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狼シリーズ

当代

作者: 紫蘇原

 今日は厄日だ。

 下校途中に道端になんか空いてた穴にうっかり足突っ込んだらいきなり動物が二足歩行してしゃべり種族間で抗争を繰り広げるというメルヘンなのかえぐいのか分からない世界に迷い込み命からがら帰ってきた直後に最近付きまとわれていた悪霊チックな何かと遭遇し激しい戦いの末になんとか除霊し終えたところ不審者に捕まって神社の境内とか、最近でもあんまりないことだ。

「ただ話したいことがあるから茶でも飲んでいかないかと平和的に声をかけた奴に対してひどい言い草だが不審者という呼び方はなるほど神様より悪魔より的確な呼称かもしれない少なくとも日本語の中では三本の指に入るだろうしその慧眼と度胸に敬意を表し二杯目には特別にスズランを刻んで入れてやろう」

「……人の思考に長台詞で割り込んだうえに毒盛ろうとしないでくれる?」

アタシがそう言うと、この神社の御本尊はフンと鼻で笑った。美形なら絵になっただろうに、格好良いとか悪いとかいう段階ではなくもはやまっとうな生き物かどうかが怪しい外見をしているのが残念だった。顔はぎりぎり人っぽいし、神様としては正しい容姿かもしれないけどね。

「ていうかさ、話があるんならさっさと言ってよ。早く帰りたいんだけど。」

「お前が今日会った奴に関してちょっと今後の役に立つような話でもしてやろうと思ってな」

にやりと悪そうに笑って、不審者は言った。

「今日会った奴っていうと…さっきお祓いしてきたアレ?」

「ああいった付きまとってくるような類は無理に祓ったり消したりしなくても『さびしかったんだね、でも今日からはひとりじゃないよ』とか語りかけてやればほだされていいように使えるからそっちの方がおすすめだと言おうとしていた」

「そんなゲスいことしないから…。」

役に立つ話って何かと思ったらとんだ外道テクニックだった。

「言いたいことってそれだけ?」

「もう一つ外道でもゲスでもないまともな教訓めいた話がある」

そんなに付き合いが長いわけじゃないけど、こいつがまともな話をするなんて初めてだ。基本的に今みたいな妙なことや適当なことを言うのしか聞いたことがない。浮かせかけた腰をちょっとわくわくして下ろすと、話好きの不審神様は滑らかに語りだした。

「いつのことだったか、あるところに不思議な男がいた。その男のまわりにはどういうわけだか困りごとが集まってきた。そして彼は集まる不幸や不運、もめ事や事件の数々をすべて解決してのけた。しかもその速さが普通ではない。なんとたいていの困難をその日のうちに、長くても一週間以内にどうにかしてしまうのだ。悪をくじき困った人を助けこじれた仲をとりもち、名前も告げず去っていくそいつは、いつしか匿名君と呼ばれるようになった。誰も名を知らないが存在は広く知られ有名であり無名ではない、だから匿名。それに敬称をつけて、匿名君。さて、その匿名君、敬称が『さん』や『様』でなく『君』であることから察しているだろうが、まだ子供だった。しかし『どんなことでも即座に解決してしまう』という評判にひかれ、噂を頼りに人も人でないものも毎日のように助けを求めてやって来るようになった。量が多ければ処理するのに時間がかかるのは当たり前だ。多少遅くなったところで誰も文句は言わなかっただろうに、匿名君は今までと変わらないペースで解決しようとした。ほんの子供が毎日のようにこみいった問題に接し、早くなんとかしてやろうと神経を尖らせつづけた。どうなるだろうな。……まあ、想像の通りのことが起きた。逃げ出した。匿名君は、自分を頼るあらゆるものから逃げた。彼がどこへ逃げたのか、そもそも逃げ切れる相手だったのか、本人以外知る者はない」

語り終えてお茶を飲む神様に、ちょっと拍手をしてやった。

「確かにまともな教訓のある話だった。それで、話ってあと一つあるんでしょう? 何があったの?」

「………今の話聞いてたか?」

「うん、ちゃんと聞いてたよ。でもアンタがアタシを呼びつけるってことは、つまり何かあったってことでしょ。たまにお参りに来てやってもスルーするアンタがわざわざ通りに顔出して声かけるなんてよっぽどのことがあるんだろうなって思って。」

アタシがそう言うと、神様はあきらめたようにため息をついた。

「…昨日お参りしてきた奴が深刻でなおかつ心見透かすとかではどうしようもなく物理的なお祓いが必要なつまりおれの出る幕ではない悩み事を神頼みしてきた」

「それで人頼みしようか迷ってたと。」

「おおむねその通り」

「ふーん…。ほんとに迷ってたんだ。意外。まあそれはそうと、その悩みについて詳しく事情をお願い。」

「…そうだうっかりしていたお前はそんな奴だったな」

へっと馬鹿にしたように笑うと、御本尊様はアタシにその件について話し始めた。

       ◇

「そういや本当にアタシ以外にそんなトラブル体質っているの? 今日それっぽい人にあったけど結局違ったし。」

「それはともかく御本尊は仏像とかに対して使う言葉だからおれを形容するにはご神体という方が正確だよかったな人前で使って恥かく前に知れて」

「話そらさないでくれます?」


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