第9話「王国王城・暗躍」
インビジブルの魔法を使い、姿を消して街中を走る。姿を消しても、魔力と声は消せないのでその点は注意しながら進む。
ミノタウロスが消えたことで、消火活動が始まり、家族を探す声が夜空に響く。
「・・・これが、戦争なの・・・か・・・?」
戦争と災害による被害の傷跡の区別はよくわからないが。実際の戦争を経験してないので、何とも言えないが。
「どうしたの?」
「・・・僕がいたところは一応平和だったので、こんな風になるのは自然災害がほぼ原因でしたからね、テロ行為や略奪何てほぼなかったですし、あったとしても、災害に見舞われた地域に入り込む他国の人間がしてましたからね」
「そりゃそうでしょ?」
それが当たり前。と考える地盤がないんだよ・・・。
「・・・」
「・・・おかしなこと言ったかしら?」
「まぁ、せ、世間が違いますからね・・・」
世界がと言いかけて言葉を飲む。冷静に言い間違いを対処できたと思いたい。
「・・・そんなに平和な国に住んでいたの?」
怪訝そうな顔でこちらを見るが、日本の事を説明する気はない。説明しても話がややこしくなるだけだし。
「世界で一番平和。と言われてもおかしくないほど治安はよかったですよ。ですが、治安がいいからこそ、世界中から狙われるわけで」
狙われる原因は治安だけじゃないけどな。技術に製品、人すべてが他国にとっては垂涎の一品。
「なるほどネ、要は災害で防衛に穴が開いたからここぞとばかりに他国が侵略してくると?」
「よくわかりますね」
「まぁ、経験者だし?」
「ああ・・・隠れていいですか?」
「どうしたの?」
進行方向に勇者の一団を見つけた。言い争っているが、こちらに気が付いた様子はない。いくら姿を隠したとしても、魔法で探知することも出来るし、出来るだけ遭遇したくない。
身を隠せそうな適当な崩れかけの民家に隠れて様子を伺う。声は聞こえないが結論がまとまっていない様子で興奮した様子で言葉を交わしている。交わしているのかアレ?鎌のが弓に怒りをぶつけているように見えなくもないが・・・。
「勇者の一団です」
「・・・ひきつけようか?」
「・・・協力してくれるんですか?」
「祭壇は守られたし」
「ギブアンドテイクですか。方法は?」
「私を誰だと思っているの?」
アラクネだろ?・・・?
「え?」
「私はアラクネよ?一応、魔物の中ではそれなりに危険性があると認識されてるわけだし、姿を見せるだけでそちらに勇者を引き付けられるわ」
「却下の方向で」
「何でよ?」
「討伐されたらどうするんですか?もし、森にいることがバレたら森が危険になりますよ?」
「森からめったに出ないんだから大丈夫でしょ?」
「・・・」
個人的にはお願いしたいが、弓の勇者の狂信っぷりを見る限り、危険だから森を焼き払えと言い出しかねない気がする。そんな馬鹿な真似をする奴がいるのかと思うが日本でさんざん馬鹿を見てきた以上、できれば遠慮願いたい。非常識が歩いてると考えて出来るだけ無視するのが一番だが。
「他に手はあるの?」
「迂回します」
「・・・そう」
「弓の勇者の非常識加減を知れば危険な行動は避けたいと思いますよ?」
「勇者について詳しいのね」
「まぁ・・・、弓の勇者なら、森に危険な生物がいるなら森ごと焼き払え。といいかねませんよ?」
「さすがに、それは冗談でしょ?」
「残念ながら、僕が撃たれてますしね。「何?勇者に協力するのを拒むだと?魔王とかかわりがありそうだ。死ね」と」
「・・・マジ?」
「マジです。なので僕は勇者が嫌いですし、そんな勇者を野放しにする国王も嫌いですし。そんなわけで、関わりあいたくないんですよね」
「・・・」
「なので「なにぃ、馬鹿の乱れ撃ちが激しすぎてよけきれないだとっ!」って言って無視するのが一番ですよ」
「何それ?」
「手におえないってことです」
「へー・・・、勇者たちが動き出したわよ?」
斧、弓、剣の三名。鎌、楯、槍の三名。そして最後、魔導書の一人。の三組?に分かれて動き出した。どちらも向かう先は外。ミノタウロスの追撃だろうか?
「・・・通り過ぎるのを待っていきましょう」
「そう、それが・・・」
アラクネが怪訝そうな顔をしながら隠れる。
「どうしました?」
「いや・・・一人の勇者と目が合った気がして・・・?」
「・・・!」
背筋を冷汗が流れていく・・・。どうする、一人なら制圧も出来るが、無傷で制圧できるだろうか・・・?
「あ、あの、あ、誰かいますか?、ゆ、ゆうさ、さん?・・・ですか?つ、杖の勇者さ・・・さんといたよう・・・に、み、見えましたが・・・?」
城の一室で自己紹介したときもそうだが、コミュ障なのだろうか?ビクビクと怯えながら話しかけていくる。
「・・・そうよぉ?」
建物の影から姿を現すアラクネ。『インビジブル』の魔法が既に切れていたのか・・・?
「・・・?あ、あれ?」
一瞬アラクネの姿に驚くものの、逃げ出したりしない。危険生物でも、日本ではファンタジーの中にしか存在しないから危険度が掴めない。
「どうしたのよ?」
「ごごご、ごめんな、さい。幽霊とは・・・おもっ、思わなくて・・・やっぱり、つつつ、つえの勇者さんは・・・亡くなりに・・・?」
「・・・?」
「あなた、私の姿が見えてるのよね?」
「!」
そっと顔を半分だけ出してみると、首を縦に振っている。首取れて射出できそうな勢いだ。
「つ、つ、つえの、勇者さん、ごめん、なさい・・・弓のゆ、勇者さん、止められなくて・・・つえの、死なせ、ちゃって・・・」
・・・魔導書の勇者はどうやら半透明にでも見えているのか・・・。死んで幽霊になったと思っているのか。利用できないかと思ったが、涙を浮かべて俯く魔導書の勇者を見ると、罪悪感にさいなまれる・・・。彼女が何かしたわけでないしな・・・。
「気にしないでください、弓の勇者をぶん殴りに来ただけですから」
「え、ええ・・・?・・・そ、そうで、すよね、ごめんなさい・・・うっく」
更に泣き出した。・・・どうしよう。
「アラクネさん、どうすればいいでしょうか?」
「そこで私に振る?ってか、やっぱ勇者だったか・・・」
「気が付いていたんですか?」
「何となく」
「・・・そ、その、つえ、杖の勇者さんは・・・これから・・・?」
「ああ、一応まだ動き回れるので、この姿でも元の世界に戻れないかと思いまして」
「も、もどれるの・・・かな・・・?」
「幽霊でも出来ることはありますしね?」
「・・・さっ、さっき、ミノ、ミノタウロス・・・倒したの・・・?杖の・・・だよね?」
「・・・自滅したんですよ。密集してたので、互いの武器で殴り合って。魔法生物らしいですから、死体になるかわかりませんが、街の外れに四体分の死体?があるはずですよ今はまだ暗いですし、朝になってから確認したほうがいいかとおもいます」
「そ、そう・・・ま、しょ、召喚士さんのところまで、あああ、案内しよう、か?」
罠だろうか?
「お気遣いなく。こんななりですし」
「で、でも、でも、ゆ、幽霊に、なったら、普通の人は、か、会話、ででで、出来ないんじゃ、ないかな?」
新たな問題発生ー。確かに、幽霊は普通の人には見えない、聞こえない、触れない・・・。アラクネさんがジト目でこちらを見るが、どうしろと?
魔導書の勇者も見殺しにした罪悪感からこんなことを言っているのだろうし、無下に扱うのも躊躇われる。
「・・・八方美人」
「ええー」
「め、め迷惑、かかな・・・?」
「すいません、お願いします」
「う、ん。つつ、ついて、きて」
魔導書の勇者の後を付いていく。通り過ぎる人は魔導書の勇者には反応するが、後ろにいる、自分とアラクネには視線を一切向けない。
少し気になったので、アラクネに小声で話しかける。
「・・・『インビジブル』ってどれくらい持つんですか?」
「魔力量に比例するわ。並外れた魔力を持ってるあんたなら数時間軽く持つんじゃないかしら?普通は10分前後」
大丈夫だろうが、念のためにどこかでもう一度『インビジブル』を使っておきたい。前に魔導書の勇者がいるために、下手に魔法は使わないほうがいいのだが・・・。
「・・・そういえば、先ほどほかの勇者は何か言い争っていたようですが?」
「え?ええとね、・・・つ、杖の勇者を、うう、撃ったことを、か、かえ・・・鎌の勇者が、怒ってたの」
「なんでまた・・・?」
「ゆ、弓の勇者は、杖の勇者が、ま、魔王と、つながりが、ある。って決めつけて、それで・・・」
「ああ、将軍の言葉を鵜呑みにしたんですね」
「で、で、でね、・・・」
「どうしました」
「つ、杖の勇者が、へ、兵士を殺したのは、ま、魔王の、力の、一部を使った、から、だって・・・」
弓の勇者はどこまで馬鹿なのだろう?
「普通に魔法で殺したのですが」
「ふ、ふふふふう、普通・・・?」
驚いて魔導書を取り落とした。本を拾い、勇者に渡す。渡してから気が付いたが、幽霊は普通触れないだろ・・・?
「あ、ありが、と・・・。わ、わた、私も、殺したり・・・する?」
「しませんよ。殺す理由がないでしょう?兵士たちは、僕を殺そうとしたので、自分を護るために殺したんですよ。正当防衛ですね」
「せ、正当、防衛なんだ・・・」
「魔導書の、貴女は僕を殺そうとしますか?」
首を横に振る。
「なら、僕もあなたを殺そうなんて思いませんから大丈夫ですよ」
「ほ、本当・・・?」
「ええ、ですが、貴女も、この国から出る事を考えて置いた方がいいと思いますよ」
「う、うん」
肯いてから、歩き出す。
城に入ってからは彼女は無言で歩いていく。迷うことなく進み、やがて、先ほど、自分と将軍が戦闘を繰り広げた廊下を通り、客室にたどり着く。
普通、城という物は外敵が侵入してきても迎撃しやすく足止めなどもしやすいように作りこまれているはずだが。
「こ、ここに、杖の勇者に抱き着いた、召喚士さんが、い、いるはず」
抱き着いたわけじゃないんだけど・・・。
魔導書の勇者が扉を開けて中に入る。僕とアラクネが入ってから扉を閉める。
「ふぅ・・・」
魔導書の勇者がベッドに近づき、殺気!
「きゃぁ!」
ベッドから突然の攻撃。剣が布を突き破り、胸元に抱えていた魔導書に弾かれる。あの本物理攻撃に対抗できるのか・・・。
「彼女の胸の弾力のお蔭で剣が弾かれたのかしら?」
「今そこでセクハラを言うところですか!?」
ベッドの中から現れたのは魔法召喚師ではなく、全身黒づくめの人間。暗殺者か?
「・・・あれ、杖の勇者じゃない・・・?なぜここに?」
「・・・?」
「杖の仲間なのか・・・?」
違う、気が動転して言葉を紡げないだけだ。いきなり剣で斬りつけられたのだ、普通な動く事すら出来ない。それでも、危険を感じて床を這う彼女の行動に声を上げようとしたが、アラクネに止められる。
「待ちなさい」
「・・・!」
眼だけで不満を訴えるが、アラクネは却下し、行動を阻害する。
「あいつがここにいたって事はこちらの動きが読まれていたってことよ?」
「それがどうしたんですか?」
「罠だったかもしれないわ」
「彼女は斬りつけられてるんですよ・・・?」
「演技の可能性は捨てきれない、あの男の言葉で見極めないと、皆が死ぬわよ?」
死ぬ。という発言に冷静さを欠いたこと反省し謝る。
「すいません。軽率でした」
「あの男なら目的の人物の行方も知っているはずよ。生かしてとらえるのがベスト。あの女はケースバイケースで」
暗に見捨てる事も視野に入れているのだろうが、こちらからしてみれば、問答無用で助けに入る所だ。
同じ日本人。この世界の人間と比べればどちらを選ぶか当然のこと。
「そこまでにしておいたらどうだ?」
『グラビトン』
重力を増加させ、男を床に押し付ける。
「まったく、人がせっかく暗示をかけて操り人形にしたのに強い衝撃を与えると解けてしまうではありませんか?」
「え、ええ?」
『スリープコール』
魔導書の勇者を眠らせて男を見る。重力の範囲から逃れようと床を這うが、その動きに合わせて効果範囲を広げる。
「・・・魔法召喚師さんはどこへやった?」
「言う、と、おも、うか?」
「どこだ?」
「知ら、ない」
『魔刃鍛造』
ナイフを作り出し、男の上に放る。
「が」
重力に従いナイフが男に刺さる。
「どこだ?」
「し」
更にナイフを追加。今度は二本。男がこちらの質問の答え以外を答えるたびに数を倍に増やしていく。
四本。八本。一六本。三十二本。全てが刺さっているわけではないが、床に突き刺さったナイフもいくつかある。
「さて、これ以上は刺せないので、ナイフの熱量を上げていきます。どうなるか、おわかりですね?」
「し、しらない・・・」
「本当に?」
「本当、だ、本当に、知らないんだ・・・暗部の、人間が連れて行って、俺たち下っ端は、ただ、命令されたことを実行するだけだ・・・」
「知ってたじゃないですか」
「え?」
「暗部。そいつらの元まで案内してください」
「で、出来ない、そんなことすれば、殺される」
「何をバカなことを言っている?お前が死ぬことはすでに決定事項だ。今、ここで僕に情報をすべて吐き出して死ぬか、暗部に殺されるかの違いだぞ?」
「そ、んな・・・」
「もっとも、今ここで情報を吐き出すならこれ以上の苦しみはなく、あっさり死ねるぞ?だが、暗部に・・・ああ、そうだな、僕が求める以上の情報を出しせば、お前が生き残っても大丈夫なんじゃないのか?」
男の顔に疑問符見える。
「暗部を潰すのは僕だから、たまたまここで待ち伏せしていたお前が生き残っても大丈夫じゃないのか?」
男の顔が歓喜に染まる。・・・おかしいだろ。コイツ。頭大丈夫か・・・?
「ああ、なんでも話す、答えられる事はなんでも、なんでも聞いてくれ!」
「まず、暗部の奴らはどこにいる?」
「城とは別の場所にいる・・・」
・・・情報の精度を確かめなら質問を投げかけていく。
メイド達よりも早く魔法召喚師を連れ去ったようだ。おそらくだが暗部の拷問施設に送られた可能性が高いので拷問を行っている暗部の人間と戦闘になる可能性がある。
影猫を走らせて暗部の拠点を探す。消火活動の騒ぎの中で人気のない場所へ向かう人間がいた場合後を追い確かめる。暗部の人間もすべてではないが情報の錯綜する中で正しい情報を得るために人間を動かさなければならないはずだ。
「よし、いいか、お前は俺に剣を振るったが、返り討ちにあった、精神支配の魔法を喰らってすべてをしゃべってしまった。いいな?」
「ああ、大丈夫だ」
『スリープコール』
男を眠らせてアラクネから糸をもらい、縛る。男はベットの横に転がして、魔導書の勇者の手だけを縛っておく。
「緊縛プレイが楽しめそうな胸よね?」
「ちょっと黙っててくださいな?」
「でも、あなただって彼女の胸凝視してたじゃない?」
「見てたのは魔導書ですよ?」
背後に張り付き横からジト目でこちらの顔を見る。
「なにしてるんですか?」
「当ててんのよ?」
「・・・」
アラクネの胸は魔導書に比べて控えめだ。それでもある方だが、魔導書が巨乳なんだろうな。うん。
「失礼なことを考えてそうだけど・・・?・・・いいの?彼、裏切るかもしれないわよ?」
「構いませんよ。彼がどう動こうが、此方の行動が終わった後です。「杖の勇者が魔導書と暗部の人間を精神支配する魔法で操作した」という情報が相手に残ればいいわけですし」
「・・・よくわからないんだけど?」
「精神支配する魔法があるなら、戦力を小出しにしても操られて敵の戦力になる可能性があります。生半可な戦力も論外。なると、戦力をぶつけない方法でどうにかするしかない。その手段があるとしてもすぐには準備できないはず、あとは事が露見する前に電光石火で終わらせるだけですよ」
これでようやく、魔法召喚師から話を聞ける・・・。
杖の→魔法による召喚を行う人→召喚師
本の→召喚専門の人→召喚士
という認識です。