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第六話 館の戦い

 真夜中になって、モモが目を覚ました。

 夜に”神聖魔法”は目立つため、浄化は行わない。知能持ちを警戒しての判断だ。

 夜の方が、ゾンビの動きは活発になるしな。


 三人で遅めの食事をする。

 結界を出るのは危険なので、調理は出来ず、今朝のスープをそのまま飲む。幸い、スープは温かい。


「ふーー。こんな贅沢な食事は半年ぶりだ」


 カサンドラが感慨深そうに語り出す。


「ゾンビが現れてからは、ろくなメシが食えなかったのに、奴隷に墜ちてからは毎食美味いものが食えてる。人生は分からないものだな」


 誰だこいつ。


「マジックゾンビ……魔法を使ってきたゾンビのローブと杖だが、モモとの相性が良いんだ。モモ、構わないか?」


 確認を取ったのは、ゾンビが使用していた物を使うことに抵抗があると考えたからだ。


「”生活魔法”のクリーニングで綺麗にしたから、だから……!?」


 突然、唇を奪われた。


「ありがとうございます、ご主人様♡ 大切に使わせていただきますね」


 モモは、いったいどれだけ俺のハートを盗めば気が済むんだ!


「こんな至近距離で見せ付けられるとは、あと何回耐えられるのかな、私………………これはこれでアリかもしれない」


 聞かなかったことにしよう。


「オホン! 明日の行動だが、町で一番大きな屋敷に向かおうと思う」


 二人の顔が引き締まる。


「今は生き残る事に必死だから後回しにしているが、俺は一人でも多くの命を救わなければならない。その為に、明日の屋敷探索では、”結界石”と周辺の地図を手に入れることを優先する」


 この町には、もう生き残りは居ないだろう。ロラちゃんの願いを叶えるには、別の町に行く必要がある。

 地図があれば、次の目的地の検討が付けられるだろうし。

 当てずっぽうに町を出て、迷子になったじゃ済まされない。この世界では、日本と違い簡単に飢え死にしてしまうのだから。


「……多くの命の中には、勇者とそれに属する者も含まれるのですか?」


 カサンドラから濃密な殺気を当てられる。


「勇者は含まれない。だが、それ以外の命は守る。基本的にはな」


 ロラちゃんには、守る命の線引きについては聞いていない。なら、誰を助けるか好きに決めても良いという事だ。


「俺達三人の命が最優先だ。俺たちの命を、尊厳を危険にさらす存在には、容赦するな」


 だから、命の線引きは俺が決める。


 俺が決めることで、二人の罪を俺が背負えるように。


「フフフフフフ……やっぱり、あなたは魔王だ。只人なのが勿体ないです」


 カサンドラの殺気が霧散した。

 今までで一番命の危険を感じた。一回死んだ記憶はあるけど。


 カサンドラに、俺が魔王である事を打ち明けようか? いや、今はまだ魔王に覚醒していないんだ、証明出来ない以上、変に不信感を持たせる事になりかねない。


「じゃあ、俺は寝るからな」

「私は、朝まで聖水を量産しますね」

「へっ!?」


 手を繋ぐだけでも良いから、一緒に寝たかったのに! って、子供か俺は!


「……無理しないようにな」

「ハイ。お休みなさい、ご主人様」


 一人のベッドが寂しい……。



           ★



 明け方、動くのに支障が出ないよう、軽い食事で済ませ、屋敷の敷地内に入った。


 建物は三階建てで、横に長く、真っ正面から見るとシンメトリーになっている。


「クロウ殿。居ますね、館の中に」


 窓から甲冑ゾンビが見え隠れしている。


 こっちを凝視している奴も居るな。


「まずは、ここをどうやって突破するか」


 屋敷の庭には巨大な噴水があり、水が落ちる音に大量のゾンビが引き付けられていた。

 噴き上げられている水は赤黒い。


「噴水にたむろしている中に、マジックゾンビが紛れていますね」


 俺でも分かった。先日襲ってきたマジックゾンビに比べると、数段劣る装備のマジックゾンビがこちらを窺っている。


「モモの”神聖魔法”は甲冑ゾンビに取っておきたいし、マジックゾンビには防がれる可能性がある。どうするか?」

「私がゾンビ共を吹き飛ばします。その隙にモモ殿が浄化するのが手っ取り早いかと」

「最悪、ゾンビの数を減らせるだけ減らして撤退でも構わない。やってみるか!」


 モモの顔を見る。体調は悪くなさそうだ。


「昨日倒れたのに申し訳ないが、頼めるか、モモ」

「ハイ、お任せ下さい!」

「では、行くぞ! 暗黒剣術! ダークネスシャウト!」


 ギョアアアアアアアアアアアアア!


 カサンドラの大剣に闇が集まり、叫び声が何重にも重なったような音を発する。


「引き寄せてしまうから、この半年間使えなかった大技だ! くらええええぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 カサンドラが大剣を振り下ろすと同時に、強大な闇が噴水ごとゾンビ達を呑み込む。


 ゾンビ共はグチャグチャに飛び散るが、すぐに蠢き、人型に戻ろうとする。


「サンクチュアリ!」


 マジックゾンビなのか、ただのゾンビなのか、見分けがつかないほど滅茶苦茶な状態から再生中のゾンビ達を光が呑み込む。

 狙い道理、マジックゾンビに魔法を使わせずに浄化する事が出来た。


「屋敷に突入する!」


 三人で屋敷の中へと駆け出す。

 頑丈そうな正面扉を、カサンドラが大剣の一薙ぎで破壊する。

 カサンドラの実力は、俺の想像の遥か上をいっているな。


 魔王に覚醒したら、あれ以上の力が手に入るのだろう…………恐ろしいな。


 屋敷に入ると、飛び込んできたのは左右の階段と正面の巨大な肖像画。


 なんかウゼー。モヒカンのオッサンのアップ顔なんて、誰も求めてねーよ!


 …………モモを抱いてから、中身まで若返ってきた気がする。


 ゾロゾロと甲冑ゾンビが出て来る。

 一体一体が距離を開けていた。モモの”神聖魔法”で全滅しないための工夫だろう。


 近付いてきた甲冑ゾンビを、カサンドラが暗黒騎士の大剣で鎧ごと切り裂く。


「クロウ殿!」


 彼女の意図を察する。


「てやああああ!」


 破壊された鎧の隙間に、木刀をねじ込む。


「ギイイアアアアアアアア」


 煙を上げて、甲冑ゾンビは消滅した。

 一応、甲冑ゾンビの鎧と長剣を回収する。一気に襲いかかって来ないので、回収する余裕があった。


「知能持ちゾンビは厄介ですね。一斉に襲いかかってくれば、モモ殿がまとめて浄化できるのに!」


 カサンドラのぼやきに、内心で同意する。

 甲冑で全身を覆っているから、俺が木刀で仕留めるのは難しい。カサンドラでは有効打を与えられないし。


「カサンドラ、木刀を渡そうか?」

「木刀だと、奴らの攻撃を捌けません。そのまま、クロウ殿が使って下さい」

「私が”神聖魔法”で!」

「モモが倒れたら、奴らは躊躇無く襲ってくる。モモが無理をしないことが、俺達の生存率を上げているんだ」

「そうです、モモ殿。私になにがあっても、二人が生き残る事を優先して下さい!」


 カサンドラ、お前は本当に良い拾いものだよ。

 だけど!


「もっと先の事を考えろ! 誰か一人が欠けるようなら、この先誰も生き残れない。俺が生き残るためには、お前達二人が必要なんだ!」


 だからこそ、自己犠牲なんて許さない!


「やっぱり、ご主人様は素敵♡」

「クロウ殿! 先程のセリフ、高く付きますよ!」


 二人ともいい顔になった。

 人間、余裕が無いと何をするか分からないからな。常に余裕を持っていることが、幸運を引き寄せる。


「近付いてこないなら、相手をしなければ良い。このまま屋敷を探索しよう」


 あくまで目的は、生き残るための情報と道具を手に入れることだ。ロラちゃんの願いは、悪いけど二の次にさせてもらう!


 俺を先頭に、真ん中をモモ、後ろをカサンドラの順で、屋敷の探索を始める。

 階段で上へ登れば、足下から崩されかねない。一階から調べよう。


 エントランスの左側の扉を開き、中に入る。

 廊下が十メートル延びていて、奥に扉がある。窓が一切無い通路だ。


「クロウ殿!」


 右側の壁が盛り上がり、騎馬ようの槍が突き抜けてくる!

 首を左に曲げて、間一髪で躱した。右頬が若干熱いが、頭が急速に冷えていく。


 槍は、反対側の壁に刺さって止まった。

 破れた壁の向こうには、槍を持った甲冑ゾンビ。


 木刀で、顎を下から斜め横に打ち抜き、首が外れ飛んで、消滅する。


 狙われたのがモモだったら、死んでいたかもしれない。ゾンビ共に怒りが湧いてきた!


 神経を研ぎ澄ませ、先に進む。

 奥の扉を開けると、中には甲冑ゾンビが二体居た。

 姿を見た瞬間、反射的に甲冑ゾンビの兜の隙間に木刀を差し込み、抜いた勢いで一回転、もう一体の甲冑ゾンビの首に強打を与えた。

 二体のゾンビが浄化された。


 よし、思ったよりも戦えている!


「お見事です」


 後ろを警戒しながら、カサンドラが褒めてくれる。幾つになっても、褒められるのは嬉しいな。


 扉の先に有ったのは、武器庫のようだ。

 広大な武器庫にあった槍や盾、剣や斧、棍棒の類いを全て頂戴する。

 これだけあってもゾンビには無意味だが、一つだけ使えそうな物があった。


〔衝撃の盾〕


⚫衝撃 ⚫防火



 円形の、小さな金属の盾だ。

 ……軽い、これなら俺でも使える。左腕に括りつけることにした。


 俺が先頭で、部屋を出る。


 通路の先から、一体の甲冑ゾンビが長槍を持って突進してきた。カサンドラよりは与し易いと考えたのだろうか。先程まで距離を置いていたのに。


「後悔するなよ!」


 手に入れたばかりの衝撃の盾を、早速使わせて貰う!

 槍の穂先の横に盾を当てて、この盾の能力、”衝撃”を発動する。

 槍の軌道が無理矢理ズレて、壁を引っ掻く。結果、甲冑ゾンビがバランスを崩して転倒。容赦なく、喉元に木刀を突っ込む!


 思った通り、この盾は使える。


 こんなに自分が活躍できるとは思わなかったな。甲冑ゾンビの中身が溶けていくのを見ながら、今までで一番活躍していることに気付く。


 その後は、また甲冑ゾンビは襲って来なくなった。やはり学習能力があるようだ。


 エントランスに戻り、反対側の扉を開ける。


 先程と同じような通路が続いていた。奥の扉までの距離も同じくらいか。

 何事も無く扉まで近付き、開ける。同時に剣が振り下ろされてきた!


「あまい!」


 振り下ろされた剣が盾に直撃する直前、”衝撃”を発動。剣が跳ね上げられ、持ち主の甲冑ゾンビの身体がのけ反る。

 のけ反ったことで首元の隙間が大きくなり、簡単に木刀をねじ込むことが出来た。


 部屋の中には、甲冑ゾンビ共が着ているのと同じ甲冑が無数に有った。他にも、アイテム袋や”結界石”が大量に保管されている。


「これだけ甲冑が有るんだ、潜んで居るだろうな」


 時間がかかってでも、確実性を狙おう。

 甲冑一つ一つを”鑑定”していく。その間、カサンドラには扉を死守してもらう。

 ”鑑定”を入り口付近で使用し続けて、二十体以上が潜んでいる事を確認した。

 あのまま部屋に入っていたら、最低でも一人は、死んでいたかもしれない。


「二十体以上いるな。さて、どうするか……」

「ご主人様、試したい魔法が有ります。ゾンビの場所を教えて下さい」


 ここは頼りにさせてもらおう。モモにゾンビの居場所を教える。

 声を発しているのに、ゾンビ共は動かないか。言語を理解出来るなら、襲ってきそうなものだが。

 言葉の意味までは分からないのか?それとも、他に操っているやつが居て、指示された通りに行動するようプログラムされているのか?


「”神聖魔法”、ホーミングレイ!」


 モモの手から光の塊が生まれ、一番近くのゾンビに直撃、そのまま光の尾を描き、別の場所のゾンビに高速で向かっていく。

 一つの光球によって、物の数秒でゾンビが全滅した。


「モモ、大丈夫か?」

「大丈夫です。サンクチュアリよりも負担は少ないですから」


 一度に消費する魔力の量は少なそうだが、追尾能力の付与によって、術者の精神的負担は増していそうだ。


「”神聖魔法”は邪悪なものを払う力。物理的に破壊する力を持たない事が多いため、鎧や壁も関係なくすり抜ける。広範囲に無造作に光を放つより、光球を操って的確に当てる事で、魔力の消費を抑えて最大の戦果を上げる方法が先程の魔法というわけですね!」


 カサンドラがウキウキした様子で解説してくれた。


「先程の魔法は、本来どういう用途で使われるものなのですか、モモ殿」

「本来の用途? …………昨日倒れてしまったのを反省して、一晩で考えたものですけど……用途は、ご主人様のお役に立つ魔法?」

「自身が編み出したというのですか? …………モモ殿は天才なのでは? あれ程高度な魔法を、個人が簡単に作れるものではありませんよ?」

「そうなのですか? 知りませんでした」


 こともなげに言うモモに、カサンドラが絶句している。


「二人とも、ゾンビに囲まれているって事を忘れるなよ」


 結界石を二人のアイテム袋に十個ずつ入れ、残りの結界石と甲冑とアイテム袋は、全てリングボックスに入れた。

 

 警戒を怠らず、再びエントランスに戻る。

 後は、地図を手に入れるだけだ。


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