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世界樹の果実は、ほろ苦い  作者: Lei
幕間
12/36

#11

《幕間》

 鬱蒼とした木々が生い茂る森の中、そこは切り開かれたのか円形の広場になっていた。空に太陽は昇っており日は差していたが、薄い霧が立ちこめているため白い世界の中に居るようだ。

 その広場は柱と壁で囲まれており、共に多彩な色彩の絵柄と彫刻で飾られた絵物語が描かれている。柱と壁の外側には熱帯林のような背の高い広葉樹が伸びて日差しを妨げており、開けた広場だけ明るくなっていた。差し込む日差しを霧が反射させ、神々しい雰囲気を醸し出している。

「では次の議題、アネモス王国に関する報告を」

 広場には様々な人が300名ほど集まり、中央に向かって整列していた。それらの人の大半は衣服はほとんど着けておらず、晒されている素肌は様々な色の毛に覆われ、頭部は動物のそれだった。

 虎、獅子、豹、等の肉食獣も居れば、象、羊、山羊、馬、等の草食獣の姿も見える。上半身は普通の人間で、腰から下が四足の獣になっているような者も見られたが、全身が普通の人間の姿は見当たらない。

 広場の中央が丘のように少し高くなっており、中央の一番高い場所には白い貫頭衣を着た豹頭の人物が立っていた。その人物は金の飾りがふんだんに着けられた腰ベルトと首回りも覆う肩飾りをしており、背の高い金色の帽子を着けている。

 中央の豹人の左右、少し離れた位置にも一人づつ人が立っており、右側には獅子頭が、左側には山羊頭の人物が立っていた。左右の獣人は中央の人物と似たような衣服を着ていたが、帽子も低めで飾りもいくらか簡素化されている。山羊頭の人物は手に書類の様な物を幾つか持っており、先ほどの声は山羊頭が発したようだ。

 中央の豹頭の周囲はすこし開けており、整然と立ち並ぶ獣人の中から鳥頭の男が数歩前に出ると、キンキンと響くような声を上げた。

「アネモス王国への支配地拡大の件についての報告ですが、現在は周辺地域の村を幾つか襲い、王国側の反応を伺っている段階です。今のところは大きく軍を動かす様子は見えませんので、相手側が大きく動くまではこのまま少しずつ支配地を広げていく予定です」

「そうか…アネモス王国が国軍を動かすまではそなたに任せる。補充兵等が必要であればホルエムヘブに相談せい」

 返答した豹頭の人物の声は低く、重厚さがあり、人々の上に立つ威厳を感じさせた。

「はっ!一心に取り組ませて頂きます。ただ、アネモス側の反応は鈍いのですが、ピブワンがこの件に関して関与しようとしている節が見られまして、現在調査中であります」

 鳥頭の人物の発言に周囲の獣人からも声が上がる。

「他国の面倒まで見ようとはお節介な奴らだな」

「ピブワン王国には聡い人間もいると言う事ですか」

「侵略されようというのに反応が鈍いアネモスよりは、よほど正常な反応でしょう。明日は我が身なのですから」

 中央の豹頭がぐるると呻り、少し声を荒げた。

「戒めよ。侵略ではない、これは浄化の闘いである」

「申し訳御座いません」

 侵略と発言した犬頭が謝罪する。場が静まった所で、鳥頭が再びキンキンと響く声で話し始める。

「現在、ピブワン王国は密使として王子をアネモスへ送り出しているようでして、これを捕らえる作戦を計画中であります」

「ふむ、捕らえられれば使い道は多そうだな。その件も進めてくれて構わん。以上か?」

「はっ」

 中央左側に立つ山羊頭が資料をめくり、声を上げる。

「では次の議題──」

 様々な事案が報告、検討され、裁定が必要な案件であれば豹頭が是非を下していく。短くも濃密な時間が過ぎ、議事が終了した。

「本日の議題は以上になります。ではスメンクカーラー様」

「ふむ。忙しい中、皆の足労有り難い。ニンフェア神に代わって皆の働きに礼を言う。神属の中でも下等で野蛮な人間種の浄化を進めるために今後も力を貸して欲しい。よろしく頼む」

 その言葉に同意するかのように、周囲の者が一斉に大きな雄叫びを上げる。様々な種類の動物がそれぞれの声を上げたが、不思議と一体感があり、調和していた。

「本日の会議はここまで。散開してよし!」

山羊頭が会議の終了を告げると、集まっていた獣人達はバラバラに周囲の森に入り、広場から姿を消していった。

 後に残ったのは、スメンクカーラーと呼ばれた豹頭と、左右に居た山羊頭、獅子頭、他には三人従うような様子の犬頭、熊頭、麒麟頭が広場中央の丘の麓に集まっていた。スメンクカーラーは先ほどの重厚そうな物言いとは違い、軽い口調で話している。

「ネフェルティティ、ホルエムヘブ、苦労であった。二人は何か気になったことは無かったか?」

 まず、ネフェルティティと呼ばれた山羊獣人が口を開いた。

「ピブワンの王子の拉致に関してですが…やはり交渉の手段としてお使いになられるのですか?」

「ああ、そのつもりだ。あまり気が進まないのは分かるが、多数の人間を殺すよりはまだマシだろう…」

「軍としては正面からの闘いを潔しとしますが、統括する者としては戦わないほうが消耗が少ない方がありがたいものです」

 軽い口調で答えた獅子頭に山羊頭が答えた。

「軍の消耗も考えると、人質のような下劣な手段を。とは言って居られませんか」

「ニンフェア神のご意向もあるしな…」

 スメンクカーラーの呟きに、少し会話が止まる。一時後、獅子頭が別の話を始めた。

「そういえばニンフェア神はご壮健か?」

「ええ、神殿でお休みになっているはずです」

「はっ!どうせまた飲んだくれているのでしょう!」

 スメンクカーラーが答えると、山羊頭が侮蔑の籠もった口調で声を荒げた。

「皆の前ではあまり悪し様に言うなよ。一応この国の守護神だ」

「疫病神でもありますがね」

「すまんな。色々と思うところはあると思うが、民のためと思って堪えてくれると有り難い」

「いえ、すみません。自分でも分かってはおりますよ。ご配慮有り難う御座います」

 スメンクカーラーに懇願され、山羊頭も謝罪する。

「余計な話題であったな。ではワシもそろそろ仕事に戻るとするか」

「ええ、ボツクワ帝国とイノーデラ共和国の件、よろしくお願いします」

「承知した」

 獅子頭は犬頭を従えて森に戻っていった。

「では、我々も仕事にもどるか。ニンフェア神に会議の報告をしてくるよ」

「いつも嫌な仕事を押しつけるようですみません」

「いや、一応とはいえ一番偉いという事になっているのだから、それなりの責任は果たさんとな」

「皇帝でしたな。忘れておりましたよ」

「ははっ、私も良く忘れる」

 スメンクカーラーの返答に、従卒の熊頭、麒麟頭も笑い声を上げた。

「それでは私もこれで」

「ああ、よろしく頼む」

 別れの挨拶をすると皆は森の中へ帰っていき、広場は無人となった。

 すると、誰も居なくなったのを待っていたかのように霧が急に濃くなり始め、周囲を覆い尽くしていく。霧に埋め尽くされて真っ白に埋まった世界では、木々以外は何も見えなかった。

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