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第十八話 ギルド職員リーシェ

 巨大な斧を振りかぶるデカブツゾンビ。太い腕からは蛆がわいている。

 受け止めるのは厳しいかな。


 振り下ろされる前に、足に聖水を浴びせる。

 体勢が崩れた瞬間、”魔獣の籠手”と”魔獣の足籠手”を装備した両手足で連打を浴びせる。


 あの布を被っているせいか、滅びの力が作用しない。


「面倒だね」


 テッチェをお姫様抱っこして、ゾンビの包囲網を跳躍で抜け出す。


 聖水で両足が千切れたためか、斧を捨て、両手を使って追ってくるデカブツゾンビ。


「あの被っている布が邪魔だな!」


 話している間も、拳圧をぶつけて周囲のゾンビ達を滅ぼしていく。


「あの布は、魔力でなければ加工できない素材を使っています。私が魔法を使って隙を作りますから、ラテルさんは……」

「危険なの、分かってて言ってる?」


 コクリと頷くテッチェ。

 彼女の決意は固いようだ。

 今テッチェの気持ちを無下にしたら、僕の女が廃る!


「いくよ、テッチェ!」

「ハイ!」


 テッチェを降ろした後、デカブツゾンビに拳圧をぶつけて誘導する。


「”風魔法”! トルネード!」


 注意が僕に向いた瞬間、テッチェが魔法を発動。竜巻がデカブツゾンビの布を剥ぎ取る!


『ウバウアアワダ』


 布の下には、男と女の顔が混じった物があった。

 ……醜悪な。


「…………パパ、ママ」


 結局、テッチェの家族は……。


『テッチェ……ドコ……ダ……カ……ワイイ……テッチェ』

『ワタシ……ノ……タカ……ラ……テッチェ』


 師匠が、自害なんて真似をした理由がよく分かる。あんな醜悪な姿、誰だって見たくないし見せたくないに決まっている!


 テッチェの膝が崩れ、顔を覆う。指の間からは、涙が止めどなく流れ落ちる。


「ラ……テル……さん……パパと……ママを……殺して……あげ……ください!」

「……分かった」


 足の裏を地面に貼り付けるように、身体をバネのように捻る。

 師匠に教えてもらった技で、一瞬で天国へ贈ってあげる。


『テッチェ……アイ……シテ……イルゾ……テッチェ』

『ウマレテ……クレテ……アリ……トウ』


 想いの残滓なのか、ただの反射現象なのか分からないけど、繰り返される二人の言葉。

 テッチェが、実の親に愛されていたって事はよく分かったよ。


 テッチェが羨ましいな。


「さようなら、パパ、ママ……私も、愛してる」


 テッチェへと近付いていくデカブツゾンビ。


「”羅刹狩り”」


 全身のバネを使って放った螺旋状の拳圧が、デカブツゾンビを跡形も無く消し去った。


 師匠の先祖が、素手で鬼を殺すために編み出したという技。魔力が無い私のために伝授してくれた、師匠の秘技の一つ。


 師匠は僕の気持ちには応えてくれなかったけれど、僕は師匠に……愛されていたんだ。



           ★



 都市の外壁が破られる以前に、テッチェの父親が軍から受けていた仕事がある。浄化属性があるミスリル製の武器の大量生産。

 工房内にて、様々なミスリル製の武器を回収する。まだ加工されていないミスリルも貰っていこう。


 テッチェは涙を流しながらも、必要な物を探して、アイテム袋に入れていく。長居できないのが分かっているからか、この場所に長居したくないのか、テキパキと行動していた。


 ミスリル製の武器以外も回収して、工房を後にする。


「ラテルさん、私も戦います!」


 柄が長い、”ミスリルの大鎚”を手にするテッチェ。


「テッチェ、一緒に頑張ろう」


 今夜、クロウにテッチェを勧めてみようかな。



●●●



「”植物魔法”! グロース!」


 冒険者ギルドには食事を提供するスペースがあり、そのため食料庫も存在していたが、素材や武具ほど厳重に保管されていなかったためか、食糧だけは何者かに根こそぎ奪われていた。


 そこで、ゾンビの進行で荒れてしまった畑から農作物を収獲することになった。


 モモ殿の”植物魔法”で、傷んだ野菜を復活させる。

 昨日、私達が持参した食糧を大分振る舞ってしまった。この勢いで提供していたら、数日で底をつきそうだったため、食糧の確保が急務となった。


 私とモモ殿の二人が中心となって、収獲してくれる女性達十七人を警護する。

 不安を紛らわすためなのか、少々卑猥な会話も聞こえてくる。ネタにされているのはクロウ殿だ。

 勝手にクロウ殿を評価されるのは、正直不愉快なものがあるな!


「魔王様って、あんまり怖くないよね?」

「私……抱かれても良いかも♡」

「ほ、本気で言ってんの!? 闇側の人間だよ、魔王だよ!」


 あるグループでは。


「す、凄いよね。やっぱり、昨日は四人で……」

「え! 私は五人て聞いたけど?」

「やっぱり、あっちの方も魔王級なのかしら?」

「……私、アプローチしてみようかな」


 クロウ殿に好感を持っている者が多いようだが、変な虫が近付いても困る。

 彼女達を見極めねば!


「今代の魔王様は人気だねー、カサンドラ」

「まさか、フォルフィナ様が捕まっているとは思いませんでしたよ」


 先々代の魔王様の盟友。私にとっては生きた伝説。ダークエルフのフォルフィナ様。


「昨日は、大役を引き受けていただきありがとうございます」


 夜目が利くフォルフィナ様とその仲間達に、夜の警戒に当たって貰った。

 本来であれば、ゾンビに対抗できる眷属の誰か一人は控えているべきだったが、身体が昂ぶっていたためか、皆クロウ殿に抱いて貰いたかったのだ。


「あの泣き虫が、今じゃ魔王の眷属か……時代の流れは早いね」


「フォルフィナ様の激があったからこそです」

「可愛いこと言ってくれるね……魔王には、私のことは話していないね?」

「ハイ、そういう約束でしたから」


 本来であれば、闇側の重鎮中の重鎮なのだが……。


「こんな時代だ。私も出来る限り協力するけど、政治には今後も関わる気は無い。今は冒険者パーティー、”月明かりの乙女”のリーダーだ。それ以上でもそれ以下でもない。いいね」

「ハッ! 承知しました」

「……それで、昨日の夜はも、盛り上がったのかい? アッチのお、大きさはど、どれくらい……なのかな?」


 この万年処女ババアが! デリカシーってものがないのか!!


「キャアアアアアアアア!!!」


 女性の悲鳴!


 悲鳴を上げた少女の視線の先には、モンスターが居た。


『キシャアアjrッhyアアア』


「ラミアのゾンビか」


 上半身が一糸まとわぬ女の姿で、下半身が桃色の蛇のモンスターなのだが、僅かに身体が腐っていた。真っ白なはずの上半身の皮膚が部分的に緑色に変色し始めている。


 確かラミアには、上半身を使って男を誘惑しておびき出したあと、口が裂けて丸呑みにするという習性があった。


「カサンドラの実力、見せて貰える?」


 この人にそんなことを言われたら、断れませんよ!


『キシャアアジェfyデcvッ』


 私が近づいた瞬間、鎖骨の辺りまで口が裂けていくラミアゾンビ。


「”暗黒魔法”、ダークバレット!」


 黒い散弾が、ラミアゾンビの身体に穴を開ける。

 ”暗黒騎士の大剣”でトドメを刺すべく正面から接近すると、急に私の周りの土が盛り上がる。


 相手は人型のモンスターゾンビ。もともと知能ゾンビと同程度の策を弄してくる存在だ。意味も無く、一匹突っ込んできただけとは思っていない!


 この数日で、クロウ殿の考え方が移ってしまったようだ♡


「”暗黒剣術”」

 

 私の周りに三体、真下から一体がこちらを丸呑みにしようとしている。


「ダークレイドキル」

 

 一定範囲内に入り込んだ者を、半ば自動で切り刻む技。

 四体のラミアゾンビが刻まれ、消滅した。


『キシェエエfジュyゲエエ』


「後は、お前だけだ」


 おとり役だった最初の一体が後退る。


「インフェルノ」


 紫の炎が、ラミアゾンビを燃やし尽くす。


「さすがですね、”煉獄魔法”ですか」

「暫く拘束されていたから、試したくなってね」


 フォルフィナ様の”煉獄魔法”。彼女だけが会得した魔法。


 ゾンビに対抗する手段は、闇側にとって絶望的に手に入らない。浄化属性を帯びる素材は闇側には存在しないと言われているし、浄化系のスキルもまず修得できない。

 煉獄魔法は例外中の例外だ。フォルフィナ様以外に修得したという話は聞かない。


 フォルフィナ様ならば、パーティーメンバーを守るためでなければ、光側に捕まることは無かっただろうに。


「じゃあカサンドラ、後はヨロシク!」

「フォルフィナ様はどちらへ?」

「昔の知り合いの家に行ってくるよ」


 さっさと一人で行ってしまうフォルフィナ様。


 相変わらずの自由人だ。



●●●



 今、冒険者ギルド内には体調を崩している人が四人、レイジアさんの指示に従って動いてくれている人達が六人。


 さらにフォルフィナ様のパーティーメンバー三人。その内私の警護をしてくれているのが一人、二人は外で見張りをしてくれている。


 昨日牢から助け出した女性達は、全員で三十四人。一人は昨日、亡くなられたらしい。


「フミルは直接ゾンビとは戦えないので、ロッティ様の警護に専念します!」


 可愛らしくガッツポーズをするのはスライム娘のフミルさん。スライムから人間に変化した突然変異種であるモンスター娘だ。


 モンスターの中には、突然変異によって人間になる者も居る。逆に人間からモンスターになってしまう者も珍しくはない。

 フォルフィナ様のパーティーメンバーは、モンスター娘が多いようだ。


「ありがとうございます、フミルさん」

「そんな、フミルにお礼なんていらないよ~。ロッティ様は巫女様だし、フミルは昨日助けて貰ったしね~」


 見た目は私と同じくらいの身長。虹色に常に変化する膝まで伸びた長髪は、獣の尻尾のように自身の感情に反応し、蠢いている。

 体型はスレンダーで童顔。仕草と相まって童女に見える。

 服は”湖のローブ”だけらしい。下着も着けていない。

 破廉恥だ。昨日の私の方が破廉恥だったけど!


 クロウ様は、フミルさんもそういう対象として捉えるのかしら? なんとなく、大きい方が好きな気がする。チッ!


「ロッティ様は疲れてない~? 夜が明ける前から、結界を張りっぱなしでしょう~?」


「大丈夫ですよ。この程度であれば、眠っていても維持し続けられます」


 闇巫女の加護のおかげか、私は“結界術”と“暗黒魔法”との相性が良い。


「やっぱり、巫女様はスゴイね~」


 純真な笑顔を向けてくるフミルさん。なんだろう、スゴイ癒やされる! フミルさんは、一家に一体欲しい!


「ゾンビが来ただ! 凄い数だ!」


 スケルトンの突然変異種、ルントさんが、灰色の荒々しい髪をなびかせながら、慌てた様子でギルドに入ってきた。


 私の結界が攻撃を受けたのは、その直後だった。



●●●



「……本当に、私が貰って良いんでしょうか?」

「良いんだよ、適性があったんだから」


 装備や素材を見終わった後、スキルクリスタルの保管場所に移動したのだが、そこにはスキルクリスタルと人間の相性を判断できる装置が置かれていた。


 四角い箱の上部に窪みがあり、そこにスキルクリスタルをセットして、中央の半球状のクリスタルに触れてから魔力を流し込んで使用する。


 元々、ゾンビに有効な”神聖魔法”のスキルクリスタルが幾つかあると聞いたので来たのだが、試しにリーシェとレイジアに”神聖魔法”との相性があるか確かめた。


「私はダメか、聖獣の乙女は加護を与えた聖獣の属性に縛られますからね」


 レイジアが地味にショックを受けている。



○レイジア 二十四歳 〔只人・聖獣の乙女〕


加護 雷の獅子の加護 


スキル 生活魔法 統率 雷魔法 紫電 磁力

    錬成 強魔 発電 避雷針 放電 

    剣術 咆哮 



 確かに、電気関係に偏っているな。


 ちなみに、魔王である俺には適性がないとロラちゃんに宣告されている


「貴重なスキルクリスタルを私なんかに……」


 リーシェちゃんは、自分を卑下する所があるんだよな。少しモモに似ている。


「リーシェちゃん。正直に言うとね、俺は助けた女の子達の中では、まだリーシェちゃんしか信用できないんだ」


 カサンドラの知り合いだというダークエルフとその仲間は一応別だが、リーシェちゃんの人柄は分かっている。


 彼女は自分に自信が無いが、真面目で頑張り屋、清廉であろうとしている節がある。リーシェちゃんが損得や打算で俺達を裏切る事は無いだろう。


「リーシェちゃんには、真っ先に自衛の手段を身に付けて欲しい」

「……私、元娼婦ですよ。それでも……良いんですか?」


 衝撃的な言葉に、頭が一瞬真っ白になる。


「十三歳の時に奴隷にされて、娼館で働いていました。最初は雑用仕事でしたけど、半年くらい本番無しで客を取らされていました……で、でも、私はまだ処女ですから!」


 どういう事なんだ?


「成人前に本番行為は重罪です。たとえ同意の上であったとしても、互いに奴隷落ちの刑にされます」


 レイジアが補足してくれた。


 十五歳で成人だろ! 本番無しでも成人前は早すぎるだろう! そんな子に手を出すような奴…………いるには、いるんだろうな。


 世の中は広い。人間は皆クズなのだから、世の中に多種多様なクズが居るのは当然か。


 ……リーシェは、自分を穢らわしいと思っている。清廉であろうとする気持ちが、自分という存在を貶めずにはいられないんだろう。


 だが、わざわざ本番行為が出来ない子を雇っていた理由がよく分からないな?


 もしかして、リーシェちゃんのあの加護とスキルに目を付けたのか?


「……私、一度覚えた事は忘れない事くらいしか取り柄がなくて、他に褒められたのは…………お口でのご奉仕くらいで……」


 彼女の唇が、急に艶めかしく見えてきた。ゾワっと背筋を、何かが駆け上がる。


「一年前にギルドマスターが助けてくれなかったら、今頃は…………」


 アレだけのエロ加護とエロスキルだ。失礼な話だが、彼女にとっては転職だったかもしれない。助けが無ければ、ナンバーワン娼婦になっていたと思う。もしくは、権力者の愛人か?


 娘親としては、そんな仕事絶対にやって欲しくないが。

 娘が売春なんてしていたら、俺は人類を絶滅させる。魔王の力がなくても、破壊兵器の一つや二つ、俺が本気になれば…………。


「クロウ様、クロウ様! どうしたんですか!クロウ様!」


 いつの間にか、思考が変な方向に。

 リーシェちゃんが声を掛けてくれなかったら、帰ってこられなかったかもしれない。


「大丈夫。ちょっと世界を滅ぼしたくなっただけだから」

「魔王が口にすると、冗談に聞こえないのですが……」


 レイジアが困った顔をしていた。


「クロウ様。あの、私……あっ!」


 彼女の手からスキルクリスタルを奪い取り、無理矢理付与してしまう。

 そのまま、彼女の華奢な身体を強く抱きしめた。


「あ♡ ……クロウ様♡」


 彼女の肌に少し触れただけで、股間あたりが稼働音を鳴らしている! 昨夜、あんなにしたのに! 起つのだけは堪えないと!


「リーシェ、お前は絶対に俺の役に立つ。だから、俺のものになれ」


 この子は、絶対に幸せな結婚なんて出来ない。普通の男じゃ、玩具のように扱ってしまうに決まっている。

 幸いと言うべきか、俺には妻が四人居る。リーシェ一人に全ての情欲をぶつけるなんて事はしないはずだ。

 今更、四人が五人になっても変わらないし、構わないさ。


 また、腹上死する可能性が高くなったな。


「ゾンビが来ただ、凄い数だ!」


 階下から声が聞こえてくる。

 リーシェの返事を聞くことも出来ずに、三人で外へと駆けだした。


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