第20話・「歌姫の迷宮・迷宮という存在」
遅くなりました、新年あけおめ、そして初めての更新です。
仕事もようやく落ち着きを取り戻し始めて通常営業です。
転移した先は特に何もない石造りの部屋だ。唯一床に転移の魔法陣が描かれているくらいだが。
「ここは?」
「転移用の部屋。ここから外に直接出れるし、転移で入ってきた場合もここに来る」
「・・・転移魔法ってかなり高度なはずなんですけど?」
「短距離転移なら、迷宮守護者の魔力で簡単に移動できるらしい。・・・ハルピリアは周辺の森からならここへ出られる」
通路を抜け、最奥にあるハルピリアの私室につく。迷宮の最奥のはずだが、場違い。という印象しか受けない部屋に出る。
「ここ、どこですかね?」
「迷宮守護者専用の部屋?」
「明らかに女の子、低年齢の子ですよね?」
「ハルピリアさんはこう見えて13歳ですよ?」
見えませんね~。とつぶやきながら二人してハルピリアの動向を眺める。部屋に入るなりベッドに飛び込んでいる。小動物さながらだ。
「・・・人間と魔物の精神年齢ってすごい隔絶がありますね」
「クロードさん幼女大好きだから問題ないでしょ」
「幼女大好きってなんですか」
「言葉通りですよ、お嬢様のためなら死ねるでしょう?」
「まぁ、お嬢様のためならいくらでも」
「・・・駄目だ、せっかくボケてんのにツッコミないとか・・・」
「は?」
「さて、ハルピリア、迷宮核の調子はどう?」
部屋の隅に置かれている核を起動して迷宮と周辺の状況を探る。
「ん~、変な人が多いかなぁ~?」
「変人筆頭がここにいるんですけど」
「何、クロード自分から変人って自己紹介とか何企んでる?」
「いや、アーヤでしょ」
「そこまで変かな?」
「自覚ないんですか?」
「あった人の8割位は変わってるっていわれるね!」
「疑う余地がないですね」
「で、ハルピリア、変な人って?」
空中に映し出される迷宮内部と周辺。
「出口に人が集まってるの」
ハルピリアに指摘された位置に20人近い人間がいる。
「・・・僕狙いですかね・・・」
「だと思うの。だから迎えに来たんだけど」
「ありがとう、ハルピリア」
「あと、魔力も補充してほしい」
「ええ」
迷宮核に触れて、残りの魔力をほとんどつぎ込む。
「・・・だいぶ容量も増えたようですね?」
「うん」
「・・・あの、アーヤ、何してるんですか?」
「迷宮核に魔力を溜めてるんですよ?」
「・・・そんなことして大丈夫なんですか?」
「わざわざ魔法使って魔力使わなくても魔力増やせるので」
「・・・魔力ってそんな譲渡して大丈夫なんですか?」
「大丈夫みたいです。それに魔法使わずに済むので楽ですよ?」
「・・・」
「迷宮核についてはクロードの方が詳しいのでは?」
「まさか、迷宮核についてなんてほとんど情報ありませんよ、『壊すと迷宮が崩壊する』程度の情報しかありません」
「・・・そうなんですか?」
「うん、そだよー。迷宮核がないと迷宮の維持が出来ないんだよ」
だから迷宮核は守護者を選んでその人に守ってもらうの。と続ける。
「・・・迷宮核に意志でもあるんですか?」
「違うよ、迷宮核に組み込まれてるんだよ」
「・・・?」
「アーヤ、迷宮核について知っていることは?」
迷宮核。と言う名前の通り。迷宮の核。すべての迷宮に設置されている。
魔力を用いて迷宮を作り上げる。迷宮核に溜めれる魔力は迷宮核の強度にも影響するため、魔力は溜めた方がいい。が、魔力を使い、迷宮に魔物、罠などをを生み出す。
作られる迷宮は守護者の趣味が反映される場合が多い。
「ぐらいですかね」
「一般人と同レベルじゃないですか」
「ハルピリア先生!説明お願いします!」
「いいよー」
迷宮核は破壊された場合、再生可能。持ち去られた場合は、迷宮の崩壊。だけではなく、周囲の環境汚染を引き起こすので、絶対に迷宮から出してはならない。持ち去られた場合は速やかに新たな核を用意する必要がある。
「別に核が用意可能なのですか?」
「作り方知らないけどね!」
「意味ないじゃないですか」
「高濃度の魔力結晶体がいるんだよ?でも、それを用意できる人がいないから。アーヤの作った魔力結晶体は、魔力汚染を引き起こさないように低濃度にしてあるから」
「アーヤ、何作ってるんですか・・・?」
「いや、ほら、魔力結晶体って結構良い値が付くから、緊急時に為にお金は用意しておいた方がいいかと」
「まぁ、それなら、確かに・・・で、いくつぐらい売ったのですか?」
「ギルドで一応、鑑定中。ここの迷宮で拾ったって言ったんだが、あまり信用されてなくて・・・濃度が高すぎるんだと・・・」
「それで、鑑定に時間がかかっていると?」
「ああ、濃度が低いものは換金も容易だったけど、最初に持って行ったものがランク付けられないくらいだったらしい・・・幸いサイズ的にすごく小さいのを持って行ったからそこまで問題にならなかったが、濃度が高く欠片扱いだから、本体を探してくれってことで、保留された」
「・・・それは確実にアーヤが魔力結晶体を隠してると思われてますよ」
「まじ?」
「ええ、ギルド・・・いえ、魔法を扱う物なら、魔力結晶体、特に高濃度になれば用途は多数ありますからね」
「・・・マジか・・・なら、高濃度の魔力結晶体を用意できれば迷宮核を作れるのだろうか?」
「こっちの技術じゃ無理かなー?」
「こっち?」
「魔界に持って行けば作れると思うけど」
「まかい?」「じゃ、天界とかもあるの?」
「アーヤ、天界って」
「あるよー」
「・・・」
クロードの眼が見開かれる。
「どうしたクロード?」
「理解が追いつかないんですが・・・魔界と天界って何ですか?」
「魔界は魔界だよ?私たち魔物って呼ばれる人達が住んでるの」
「天界は天使ですか?」
「そだよ、創主の命令で、それぞれの世界でそれぞれの仕事をしてるんだよ?」
「・・・この世界は神が作ったのではないのですか?」
「凄いですね~」
「さぁ?神って呼ばれる人達がいるのは大昔だったけど、今は創主の命令の元だったけど・・・暴走した創主達は互いに消滅させ合って、最後の命令『世界を守る』って命令しか今は残ってないよ?」
「うん?」「魔物は世界を守るために行動していると?」
「天使もそうだよ、天使は規律に厳しいから信仰を重んじる人にしか姿を現してはならないって制約を守ってるし」
「魔物は違うのですか?」
「天使は導くのが仕事。私達は、大地を守るのが仕事。迷宮は瘴気を魔界に送って、魔界で浄化された魔力を人間界に戻してるの。その際、物質化した方がいいから迷宮の宝箱から薬とか武器が出て来るんだよ」
「「・・・」」
「アーヤ、何言ってるかわかります?」
「なんとなく」
「じゃ、理解出来ないので他の部屋見てきます」
「おい、一人にしないでくれ、理解どころか脳が溶ける」
「嫌ですよ、そんなわけわからない話に巻き込まないでください。私はお嬢様の一生を安寧に過ごせればいいんですから」
「魔王出てきたらそれどころじゃないでしょー」
「勇者が何とかしてくれますよ」
「丸投げかよ、いくなー」
無情にも部屋を出ていくクロード。
「・・・?」
ハルピリアは説明を続ける。
何とか要点をまとめてわかったことは。
1世界は天界、人界、魔界に分かれている。
2天界はほぼ変化がなく、人界で重大な問題が起こった場合それに対処する。対処の内容は基本的に技術の破壊、人の破壊。
3魔界は瘴気を使い世界を浄化している。魔界の方が食糧事情などの生活水準は人界よりもはるかに高い。ただし、瘴気がないと維持できないため、人界の瘴気を迷宮から送り、浄化された魔力を人界に戻している。
4天界は天空都市や天空城といわれる空にある城から行ける。ただし、全員ではない。
5魔界は迷宮から行ける。迷宮守護者の許可が必要。ただし、魔界は瘴気がすごいので普通の人間が行っても汚染される可能性あり。
「・・・なんだろう、すごく、疲れました・・・」
ハルピリアの説明をまとめてから、床に横になる。
「もー、ソファーに座ってよー。邪魔」
「酷い。僕がソファーとか創造したのに!?」
「作ってくれてありがとー、なので使って」
にっこりと邪魔だどけというルビが見える笑顔でのくように言われる。
仕方がないのでソファーに座る。
ソファーに座ると、残念ながら空中に迷宮の状態が表示される。
「・・・やりますよ」
迷宮の状態をチェック。まずは、瘴気を利用して生成している魔物のチェック。瘴気によって本物そっくりに作られた魔物。本物の魔物には核がない。瘴気によって作られた魔物は本物そっくりだが、人形でしかない。意志は宿らない。
はずなのだが、このミミックには宿っているかのようなふるまいをする。なんで僕にかみついてくるんだ。
「どうしたんだミミック」
「んー、魔力が欲しいんだって」
「いや、既に吸収してますけど?」
「さっき変な魔力を食べたから口直しだって」
「美食家かっ!」
「アーヤの魔力美味しいから仕方ないよ~」
ミミックを膝にのせてニコニコと笑う。
「魔力結晶体を食べればいいでしょう」
「あれ、結晶化してるから溶かすのが・・・それに、人間の食事美味しいし!ギルドで食べ物の依頼だしてもらってるし!」
「何してるんですか・・・」
「受付のお姉さんに見てもらってるから大丈夫!」
大丈夫な部分が見つからない。
「・・・あとでギルドによるべきか・・・」
「ギルド証あるから大丈夫!」
「なんで持ってるんですか!」
「受付のお姉さんに言ったら発行してくれたよ?」
「・・・魔物に発行して大丈夫なのか・・・」
「普段から迷宮に潜ってるって言ってるし大丈夫じゃないかな?」
「・・・ハルピリアは、腕どう説明したんですか?」
ハルピリアは典型的なハーピィの容姿だ。まず、薄い桃色の髪に、黄金の瞳。少女といえる姿に、腕の部分からは翼が生えている。翼は新雪のような純白。すらりと伸びた足はふくらはぎあたりから鳥のようになっている。
「足は靴で隠せると思いますけど、腕はどうしているのですか?」
「アーヤの幾つか作ったローブで隠してるよ?」
「・・・隠せてるのか?」
「大丈夫!ばれてない!」
「・・・」
ばれてなくても、見た目から可愛いのだから人攫いに狙われてもおかしくはない。・・・ましてや、白い狼の子供を攫って売りさばこうとしてる人間がいるのだ。警戒しなければならない。
「ハルピリア・・・ギルドに来るときは何か言ってくれ、危ないだろう?」
「そうかな?ギルドの人達、とってもいい人だよ?」
「ギルドの人はな・・・」
「そういえば、何をギルドに持って行ったんだ?」
「アーヤが作っていたナイフ」
・・・作ったか?と思ったが作ったな。魔力結晶体で投げナイフとか作れないかと大量に作ったんだった。迷宮からのドロップにも置いてある残りは・・・桁が多いからまだいいだろう。ここら編すごいよな。一度原型になるものと素材を用意すれば迷宮内部で生成できるのだから。
脱線していたが、迷宮の魔物については問題ない様子。いくつか進化している魔物がいるが・・・。
迷宮核に蓄積された情報をもとに進化していると説明が出た。AIか。もしくはアルターエゴなんじゃないのか?といいたくなるが・・・。やめよう。
「ストックされている薬、武器についても同様に問題はないようだね。生成効率もそこまで上げてないし。魔力結晶体は・・・保管場所が足らないから増やせないし」
「食事の種類増やしてください」
「というか、クロード遅いな」
「食事~」
「後でね」
一応、魔界の食材をハルピリアに出してもらったので、地球の料理で再現できそうなものは大半再現した。おそらく、この世界で一番の美食家はこのハルピリアに間違いないだろう。
「クロードは何処だ」
クロードのいる部屋が映し出される。武器庫で真剣に武器を見ている。
「武器に目がないのか?」
ハルピリアの私室を出て、武器庫へ。
「クロード、何してるんですか?」
「ああ、アーヤ、すいません、ここにある武器が凄かったもので、つい・・・初めて見る形のものが多数ありますが、どれも一級品なので・・・」
「欲しければ持って行けばいいぞ」
「は?」
「ここにある武器は全て僕が作ったものだから」
「はぁぁ?」
驚きすぎだろう。
「なんでこんな武器つくれるんですか・・・?」
「奥に工房もあるし。素材も大量にあるからな。あと、僕の使える魔法は事前の準備が重要」
魔刃鍛造もその場で作れるが、魔力がなくなれば形を維持できなくなる。なので、予備として用意している。
影鬼も魔力を自分から切り離して作っているわけだから事前に用意しておかないと出し入れできない。
「そんなこと言うと、真剣に選びますよ」
「いつでも作れるしどれでもいいと思うんだが」
「・・・武器と防具は自らの命を預けるものですよ、真剣に選ばない人間は早く死にます」
「・・・ごもっともで」
数十分かけていくつかの武器を選んだ。今度までに楯ぐらいは用意しておいた方がいいかもしれない。
「さて、ハルピリア、食事にしますか?」
「わーい!」
机に突っ伏していたハルピリアが途端に元気になる。
「・・・可愛いですね」
「だろー?幼女大好きなクロードには最高だろ!」
「お嬢様にアーヤが幼女って呼んでたと伝えておきますね」
「すいません、許してください」
ハルピリア「アーヤ・コラプサーの幸せレシピ」
アーヤ「そのネタはいろいろとらめぇっ」




