儚き一生
誰だお前?
っていう超短編ミステリー。
俺はなぜここに居るんだろう。
年中暗いこの世界に。
わからないけど物心ついたときにはもうここに居た。
そしてずっと側にあるこの柱に掴まっていた。
柱には誰かが何かで叩いたのかあちこちにヒビが入ってる。
そんな謎の柱に掴まりながら俺はいっさいその場を動けずにいた。
たしかに足元にはなんだかネバッとしたような
オイルのようなモノが撒かれているような気はするが
トリモチや瞬間接着剤のような粘りではない。
それどころか虫の脚力でも歩いて逃げることはできるだろう。
この場を離れられないのはそれが理由ではない。
では何だというのだろうか。
てかそれよりもまず知りたいのは俺はなぜ、いつ、どこから、何の為に生まれたんだろう。
いくら考えてもわからない。
あんなこと、こんなこと、あーでもない、こーでもない。
そんなふうにあれこれと考えながら俺が覚えているだけでも
かれこれもうすでに5年はこうして柱に掴まったままここに居るのだ。
本当になぜなんだろう。
そういえば俺はこの柱も、この場所もいまにしてみれば離れたいと思うほど嫌いではない。
むしろこの、最近は年数が経ち薄汚れて物凄い臭いすら出てきたこの柱とこの場所とはすこぶる相性が良い気がする。
なぜなら年数が経ち汚れてくると汚れてくるほどなんだか俺は元気が湧いてくるからだ。
できればずっとここに居たいとすら思う。
だが今日・・・・
突然だが・・・・・本当に突然だが今日・・・
俺の命は尽きるようだ。
悲しい。
本当に悲しい。
本当に神様がいるのなら助けてほしい。
そんな俺の心を無慈悲に踏みにじるようにそいつは突然上からやって来た。
思わず俺は叫んだ。
「あ、あ、あ、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!!」
ザッバァ~ン!!
ジャッパーン!!
ジャジャー!!
断末魔の叫びもむなしく物凄い激しく泡を立てながら
大量に襲ってきた津波が俺を柱から引き剥がし
アッという間に俺を飲み込み死への世界と送り込んでしまった。
最後にその泡からいい匂いがしたのだけは覚えている。
こうしてよくわからない俺の人生は幕を閉じた。
それから数分後、世界には太陽の光が満ち溢れたという。
そしてこの世界に天使の声が響き渡った。
「キャーッ!!ママーッ!!お兄ちゃんよーっ!!お兄ちゃんが部屋から出てきたわよー!!」
~Fin ~
津波に流された奴が何者だかわかりましたでしょうか。
楽しんでいただけたら幸いです。