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第十四話 モモの本性

モモが好きな方はショックかも

 雨が降り出した。

 ブラックハートとの遭遇戦後、急いでその場を離れ、数キロほど進んだ森の中に身を隠した。


 モモの”植物魔法”、グリーンルームのおかげで、視覚で発見さる可能性は低いだろう。と言っても、魔法やスキルなんてものが存在する世界だ。いつ見つかるか分からない。


 一応、”結界石”とロッティちゃんの”結界術”による二重の守りがあるが、油断は出来ないな。


「大丈夫か、モモ?」


 俺とモモは、遭遇戦で大量の魔力を消費した。俺は魔王になったおかげか、すでに魔力は全回復している。

 装備では俺より魔力回復効果が高いはずのモモの方が回復速度が遅いようで、今は横になっている。


「大丈夫です。足手まといになってしまって、申し訳ありません……」

「モモが居るおかげで、沢山助けられている。そう自分を卑下するな。俺が悲しくなる」

「……やっぱり、ご主人様は優しい♡」


 実際、大量の虫ゾンビを浄化した事で、大量の魔力を消費したはずだ。今回は、本当に無茶をさせてしまった。


「ラテル、都市まではどれくらいだ?」

「僕なら、ここから二日って所かな」

「なら、最低でも四日は掛かると思った方が良いな」

 

 ラテルの運動能力は高すぎる。数秒で、十メート以上の木のてっぺんまで登っていくからな。ラテルが運び屋として重宝されていたという話は、疑いようがない。


「ロッティちゃんは何をしているんだ?」

「次にいつ水の補給が出来るか分かりませんからね、結界で雨水を集めているんです」


 結界の天井部分が窪んでいて、真ん中に集まり、下に置かれた桶に流れるようになっている。


 川から離れたルートを通ることになる。“水魔法”を使える者がいない今、次にいつ水が補給出来るかのは分からない。


「”結界術”には、こんな使い方もあるのか」

「”結界術”は魔力を消費しますが、魔法ではありませんからね、割と自由に操れるんですよ」


 ロッティちゃんが自慢気に自慢している。話題にされたのが余程嬉しかったんだな。


「下位の魔法なら多くの人間が修得出来る可能性がありますが、術の場合は相性が大きく作用しますからね。便利な分、修得が難しいんですよ。武術系ならば、努力次第という説もありますが」


 カサンドラの説明は分かりやすくて助かる。


「カサンドラの”暗黒剣術”もそうなのか?」

「ええ、私は暗黒騎士を目指して修行していましたから。もっとも、“暗黒剣術”は上位武術スキルという位置づけですが」


 上位武術スキル?


「スキルって、修業で手に入るものなのか」

「そうだよ。僕のスキルのほとんどは、師匠に教わったものだしね」


 努力で手に入れられるものだとは、思っていなかったな。


「俺のスキルは、”言語理解”と”生活魔法”に”鑑定”、それと”魔王法術”かな?」

「ご自分で確認してみればよろしいでしょう?」

「どうやって? 他人のなら見れるが……」

「はい、どうぞ」


 ロッティちゃんに手鏡を渡される。骨で装飾された禍々しい手鏡を。

 デザインに関しては、華麗にスルーしよう。

 

 自身の顔を覗き込み、”鑑定”を発動してみる。


○クロウ 十八歳(八七歳) 〔魔王〕


加護 魔王の加護


スキル 生活魔法 言語理解 鑑定 魔王法術

    魔王眼 強魔 房中術 影傀儡 統率

    毒耐性 



「……スキルが五つも増えている」

「魔王の加護には、スキルを修得しやすくする効果と、殺した敵から低確率でスキルを奪う二つの効果があります」


 さすが闇の巫女、魔王について詳しい。


 ”魔王法術”に”魔王眼”は、魔王に覚醒した時に手に入れたものだろう。

 ”強魔”はいつ手に入れたのか分からないが、”房中術”は誰かとの性行為の時だろうな。


 残りの三つに関しては、”房中術”の後に手に入れたと考えると、タイミング的に大量の虫ゾンビとトレントゾンビ戦の時か。


「これからは、クロウ様が敵を殺すようにした方が良いかもしれませんね。空っぽのスキルクリスタルが有れば、他の者にスキルを与えられますし」

「……そうしてみるか」


 力が手に入るなら、やってみる価値はある。



           ★



 あれから四日が経った。

 目的の都市、カルミラがようやく見えてきた。

 この四日間、ゾンビによる散発的な襲撃はあったが、ブラックハートが仕掛けてくる事は無かった。

 正直不気味だ。精神的には参ってしまう。


「あれが、カルミラ都市の外壁か」


 ラテルの情報頼りに、俺達はこの巨大都市を目指してきた。


 光側と闇側の境界線の側にある最大都市。高さ十五メートルの外壁に覆われているらしい。


「圧巻だな……一部が崩れてなければ」

「ここも呑まれたのか……」


 呟いたラテルの顔は、少しだけ悲しそうだった。

 崩れた外壁から、ゾンビが進入していくのが見えた。

 都市からは火の手も見える。


 ラテルの情報では、俺達と出会う三日前までは無事であったらしい。なら、ゾンビが進入してから、最大九日から十日ほどが経っている事になる。


「今なら、まだ助けられる人達が居るかもしれない」

「この場所に拠点を作って、私の”時空魔法”で戻って来られるよう、転移の印を残しましょう」

「それなら、すぐに撤退出来ますね」


 ロッティちゃんの案に、カサンドラが賛成する。


「なら、一人か二人は拠点に残ってもらった方が良いな。じゃあ、誰が残る?」


 全員の視線が俺に集まる。


「…………え、俺!?」

「”時空魔法”を使う私は、行くのが決定ですし」

「市街地ですからね、接近戦が得意な私とラテルは必要でしょう」

「私の”神聖魔法”なら、障害物を無視して浄化出来ますし」


 特に近接戦闘が得意ではなく、広範囲破壊しか取り柄が無い俺には出来る事が無いと。


「……うん、行ってらっしゃい」


 なんか虚しい。


「クロウ、分かれる前にお願いがあるんだけど……」

「なんでしょうか?」


 ラテルが意を決したという顔をする。


「僕にも……首輪を付けて♡」


 恥じらいながら何言ってんの!?



           ★



 四人がカルミラ都市へと向かった。

 グリーンルームで作られた簡易な居住空間に、一人取り残される……寂しい。

 ゾンビが徘徊する世界に、一人きりは辛いものがあるな。


 それにしても、ラテルが自分から奴隷になりたいと言い出すとは。この数日間、ずっとタイミングを伺っていたそうだが、別れて行動する直前になって決心がついたらしい。

 ラテルも俺が死んだ後、自分だけが生き残るのは嫌なんだそうだ。

 改めて、自分の命に責任があることを認識した。


「俺だって、死別なんてゴメンだからな」


 ………………落ち着かない。全然落ち着かない! 娘が、学校行事で山登りに行ったときよりも落ち着かない!


「四人だけでも、早く帰って来ないかな」


 グリーンルームの外で待っていようかな。いや、直接グリーンルームの中に転移してくる予定だからな。転移を阻まないために、今は結界も張っていないし……。

 俺の役目は、この場所を守る事だと何度も心の中で言い聞かせる。


「あいつらの温もりが恋しい。戻ってきたら、三人まとめて押し倒してやる!」


 部外者が居たら、さすがに自重するが。



            ★



 所持品の見直しくらいしかやることがなく、それもすぐに終わってしまった。

 どれだけの時間が経過した? あいつら、本当に無事なのか?

 ………………やっぱり、俺も!


 転移の印が輝くと魔法陣が出現し、そこから人の姿が現れる。


 現れたのは、カサンドラとロッティと知らない女!?


「モモとラテルは!?」


 三人が苦い表情になる……まさか!!!


「二人は、この人の代わりに、檻の中の女性達を守っています」

「檻の中の?」


 ロッティちゃんの説明に戸惑う。


「クロウ殿! 急いで二人の救出に向かわなければなりません! ですが!」

「お願いです! 檻の中の者達を助けてください!!! 彼女達は、何も悪くないのです!」

 

 謎の女性。黒の軍服姿で、左目に眼帯を付けたオレンジ色の長髪の美しい女性が、頭を下げて懇願してきた。



●●●



 ご主人様と別れた後、私達四人は崩れた外壁に向かって走っていた。

 前をカサンドラさんが、後ろをラテルさんが私とロッティちゃんを守りながら駆ける。


「”暗黒魔法”! アビス!」


 黒い球体が、外壁までの直線上に居るゾンビ達を弾き飛ばす。

 側面から近付いてきたゾンビは、ラテルさんの拳圧に滅ぼされた。


 私とロッティちゃんは、出切る限り魔力を温存する事になっている。

 私にも、魔法以外の攻撃手段があれば……。


「先に中の様子を確かめる」


 カサンドラさんが、外壁の向こう側に姿を消してしまう。

 すぐに出て来て、手振りで来るように指示される。


 外壁の中は地獄だった。あまり腐っていないゾンビが沢山いる。ゾンビになってから、大して時間が経っていないんだ。


「どうする? カサンドラ」

「この前の、冒険者ゾンビを相手にした方法を使おう。派手だし、私達に生き残っている人間達が気付くかもしれない」


 カサンドラさんが大剣に闇を集め、大きな奇声にも似た音を発生させる。


「そういう事ですか、ルーム」


 ロッティちゃんが私達を箱状の結界で包む。

 結界の周りには、次々とゾンビが集まって来る。


「モモ殿! もっと引き付けたら、合図を出します!」


 カサンドラさんの言葉で、私は魔力を練り上げる。

 都市の内側には、モンスターゾンビはあまりいない。外側にも外壁を破壊出来そうなゾンビは居なかった。あの堅牢そうな外壁は、どうやって破壊されたのかな?


「今です!」

「サンクチュアリ!」


 カサンドラさんの指示に従い、”神聖魔法”、サンクチュアリをできる限り広範囲に拡散させる。

 沢山のゾンビが、跡形も無く消滅した。


「何度見ても、ゾンビの大群が消える瞬間は爽快だね!」


 ラテルさんがとても良い笑顔で同意を求めてきた。


 空には暗雲が差し掛かり、暗い。だからだろうか、都市の中でも一際大きな建物から、上空へ稲光が走ったのが見えた!


「行ってみましょう」


 ロッティちゃんの言葉に、全員が同意した。



            ★



「ここは牢獄か?」

「そうだけど、確か、捕虜が乱暴に扱われないように、特別に作られた場所だったかな?」


 カサンドラさんの疑問に、ラテルさんが答えた。


「戦争捕虜の収容所ですか。なら、捉えられている人達は、スキルの大半を封じられているはずですが?」


 先程の光の正体が分からないため、ロッティちゃんは警戒しているようです。


「なら、扉の前に居る軍人さん達に聞いてみますか」


 同じ黒い服を着た男達を指さして、ラテルさんが提案します。

 あの人達、軍人なんですね。


 それにしても、只人を見ると、それも男だと殺意が湧いて仕方ないんですよね。


 家族を殺した只人の男共! 私を捉えた後は、無遠慮に下卑た目で見てきたゲス共。「買い手が決まってなければ遊んでやるのによ!」という言葉は今でも忘れられない!

 実を言うと、ご主人様と檻を出る際、キッチリとゾンビ化した奴らを滅ぼしておいた。


 ゾンビに襲われていた時の奴らの顔は傑作だったな。檻の中からの眺めは最高でした。

 そんな私が、最初は只人だと思っていたご主人様に恋をしてしまうなんて。

 安全を確保したら、隙を見て殺そうと思っていたのに。


 たった一日で、私は恋に落ちてしまった。


 私が目の前で裸になった時のご主人様の顔、可愛かったな~♡

 それに比べて、扉の前に居る二人の男は最低だ。あの顔は、欲情を必死に隠している顔だ。


「あの二人、殺しても良いですか?」


 私の言葉に、三人がギョッとする。


「光側とはいえ、協力できるなら協力するべきですよ!」


 ロッティちゃんって、もしかして騙されやすい子なのかな?


「オイ! そこの女共! 何者だ!」

「良い身体してんな~! 今はブスでも良いから、ヤリたくてたまんねえんだよ!」

「俺は獣や魔族は趣味じゃねえんだけどな! 仕方ねえ!」


 予想を遥かに上回る下劣さ。死ねば良いのに。


「もう良い?」

「「「どうぞ」」」


 私の確認に、皆が同意してくれた。やっぱり、本気で愛している人が同じだと気が合って嬉しいな!

 ロッティちゃんは、まだ違うけど。


「”植物魔法”、バインウィップ!」


 右手から展開された緑の魔法陣より、植物の蔓が飛び出し、男達を巻き上げ、さらにゾンビも捉えて引き寄せる。


「ま、まさか! ヤメロオオオオオオオオオ!!!」


 二人のクズには、ゾンビとキスして貰いました。

 良かったですね! ゾンビですけど、念願の女性と合体できて。ほら、あんなにも情熱的に唇を食い千切っている!


 ブスでも良いって言ってたし、只人のゾンビだから、ちょっと腐ってても問題ないよね?

 要求をちゃんと叶える私って、優しいですよね!


「モモ殿……なぜ、わざわざゾンビに?」

「ご主人様が言っていたじゃないですか。ゾンビを倒すと、ポイントが手に入るって。後で役に立つそうですから、少しでも多く集めないと!」


 カサンドラさんは何を言っているのでしょうか?

 ただ殺しちゃったら勿体ないでしょう。少しでもご主人様のお役に立てるなら、彼らの存在にも価値があったと思ってあげられますもん!


「ニコやかに言うのはどうかと思うけど、一理あるね」

「さすがラテルさん。話しが分かりますね!」

「女神様は、そんなつもりでZP(ゾンビポイント)を作ったわけではないはずなのに……」

「ロッティ殿、中からまた出て来ましたよ」


 先程の下品な男達と、同じ服を着た男共がゾロゾロ出て来る。


「見ろ! 女だ! これで、わざわざ聖獣の乙女と争わずに済む!」

「俺はピンクの髪のガキだ!」

「オイ! ズルいぞ! お前、この前もそうやって!」


 なんて醜い争いを見せてくれるのでしょう。ゾンビよりも汚いなんて、私の目と耳と心が、汚れるでしょうが!!

 汚れた私なんて、ご主人様に相応しくないでしょう!


「さっさと浄化しなければ」


 その後、全員キッチリとゾンビにしてあげました。


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