#10
晴れた空を太陽が東から西の空へ移る頃、南の草原からヴェスビオの街の目指している一行がいた。牽引竜二頭引きの荷車には荷を満載しており、ぎしぎしと揺れるたびにロープで縛られている荷が微妙に揺れて零れ落ちそうだ。
荷車の御者台に男と女が1人ずつ、荷台の左横には男1人、女が2人歩いていた。荷車は徒士に速度を合わせるよう、ゆっくりと進んでいる。
「やったー!やっと見えてきた。今日はあったかいお風呂とお布団にありつけるのね!」
「風呂って…あったっけ?この街」
「炭鉱労働者向けに幾つかあったと思いますが…女性が入れたかはちょっと…」
「探してみないと分かりませんか」
「宿には備え付けてあったりしますが、そういう所は高いですから」
竜を狩ってから6日後、仁達は無事に出発地であるヴェスビオの街の近くにたどり着いていた。
「どこかの宿で待っていて貰っても構いませんが…どうしますか?」
「待ってちゃ駄目なの?」
仁はオルテンシアの素直な問いに答える。
「胴元が稼ぎを持って逃げる可能性があるんだよ。まあ、ステラの場合は大丈夫だろうが。そういう輩も大勢居るって事だ」
「うーん……現世は大変ね…」
「神の世界は騙すなんてことないのか?」
愛莉珠の問いに、オルテンシアは少し思い出すような素振りを見せてから話を続けた。
「そりゃー、常世でも詐称や騙し合いはあるけど、賃金労働とか無いからなぁ…よくわかんないのよ」
「貨幣を司る神様はいるのに、貨幣はないんですね」
「貨幣自体はあるけど、常世じゃ何が買えるって訳でもないし、使い道ないのよねーあれ」
「…そうなのですか…」
「宝飾品みたいなものよ」
「それはそれで、また…」
「ま、俺だけは付いていくさ」
「あぁ、ジンも僕と離れるのが辛いのですね痛っ」
タチアナは手に持っていた教鞭の様な物で右隣のステラを叩いたようだ。
「若様、それは許さないと何度も──」
「だって僕、タチアナの世界には付いて行けないよ。痛いし」
「若様の方も痛い思いをする人が居ると思うのですが。主に誰とまでは申しませんが」
そう言って仁を可哀想な人を見る目で見つめた。
「こっちを見ないでッ!俺はノンケだっての!とりあえず2人は前と同じ宿を取っておいてくれ。宿が一杯ならそこで待っててくれればいいさ。夕方までには合流する」
「分かりました。兄様」
「体が洗えるといいなぁ…」
オルテンシアは外套を少しめくって自分の匂いをクンクンと嗅ぎ出すと、隣に居た愛莉珠が慌てて止める。
「シアさん、はしたない振る舞いは止めて下さい」
「えー、そんな事言ってる愛莉珠だってちょっと匂うわよ?」
「な…な…なに言ってるんですかシアさん!私はちゃんと綺麗にしてます!」
愛莉珠はオルテンシアの言葉に取り乱し、腕を大きく振りながら弁解している。
「いやまあ、これだけ野宿が続いてたら仕方ないだろ…」
呆れたように言う仁だが、愛莉珠とオルテンシアの言い合いは、街に着くまで止まなかった。
・
「いやー、お風呂はなかったけどコレはコレでいいもんだねぇ…」
「そうですね~~」
愛莉珠とオルテンシアは薄暗いサウナの中の椅子に腰掛けていた。二人とも胴に大きなタオル生地を巻いているだけで他は何も身につけていない。髪は丸めて結い上げ首の後ろに一纏めにしている。
「サウナって美容にもいいそうですよ。痩せるとか、お肌にいいとか」
「へ~~、そうなんだ。常世じゃ沐浴ばっかりでお風呂も新鮮だったけど、やっぱりこういう文化は現世の方が進んでるよね」
んん~~と大きく伸びをするオルテンシア。暫く沈黙が続くと、愛莉珠が話し出す。
「今回の仕事は、シアさんには始めてづくしで大変だったでしょう?」
「狩りや獲物に関してはまぁ心得たものだったけど、やっぱり常世で何日も獲物を探すってのは初めてでキツかったかな?」
「兄様も、不満を言わずに頑張ってくれたって褒めてましたよ」
「あの完璧超人が褒めるとは珍しい」
オルテンシアは手に持っていたタオルで額の汗を拭き取った。
「ふぅ…でもまあ、今回はあの完璧超人にも生き物らしい所があるって分かっただけでもみっけものだったわね」
「生き物らしい…ですか…」
あまりの物言いの為か、愛莉珠は少し困った表情を浮かべていた。
「ええ、まあ、あなたもだけど、神よりもよっぽど神のような力を振るうあんたたちって、本当に人間なの?って思ってたし。少し安心したわ」
「私も、兄様も、人間ですよ。両親達もみんな普通…の……?人…?ですし?」
?マークを浮かべながら話す愛莉珠にオルテンシアは訝しげな目を向ける。
「…なによその間は…」
「ちょっと一部、普通の人間かと聞かれると怪しい人がいまして…」
愛莉珠は目を逸らし、残念そうな人を見る表情をしている。
「へー、それ面白そう。どんな人?誰なの?」
「ん~、そうですね。私も兄様も絶対に逆らえない人。と言えば大体分かって貰えるかと」
「なにそれ!ひどっ!愛莉珠も適わないとかあり得ないわー」
「私が目標としてる人です」
「……人間でも凄い人がいるのね」
「ええ、上には上が居るって事ですね」
先ほどは打って変わって、愛莉珠は清々しい目で自分の目標を語っていた。
「あ~、ちょっと茹だってきた」
「そろそろ出ますか?」
「その前に、コレをちょっと試してみたいかな~」
そう言ってオルテンシアはサウナ部屋中央の壺に盛られた泥を両手に掬う。注意書きに肌に擦り込むと新陳代謝が良くなる。と書かれていた。
「ほら、これ、お肌にいいらしいよ~」
「この街は泥炭が採れるらしいので、その副産物でしょうか?」
オルテンシアは手に取った泥を顔や手に塗りたくっていく。
「あ~、なんかヌルヌルして気持ちいい。ほら、愛莉珠も」
オルテンシアは手に取った泥を愛莉珠の太ももに塗り込み始めた。
「きゃっ、ちょっとシアさん、くすぐったいですって!自分でやりますってば!」
「よいではないか、よいではないか」
「きゃはは、くすぐっ、駄目ですそこはっ!」
オルテンシアはよく分からない台詞を言いながら、泥だらけの手でぬめぬめと太ももを撫でて泥を塗りたくっていく。
「んっ、あっ!やですって。何ですかその台詞は!も~~」
そう言って素早く身を躱した愛莉珠は立ち上がり、両手で壺から泥を大量に掬う。
「さて、覚悟して下さいねシアさん」
「あ…!いやちょっと、マジになるのは止めようよ愛莉珠」
焦って逃げだそうとするオルテンシアに愛莉珠は笑顔で語りかけた。
「大丈夫ですよ。ちょっとお肌が綺麗になるだけです」
「私、もう出るー!」
「逃がしません!」
しばらくの間、サウナの中からは笑い声が途切れる事なく聞こえていた。
・
再び宿り木亭で全員が集合したのは、日がほとんど沈み茜色が薄暗い紅紫になった頃で、すでに壁の獣脂ランプに火が灯される刻限だ。テーブルを五人で囲み、料理は出ていないが各自の飲み物とナッツのような皿が2つほど並んでいた。周囲のテーブルでは仕事帰りの男達がすでに宴会を始めており、店内は騒がしくなっていた。
「さて、ジンにはすでに見せましたが、こちらが今回の収支報告です」
そう言ってステラが広げた紙には収入、支出について事細かに記されていた。
「実際に狩りを行った者が今回は四人で、一人当たりの分配基準額が二万五百四十リーブラになります。本来なら成果に合わせて基準額から増減させるのですが、御三方に纏めてお支払いするので計算は省略して、合計六万一千六百二十リーブラの報酬となります」
「おお~~、これで贅沢三昧の日々がっ!あ痛っ」
「阿呆か、贅沢なんかしてたら二月も持たんわっ」
コツンと隣にいた仁にチョップを入れられ、オルテンシアは打たれた額を抑えた。
「えぇ~、ちょっとくらい良いじゃない」
「あんまり羽目を外さないで下さいね」
「ゴホン…それで、内容の方はご納得頂けたでしょうか?」
ステラは少し緊張しているように見える。タチアナは助言すること無くステラをじっと見ていた。
「報酬額自体に文句は無いが…愛莉珠、内訳とか分かるか?」
「そうですね、肉や骨はよく分かりませんが、角の売価に関してはこのくらいで適当だと思います」
「すみません、肉類に関しては傷んだ分もありまして、安値で買いたたかれてしまいました。とりあえず収支についてはご納得頂けたとの事で、報酬の支払い方法に関してなのですが…」
「何か問題があったのか?」
「いえ、三人合計となると、六万一千六百二十リーブラとなりまして、千リーブラ金貨でも六十一枚になってしまいますが…大丈夫でしょうか?」
「あっ…そうか…すまん、そんな大金持ったこと無いから考えが及ばなかったな」
「いいじゃない。金貨が沢山でゴージャスだし」
「金貨を大量に持ってると、盗人に狙われたり、紛失したり、そうでなくても金持ちにたかろうとする人が寄ってくるのであまり持ちたくはないですね」
「ふーん、残念」
「では、手形か銀行券と言う形になりますが、銀行券ですよね?」
「そうだな、アネモス銀行か?」
「ええ、すみません。うちは輸出業までやっていないので、アネモス王立銀行のみの取引となってまして…」
「いや、アネモス銀行であれば他国にも支店があるから特に問題ないさ。一万リーブラの銀行券を四枚と、残金もこの国の貨幣でお願いできるか?」
「ええ、大丈夫ですよ。ただ、発券は明日になってしまいますが」
「流石に今日明日の金には困ってないから大丈夫だよ」
「そうですか、それで…ですね。逃げ出さないかと見張られているのも何なので、ジンが泊まっているこの宿に我々も泊まろうと思っているのですが…」
「ああ、それは助かるな」
「では、僕はジンと同じ部屋でお願いしますね」
「断固拒否する!」
ガタンと椅子を鳴らして立ち上がる仁。
「えぇ~、連れないですよ。ジン」
「という訳で、済まないが俺は他の宿を当たることになった」
そういって席を立とうとする仁を、愛莉珠が慌てて服を掴んで引き留めた。
「いえいえ、いいじゃないですか兄様、みんなで大部屋で泊まれば」
「それお前が側で見たいだけだろーが!」
「ジン様。私もご一緒させて頂きますのでご心配には及びません」
「え…いや…まあ、今まではタチアナと同じ部屋に泊まってたけど、なんかもう怖いって言うか…」
「大丈夫ですよ若様。怖いのは最初だけです」
タチアナが獲物を狙うような笑みを投げかけると、ステラは蛇に睨まれた蛙のように固まって脂汗を流し出した。
「…まあ飯だ飯。飯にしよう」
「そうですね。大物を仕留めた祝いとして、ここは僕が奢らせて頂きます!好きな物を頼んで下さい」
「やったー!んじゃまずビール!いっちゃん高い奴!」
「では、私も果実酒を…」
「こないだみたいに酔っ払うなよ」
「あれはフリですよ。兄様」
「…そうは見えなかったが…」
「ほらほら、ジンに精の付く物をじゃんじゃん持ってきて下さい!僕が手づから食べさせて上げますから!」
「いや、確かに肉は食べたいが自分で食うよ」
「えー!僕が食べさせて上げます!」
ワイワイと賑やかな会話をしながら食事の時間は過ぎていった。
・
翌日の午前中、大きな建物の前で仁達三人が会話している。
「それで結局、銀行ってなんなのよ?」
「うーん、なんて言ったらいいかな…送金や預金、金借りなんかが出来る所なんだが」
「大きな両替商みたいなものですかね?」
「ふーん。やっぱり二千年も経つと色々変わってるわね。食べ物も今の方が美味しいし」
「お前の場合は主にビールだろ」
「酒は文明の友って言われてるのよ」
「言ってろ」
しばらく話していると、建物のドアをぎしりと押し開け、ステラとタチアナが出てきた。
「お待たせしました。立ち話も何ですのでカフェにでも入りますか」
出てきて早速そう言うと、慌ただしく近場のカフェまで移動し、ここも奢りと言うことでおのおの好みの飲み物を注文した。注文した飲み物を待つ間にステラが話し出す。
「さて、早速ですがこちらが今回の報酬となります。確かめて下さい」
そう言ってテーブルの中央に10㎝四方くらいの4枚の厚手の紙と、重い物が入ったような布袋をガチャリと置いた。
「やったー」
早速オルテンシアが布袋をとり、中身を確かめる。紙の方は仁が手に取り、内容を確認してから一緒に置いてあった円筒の入れ物に丸めてしまう。
「公証人の証文入りだな。ありがたい」
オルテンシアは布袋の中身をみて、指さし数を数えている。
「ひーふーみー…」
「シア、そっちよりこっちの方が高いんだぞ?」
「なに言ってんのよ?そんな紙切れ」
「いや、さっき説明しただろ…この紙切れを銀行に持って行くと金に換えてくれるんだ」
仁は筒から銀行手形を1枚取り出すとオルテンシアに渡した。
「ほら、金額と受け取れる場所、公証人の証文が入ってるだろ?そして半券になってる」
「うーん、金額の他には色々契約っぽい事が書いてあるのがわかるけど…確かに途中で切れてるわね」
「偽造防止に半券になってるんだ。一致すれば額面を払い出して貰える事になってる」
「ふーん、こんなものがねえ」
「遊ぶなよっ」
ひらひらと紙を揺らしながら答えるオルテンシアから手形を奪い取り、再度筒にしまうと腰のポーチにしまい込んだ。
「はい、こっちも一旦没収です」
「ああ~、私のお金が~」
愛莉珠にさっと現金も回収され、オルテンシアは涙目になって別れを惜しむ。
「みんなのお金ですから。あとでちゃんとお小遣いあげますよ」
「約束よー?」
「お小遣い…ですか」
タチアナは苦りきった表情だ。
そこへ注文した飲み物が運ばれてきた。会話が途切れ、各自がそれぞれのカップを手に取り口を付ける。
「さて、これで一旦は仕事も終わりと言うことになりますが…どうですジン?ビエッラで、僕の家に務める気はありませんか?」
「ろくに生き物を殺せない俺が狩猟者か?冗談だろ?」
出来るはずが無い。という感じで仁は両手の平を上に向ける。
「いえ、大丈夫ですよ!今回も出来ましたし、きっとこれからも!」
「悪い、今回は少し訳があって引き受けたが──」
「おっぱいね」
「おっぱいですね」
「──訳があって引き受けたが、狩りを仕事にするつもりは無いんだ」
一部の突っ込みにくじけること無く仁は言い切った。
「そうですか…残念です」
「悪いな」
「いえ、おっぱいの無い僕が悪いんです」
「お前が巨乳だったらもっと引くわ!」
仁は思わず立ち上がり、テーブルを叩きながら抗議の声を上げた。
「あ…スミマセン…」
店内の他の客の注目を浴び、あわてて周囲に謝ってから席に座り直す。
「冗談ですよ」
「ったく、お前のは冗談かどうかわかりにくいんだよ…っと、そういえばタチアナさん」
「はい?なんでしょうかジン様」
「ほら、例の件でちょっと二人きりで話がしたいんだが」
「兄様…」
「例の件?」
ステラがタチアナの方を不思議そうに見る。
「兄様。私の前でそんな話をするとは命知らずにもほどがありますね?」
「いや、ちょっと話するだけじゃないか?何を言ってるんだ愛莉珠は…」
仁は愛莉珠から目を逸らした。
「うまく狩りが成功したら、ジン様にもご褒美を。という話だったのですが、どうやら可愛らしいお姫様の許可がおりないようですね。ですがまあ、次の機会があれば──」
「タチアナさんも悪ふざけはほどほどにして頂けないと、私、困ってしまいます」
「は……はぃ…すみません」
半眼になって低い声で呟く愛莉珠に睨まれ、タチアナも怖くなったのか素直に謝った。
「あぁ、残念ですがそろそろ行かないと」
ステラは懐から取り出した懐中時計見て席を立ち、仁の近くまできて手を差し出す。
「ではジン、心惜しいですが一時の別れです」
「ああ、色々世話になった…一時ってのが気になるが」
仁も立ち上がり、恐る恐る手を握り返す。
「ビエッラ地方に来ることがあれば、サメード家を訪ねて下さい。歓迎しますよ」
ステラは握手した手をぎゅっと握り、左手も添え両手で仁の手を包み込む。
「あ…あぁ…」
「むしろ今から一緒に戻りませんか?」
そう言ってステラは両手を胸に引き寄せようとすが、力任せに手を引き抜かれた。
「あっ」
「いや、これから俺たちもやる事があるので遠慮しとくよ」
仁は引き抜いた手をゴシゴシをズボンで拭いている。
「ほら、ジン様だけではなく、他の方とも挨拶して」
「はい…」
しょげたステラはおざなりに他の2人と挨拶をして支払いを済ませると、タチアナに押し出されるように店を出て行く。
「ジン!必ず来て下さい!必ずですよ!」
「ほらほら若様、次の仕事が待ってますよ。では皆様、次に出会えるまでご壮健で」
「ふぅ…やっと行ったか」
仁は疲れたのか左手で頬杖をつき、右手だけでだらしなくコーヒーカップを持ちあげて珈琲を一口飲んだ。
「冷めて香りもしないな…さて、今日はこの後どうするか」
「洗濯屋には行かないといけませんね」
「せっかくお金も入ったんだし買い物行こうよ!服もシミだらけになっちゃったし新しいのが欲しい!」
「いや、流石にシミくらいで買い換えてたら金がもたん。でもまあ、気晴らしにちょっと散財するのも悪くないかもなぁ…」
「飲み終わっちゃったし、商店の方と市に寄って帰りますか?」
「そうだな、どうせ今から洗濯屋に行っても明日と変わんないしな」
仁達は店から出て、商店が集まっている方に向かって通りを歩き始めた。
「そういえば愛莉珠は何か欲しいものあるか?」
「そうですね、エッチな人を真人間にする薬とか欲しいです」
「……頑張って探してみてくれ…」
「あははっ、仁からスケベを取ったらただの変態になっちゃうじゃない」
「それはちょっと…困るかも?」
「スケベを取って変態が残るってどんな奴だよ!」
「可愛い男の子とイチャラブしてた人に言われてもなー」
「してねぇ!してねぇから!」
「いえ、あれはとても良いカップリングでした!」
「愛莉珠正気に戻れ~~!」
「あははっ」
瞳をキラキラさせて語り出す愛莉珠は肩を掴まれ揺さぶられている。そんな二人を見ながらオルテンシアは無邪気に笑っていた。
空気はまだ寒気を含んでいたが、雲一つ無い空に高く登った太陽が陽気を放ちぽかぽかと暖い。そんな中、三人は楽しそうな会話を途切れさせる事も無く市場のほうへ向かって歩いていった。