第一話「ハジマリ」
始めまして、ヨモギと申します。
至らぬ点多々あるかと思いますが、宜しくお願い致します。
私、唐沢佳子はストーカーに悩まされている。
警察には連絡をしたが何故か取り次いでくれなかった、帰宅道を変えて見ても後ろから誰かに見られている感覚は無くならなかった。
まさか高校生にもなって防犯ブザーも持ち歩く事になるなんて思っても見なかったし後ろを気にしすぎたせいか、少し物音がしただけでも跳び跳ねるように後ろを見るようになった。
今日も神経を磨り減らす一日が始まるのかなんて考えながらなんとか学校にたどり着いた。
下駄箱から上履きを降ろし履こうとしたところでガタンと大きな音が響く、反射的に振り向くとそこには親友の天崎篠が床に尻餅をつき頭に上履きを被っていた。
「……なにしてるの?篠。」
私が呆れながら篠に手を伸ばす、すると彼女はたははと笑いながら起き上がる
「いやー、ヨッシーに耳寄りな情報を昨日手に入れてさ、早く伝えたくて走ってきたら下駄箱でコケちった。」
篠は陸上部だ、恐らく私の学校で一番足が早い。
そんな彼女が走ってきたのだ、よっぽどの事なのだろう。
只、彼女は頭はあまり良くないので少し不安だけど。
「それでさ、ヨッシーって須藤探偵事務所って聞いたことない?」
須藤探偵事務所
篠が言うには、この伊崎町には須藤と言う探偵がいるようで、どんな依頼もこなすと言われているようだ。
彼女は私の情事を知ってから休みの日にトレーニングも兼ねて探してくれていたようだ。
どうやら私の通学路からそう離れていないようだ。
私はその日の帰りにその事務所に向かうことにした。
三階建てのレンガ造りの外装のビル。
夕日の橙色がレンガの色と合わさりその存在感を強く表していた、シャッター横の階段を登り右手にあるドアを確かめ須藤探偵事務所の名前を確認し、コンコンコンと三回ノックをする。
「うわ、ちょっ……あぁあぁ!!」
ドアの向こうから何やら慌てた様子の声が聞こえ、直後、ガラガラと崩れ落ちる音が響く。
慌ててドアを開け中に入る、目の前には本の雪崩に埋もれたボサボサ頭の男性が外れかけの眼鏡を直しながら此方を見上げていた。
「や……やぁ、須藤探偵事務所へようこそ。」
彼を見て私は少し不安になった。
夕日が射し込む事務所、部屋の半分は本棚が並び、もう片方には応接スペースであろうソファとテーブル、そして窓を背にするようなオフィステーブル、その横に付けるように質素な机が置かれている。
私はソファに座りながら一通り事務所を見渡すと目の前に出されたお茶に目を移し一口飲む。
「……渋い。」
思わず口に出してしまいハッとする、丁度目の前に入れてくれた人物がいると言うのに。
「あはは、本来は助手の人がもっと美味しいのを淹れてくれるけどね……」
ニコニコと笑いながら席に座ると眼鏡を指で直す
「さて、自己紹介が遅れたね僕は須藤澄、この事務所の探偵だ。今日はどんな用だい?」
彼が放つ不思議と落ち着く雰囲気に私はゆっくりと事の顛末を話始めた、ストーカー被害の事、いくら対策を取っても無駄だったこと、親友の情報で此処に来たこと。
とにかく今日までの事を全て話した頃には彼はソファに深く腰掛け首を後ろに倒し窓の外を見つめていた。
「……以上です。」
その言葉を伝えると彼はふぅーとため息を着くと此方を向き直し眼鏡をはずすと先ほどの柔らかい雰囲気はどこへ行ったのか真剣な顔付きになる
「佳子さん、これは僕の所感だし、確証は無いんだけど……」
突き刺すような視線に思わず身がすくむ。
「君さ、怪異って聞いたことある?」
私は耳を疑った。