドラなら、対応できなかっただろう。


 背後からカサンドラとデビルゾンビが激突する衝撃が伝わってくる。あっちはカサンドラを信じるしかない。


 見事な陽動だった。マジックゾンビによってモモの”神聖魔法”を封じることで警戒心を煽り、デビルゾンビのインパクトによって、完全に注意がブラックハートから外させられたのだから。


「ご主人様! 今なおします! ヒール!」


 モモが”神聖魔法”で身体を癒やしてくれる。

 腕から痛みと熱が引いていく。


「モモ、俺から離れるなよ」

「ハイ! ご主人様!」


『ワレ……ラ……テンテキ……ハイ・ジョ!』


 ブラックハート。ゾンビに禁断の果実、知能を与え、合成する事でより強力なゾンビを生み出す存在。知能持ち以上に、野放しには出来ない!


 俺とブラックハートの、殺し合いが本格的に始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ